第4話 焼き菓子に込められた想い

3人は座り、紅茶を飲みながら話し、時折笑っている。…まぁヴァルケンの笑い声は聞こえないが2人は楽しそうに笑っているのだ、先程までのような重苦しい空気ではなかろうと判断し、私はスポンジケーキを長方形に切り出す、そうするとスポンジケーキを焼いたシャインがせっかくケーキを作るために焼いたスポンジを使うのかよ!!と文句を言っていた為ユキを怒らせたくなければ何も言うな、もう一度焼け、と指示を出す。シャインがブツブツと文句を言いながらスポンジケーキを焼く準備を始めると今度はリヒトへ3人の様子を見ながらマドレーヌやクッキーなどの焼き菓子を少しずつ出すように指示し、卵を10個割り、白身と黄身を分ける。3人の様子をちらりと確認するとサクラもユキも笑顔でヴァルケンに何か話している、当のヴァルケンは苦笑いをしているが…まぁ気にする事はないだろう。

リヒトが暇そうにしていた為、先程の仕事に加え、白身を泡立ててメレンゲにするように指示をすると嫌そうな顔をした為シャイン同様の脅しを行い、仕事をさせた。そして私は鍋を取りだし、水と砂糖を鍋に入れ、カラメルにならないように弱火に鍋をかける。しばらくかき混ぜ続けると水飴のように粘り気のある糖蜜が出来る。そしたら今度はスポンジだか黄身で卵液を作る。その卵液にスポンジをくぐらせる、そのスポンジを鍋の糖蜜に入れ、卵液が固まるように回しながら糖蜜を絡ませていく、どれだけ卵液に浸したか、によるが表面に纏わせる、程度なら10秒程で固まるので固まってきた、と思ったら引き上げる。皿の上に置き、砂糖をまぶせば出来上がりだ。こちらの菓子を作っているうちにリヒトもメレンゲが出来た様なのでそれを受け取り、アーモンドプードルを混ぜこみオーブン皿に適量ずつ絞り出し、オーブンで焼いていく。あとは焼き上がりを待つのみだが…と思い3人を見るが相変わらず2人は楽しそうにしており、ヴァルケンもその様子を見て微笑んでいたので特に何もすることなく焼き上がりを待つ。そうしていると店中に甘い匂いがし始め、焼き上がる。焼きあがったものと先程のスポンジ、そしてフィナンシェを皿に盛り、3人の目の前に置く。3人は当然だろうが見たことも無い物ばかりが出てきたので驚いていた。

「待たせたな、注文の特別な意味のこもったお茶菓子だ」と私が言うとユキは「フィナンシェは分かるけど…他のふたつは?」と聞かれたので私は「白い方はメレンゲを焼き上げたメレンゲクッキーという菓子でもう片方はカスドースという物だ」と答える

3人ともこの3種の焼き菓子にどのような意味が籠っているのか検討がつかないようで首を傾げている

「実際に食しながら話を聞けばわかりやすいから私の言う通りに食してくれたまえ、最初は…カスドースで紅茶と併せてくれるかね?」と言うと3人は素直に従う。「とてもよく合う組合せだがそれ以上の意味がわからない、という顔をしているな?ではまたメレンゲクッキー以外で紅茶を飲んでくれ」と指示し、3人は従う。「口はどうかね?紅茶を飲んでいるからマシだろうが…かなり甘ったるくなっていないかね?」と私が問うとサクラは「はい…失礼ですが…このカスドース、というお菓子はかなり砂糖が使われてますので…」と答えたので「ではメレンゲクッキーを食べてみたまえ」と指示する、口に含んだ3人は驚いた様子になり、ユキが「これもかなり甘いものと思っていたけど…香ばしさで口がさっぱりしたわ」と言った「…ちなみにフィナンシェは見た通り金塊の形、そしてカスドースは言わば国王に献上されていた菓子だ、つまり両方最初は貴族や王族、金持ちのために作られたようなものだしたがってバターや砂糖を多く使用しており食す量が少ないといいが量が増え始めると厳しくなる、が、合間にメレンゲクッキーのようなシンプルで香ばしさを前面に出した物を食べればどうかね?今回のようにさっぱりと、最後まで美味く食せる」と言い続けて「この事にかけて…どのような高貴な王家の生まれの人間でも1人では全てを支えきれない、だからこそ王家や貴族の生まれでは無く、その者が心から信頼差している者が影から支えればその王家は安泰だ、と言うのはどうかね?」と言い少々くさすぎる当てつけかもしれんがな、と言った。それを聞きユキは「確かにくさすぎる当てつけかもしれない…でもサクラはどう?」とサクラに問う。「…流石ですねマスターさん…私は何も言わなかったのに…ここまで私の考えを汲んでくださるなんて」と涙ぐみつつ答えた

「ですって、ヴァルケンさん、サクラがこのフィナンシェやカスドースだとしてこのメレンゲクッキーは貴方だと思うのだけれど?」

とユキはヴァルケンに言った。彼は「…長年姫様の執事としてお供させて頂きましたが…まさかこんなことをお考えになられているとは…このヴァルケン…そうとあらば共にお茶をさせて頂き、姫様を支えさせていただきます」と言った為「…この老人は一体いつまで敬語を使うのかね?心から信頼する者、と言うのは落ち着けるところではかしこまるものでは無いと思うがな」と皮肉を言ってやるとサクラとユキは笑いだした、どうやら湿っぽい空気にはならなかったようだ

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