第5話 サクラが来たもう一つの理由

先程までは張り詰めた顔をしていたヴァルケンも観念し、執事兼護衛の顔ではなく、一人の男、ヴァルケンとしてサクラと話し、サクラも当然一国の姫ではなくヴァルケンを昔から知る一人の人間、として話していた。その様子を見てユキは「たまにはいい事言うわね、いつもそうしてくれたら私も気が楽なんだけど?」と言ってきたので「私はいつも通り小馬鹿にしただけだが?」と返した、するとユキはクスリ、と笑いそうね、と返答し2人の談笑を眺めていた。そうすると私はある事を思い出し、2人に向けて「そういえば先程カスドース、と菓子の名を紹介したが…本物とは少し違う、有り合わせの物で作ったからここは私がひとつ意味を付けたいと思う、これは君達にピッタリだと思うが…甘みが口に残ること、そしてこの菓子が金色、では無いが濃い黄色と砂糖で輝いて見えることからあの美しい姿は忘れない、という意味を込めようと思うがどうかね?」と私が言うとサクラは「とても素晴らしいと思います」と言った。

それからしばらく2人の談笑は続きそうだった為、私はユキにタバコを吸うことを伝え、外へ出てタバコを済ませ、店に戻るとサクラが真剣な眼差しでユキと何かを話しており、ヴァルケンも普段よりも厳しい顔でその話を聞いていた。どうやら何か…簡単に済む話では無さそうだと思いながらカウンターの定位置に戻るとサクラから

「マスターさん…不老不死、についてどう思いますか?」と聞かれた為「…どの世界、国、人種問わず人間が追い求めるものの一つ、だな」と無難な回答で答える。サクラは続けて「…仮に、ですが国として…未来の戦争の為に不老不死の研究を行おうとしている国があるとして…その国はどうなると思いますか?」と聞かれた為サクラが言わんとしていることを察し「…失敗するのが目に見えている。その研究がどこまで進んでいるのかは知らんが仮に5年間国力をあげて取り掛かれば出来るとしよう、その間に災害や飢饉が起これば研究などしている場合ではない、仮にそのような状況でも押し進めるというのなら国民から批判が殺到するだろうな」と答える。

サクラはその回答を聞き「では…マスターさんが不老不死になれる、としたらどうですか?」と聞かれた為私は「お断りだな、ここに来た時君が言った通り私もユキもほぼ見た目が変わっていないが死にはする、しかし知人や友人よりも長生きする可能性が非常に高い。今のままでもそうなのにわざわざ不老不死を願う?そのような苦行を強いられるなら私は自害する選択肢をとる」という私の言葉にサクラは肩をなでおろし「良かった…そう思うのは私だけでは無かったんですね…」

と言った。続けて「実はお父様が…」

まで続けた為私は「みなまで言うな、仮にも君の国とこの国は友好的な関係ではあるがそのようなことをしている、となれば我々もそれ相応の対応をせざるを得ない」とサクラの言葉を遮る。サクラは肩を震わせ、涙を零しながら「ですが…お父様の為にも…国民の皆様達のためにも…止めたいんです…」と言った為私は「…確か君はここの国王とその師匠と面識があったはずだな」と言うとサクラは頷く。続けて私は「だったら彼らに相談すればいい、この国は腕利きのものが多く居るしあのコーヒーも飲めないお子ちゃまだったら1人でも君の国へ行き、君の父上が考えを変えるまで何かするだろう」と言った。

サクラは「…信じて…貰えますかね?」と言い、ヴァルケンも俯く「…あのお人好しの国王と気に食わないことはどうにかしないお子ちゃまなら君の話を信じるだろう、君は嘘をつくタイプじゃない、それは我々だけでなくあの二人もそう思っているはずだ」と言った

それを聞きサクラは「…そう、ですかね」と言うとヴァルケンが時計を見、口を開く「姫様、そろそろ戻らねば父上様や次女達に居られない事に気づかれかねません」と言ったので私は先程の焼き菓子たちをつつみ、サクラへ手渡す。サクラは「…急に来てすみません!!ご迷惑は…おかけしませんので!!」と言ったが私は「…迷惑?かけられていないしこれからもかけられない、そう思っている、それに客には来てもらわねば困る」と返答するとサクラは「では…またこちらに来させていただきます!!」といい頭を下げ、店を去った。ユキは「…どう思う?さっきの話」と聞いてきた為「…我々がどうこうする問題ではない、それだけは確実だな」と答えると店のドアをノックする音が聞こえた。

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