第42話 魔王の支配地へ
気を失ったプリムム。
そしてなぜか首輪をつけられたマイマイがフーランの元に運ばれた。
この後、この二人がどうなるのかは、まだオットイにも分からない。
「レベル2になっていたんですね、オットイ」
「え……、僕、レベルアップしてるんですか?」
戦いを見ていたフーランがそう判断したのだ。
レベル1だとは思えない動きだった。
それに、一般的なレベル2よりも高いステータスだろうとも見抜いている。
フーランにかかれば、動き一つでステータスの数値の予測ができてしまうのだ。
「相当、高い壁を設定したんですね。……しかもそれを、乗り越えた、と」
簡単にできる事ではない。
楽してレベルアップを企む今の世代の中では、かなりの根性がある。
「……なにかを克服できたのであれば、なによりですね」
町全体を巻き込んだ騒ぎは収束しつつあった。
プリムムとマイマイが捕まった事で騒ぎのメインが無くなったのだから当然だろう。
騒ぎがまだあるのは、自然とお祭りに移行していったからだ。
やかましくも笑顔がこぼれる町の様子を眺めていると、オットイの背中がつつかれた。
振り向くと、ミサキが服をつまんで引っ張っていた。
「どうしたの?」
「ねえ、全部解決、みたいになってるから言いづらいんだけどさ……」
ミサキは周囲を見回しながら、
「ティカは……どこ?」
「だから! 本当に脅されてやったの! どうして信じてくれないのよぉ!?」
箱形の鉄格子の中で、マイマイが杖をついた老人たちに訴えていた。
「言われても、証拠がないからのう。はいそうですか、と解放するわけにもいかんのだ」
「もう一人にも聞いてよ! それで意見が同じなら証拠になるでしょう!?」
「しかし、口裏を合わせている場合も――」
あぁもう! と頭を抱えながらイライラを募らせるマイマイの元へ、オットイが駆け寄った。
鉄格子に額をぶつけ、マイマイが、ひぃ!? と小さな悲鳴を上げた。
「――それ、本当!?」
「ほ、本当よ、オットイを人質に取られて、だから仕方なく、わたしとプリムムが指示に従って火を放ったんだから」
「ぼ、僕が……?」
「オットイを殺されたくなければって……。プリムムにはよく効く脅しよねぇ」
オットイは首を回し、隣の鉄格子に入っているプリムムを見た。
彼女は気を失ったままだ。
……全ては、僕のためだった……?
「中途半端な優しさならあげないでね。
受け入れないなら突き放すくらいしないと、一生付きまとわれるよ、オットイ」
「でも、僕……勘違いでプリムムの事を……」
「うーん、でも、単純な嫉妬もあったみたいだし。オットイを守るため以外にも私利私欲はあったと思うよ? だからオットイは怒っていいのよ。――それで?」
マイマイに問われ、オットイはなぜマイマイの元へ駆け寄ってきたのか思い出した。
「相手……誰に脅されたの!?」
「さあ……名前は分からないけど。髪が長い、年齢が同じくらいの男の子だったはず」
細身で、身長が高くて……、男だけど女にも見える、らしい。
それ以外の情報をマイマイから聞き出す事はできなかった。
「なにかあったの?」
「……ティカがいなくなったんだ。ウィングも姿を見せないし……町のどこにもいないって、こんだけの人がいるのに誰も見ていないって!」
「落ち着きなさいよもう……じゃあ外に出たんじゃない? なにをしに行ったのかは知らないけど……ああ、それでわたしたちを脅した犯人が怪しいと睨んだのねえ」
しかし残念ながら、脅した人物の目的までは分からない。
ティカの店を燃やせと命令したのだから、そこに意図があるはずなのだが……。
「その人物は、魔王勢力なのではないですか?」
オットイとマイマイの会話に、勇者フーランが顔を出す。
「手の甲に、不気味な紫の紋章がありませんでした?」
「……あっ、あった、あったはず……」
だが、魔王勢力と言うには、人間寄りの容姿だった。
「関係ありませんよ。たとえば勇者勢力にも、試練を乗り越えれば魔族だって勇者になれる可能性はあるのですから……私は、共に行動をしたいとは思いませんが」
それと同じように、魔王に忠誠を誓えば、人間でも魔王勢力に加わる事ができる。
判明した黒幕が魔王勢力なのだとすれば、行き先はおのずと決まってくる。
「ここから西にある、魔王勢力の支配地です」
「っ……、そんなの、どうすれば……!」
「行きますか? 一緒に」
オットイの前に伸ばされた手。
先を辿れば当然、声の主であるフーランがいた。
「支配地の奥となれば準備が必要ですが、ティカを運んでいるのであればそう距離は稼げないはずです。……私の力で追いつく事はできますよ。いえ、私、と言うよりは彼の力ですが」
フーランが指笛を吹き、町の外に聞こえるほどの高い音が響き渡った。
すると上空から、青色の体毛に覆われた巨鳥が羽ばたきながら降りて来た。
「まだ子供ですが、人間二人を乗せる事はできます。……できる?」
体毛に顔を寄せて聞くフーランの質問に答えるように、巨鳥の子供が声を上げた。
「代々勇者に仕える伝説の巨鳥です。いずれオットイも出会いますが……今の内に、一度乗り心地を体験してみるのもいいかもしれませんね。……後は、オットイ次第ですよ。魔王の支配地に行くのが恐ければ、私が一人で行ってきます。――どうしますか?」
オットイのレベルでは、魔王の支配地は早過ぎるエリアだ。
行っても足手まといになる可能性の方が高い。
だが、ティカを攫い、しかもプリムムとマイマイを脅した文句をぶつけたい衝動があった。
いつものオットイならば、問われた事さえ自覚せず、ただ状況を見守っただけだろう。
だが今は、自分に問われたのだと自覚し、それに答える意思がある。
オットイがフーランの目を力強く見た。
「――僕も、行きます!」
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