第4話 モンスター召喚

「急にチュートリアル的な展開になったな。どうした?」

「いえ、なぜだか使命感のようなものが働きまして……」


 俺の膝の上に頭を乗せたクリスが難しい表情を作っている。これも初回特典の恩恵、いや、見えぬ力が働いているんだろうか。まあ、俺としてはスムーズに説明してくれるのは、大変ありがたい事だから構わないけどさ。


「ダンジョンマスターとして生きていくには必要だろうしな。じゃ、そのステップ1とやらを教えてくれ」

「マスターも現状を受け入れる力が凄いですね。普通、もっと混乱するものらしいですよ?」

「記憶がないせいかな? まあ、混乱するより今を受け入れるのが先決だろ。何よりここは大海原の上だ。どうにかしないといずれ死ぬ」


 時間はあるが、その他にはこのイカダしかないからな。台風にでも遭った日には、その場でジ・エンド。正直、このダンジョン創造のスキルとやらが最後の生命線である。だから俺も必死なのだ。海の上でダンジョンという場違い感が凄いけど、何とかするしかない。


「では、モンスターを召喚する画面に切り替えますね。あ、今更で申し訳ないのですが、マスターがこうしたいと思い描くだけで、このメニュー画面も切り替わりますよ。実際にやってみますか?」

「お、それは便利な機能だな。どれどれ」


 カモン、モンスター! と、無駄に横文字で呼び掛けてみる。こんな雑な呼び出しにもメニューは対応しているようで、ビビッと切り替わってくれた。


=====================================

召喚可能なモンスター一覧

・ゴブリン(10DP消費)

・スケルトン(15DP消費)


⇒新たな種族の解放へ

=====================================


 うん、大体勝手が分かってきた。仮にこいつらを召喚すれば、さっきの通常モンスターの枠に当て嵌められるって寸法なんだな。で、今の状態では五体が限度、と。なるほどなるほど。


「ゴブリンとスケルトン以外のモンスターを召喚するには、新たなる種族を解放して召喚する権利を購入しなきゃいけないって事だな? 五体以上のモンスターが欲しい場合も同じで、召喚する枠を買う感じか」

「その通りです! マスター、飲み込みが早いですね!」

「ハッハッハ! 記憶はないが、ゲーム的な知識は無駄にあるみたいだ!」


 しかし、ゴブリンにスケルトンか。これまたゲームだといかにも序盤で出てきそうなモンスターである。戦力になるんだろうか?


=====================================

ゴブリン

HP :50/50

MP :0/0

筋力 :D--

耐久 :D--

魔力 :F+

魔防 :E

知力 :C-

敏捷 :D-

幸運 :E+

スキル:器用D

スキル:なし

スキル:なし

装備 :ボロ切れの腰巻き

=====================================

スケルトン

HP :65/65

MP :5/5

筋力 :D-

耐久 :D+

魔力 :E++

魔防 :F-

知力 :E+

敏捷 :E

幸運 :E

スキル:死者の復活D

スキル:なし

スキル:なし

装備 :なし

=====================================


 うん、やはり便利だな。少し疑問に思っただけで、モンスターのステータスを表示してくれた。だが、これは……


「なあ、クリス。ステータスってFが最低、Aが最高って意味で合ってるか?」

「ええ、大体はその認識で大丈夫ですよ。ただ、最高はSになりますけど。ほら、私のスキルを見てください! スーパーメイド、最高のSです!」

「ほう」


 そのスーパーメイドとやらがどんなスキルなのかは知らないが、スキル横にある英字はやはりランクを表しているものなのか。うーむ、そいつを吟味したとしても、ゴブリンとスケルトンはかなり貧弱だな。筋力や耐久だけはクリスよりも優れているけど、それ以外は全体的に劣っている。何かあったとしても、当分の間は俺とクリスが主力になりそうだ。


「クリス、お前はとても優秀なメイドだな」

「えっ、そ、そうですか? えへへ」


 褒められて照れ臭いのか、クリスは頬を赤くしながらはにかんだ。それを誤魔化すように、次の説明をしようと早口気味に話し出す。


「えっとですね、更に細かくいえば、ステータスはプラスやマイナスの表記も加わって5段階あるんです。D++の次がC--、そのまた次がC-といった具合です。私やマスターは経験を積む事で能力を伸ばす事ができますが、先ほどの通り通常モンスターは一切変化しませんのでご注意を。逆に、老いによるステータスの減少もなくなるんですけどね。そこは羨ましいです」

「え、歳を取ると減るのか?」

「種族の寿命にもよりますが、減るのが一般的ですね。中には成長をし続ける方もいらっしゃるようですけど、本当にレアケースですよ」


 考えてみれば当たり前の事だけど、視覚的にステータスが見えちゃう分、減り始めたらショックだろうなぁ…… 俺にとってはまだまだ先の話だろうが、そうなれば絶対にくじける自信がある。


「じゃ、モンスターを召喚してみるか。クリス、何か注意点はあるか?」

「そうですねぇ…… ステータスの知力には注意して頂きたいです。知力が高いと細かな命令にも忠実に従ってくれますが、あまりに低いと単純な命令しか理解してくれませんから。最低値のFだと、最悪命令を聞かずに暴走してしまう可能性もあります」


 うわ、そいつは悲惨だ。特にここは狭い狭いイカダの上なんだ。絶対に注意しておこう。


「……スケルトンも知力E+でかなり低いけど、大丈夫か?」

「暴れる事はないと思いますが、単純な命令しか聞いてくれないでしょうね……」

「そうか。なら、まずはゴブリンから試してみよう」


 メニューを召喚可能なモンスター一覧に戻して、ゴブリンの項目をポチッと押してやる。DPを10消費、これが高いか安いのかはまだ分からん。


「―――ゴッブ!」


 それからクリスが出てきた時と同じ光がまた現れて、今回は早目にゴブリンを召喚してくれた。サイズにして俺の腰ほどもない、緑肌の小人。顔は…… まあ、見方によっては愛嬌のある顔か。残念ながら言葉は話せないようで、ゴブゴブ言っているだけだ。感情がないらしいし、そんなもんなのかな? そういや、このゴブリンもスキルに何か持っていたな。念じてみる。


=====================================

スキル:器用D

 道具の扱い、細かい作業などに向く技能。Dランクであれば一通りの武器が使えるし、釣りといった趣味の道具を扱う事も可能。針の穴に糸も通せる。

=====================================


「おお、ゴブリンやるやん……!」

「ゴブー!」

「その表記通り、ゴブリンなら剣だって弓矢だって使えますよ」


 ステータスは低いけど、運用の仕方次第ではかなり活躍してくれそうだ。普通、唐突に弓矢を渡されたって困るもんじゃん。それを文句も言わずに使ってくれるんだぞ? おまけに釣りまでしてくれる。おお、我がダンジョンの食糧難に光が差してきた。


「だが、肝心の釣り竿がないんだよなぁ。餌もない……」

「マスター、そこでステップ2です! DPを使ってアイテムを購入しましょう!」


 クリス、チュートリアルが板に付いてきたな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る