第18話 レベルアップの方法
客足が増え続ける日はそれから一週間続き……、
さすがに疲労困憊したためウィングが臨時休業を提案した。
元々客が少なく、一日開店していても疲労は溜まらなかった。
そのため定休日などなかったのだが――、
今回のような状態が続くのであれば、考える必要がある。
久しぶりの休日であった。
店の売り上げが上がれば同時にオットイへの給料も最初よりは上がるわけで、一日ごとに貰っているオットイの懐はかなり潤っている。
考えていた軍資金にはとうに到達していた。
「坊や」
と、商店街へ一人で向かっていたオットイを呼び止める声があった。
決して大きな声ではないが、喧噪に紛れてもやけに浮いて聞こえる声である。
「占い師の、お姉さん」
「ちょっといいかしら?」
手招かれて占い屋のテントへ。
すると初めて、グラスに注がれた飲み物を出された。
「え、と……?」
「私の都合で呼んだものだから。おもてなしくらいはするのよ?」
だそうなので、遠慮なく飲む事にする。
……お酒じゃないよね? と警戒したが、普通にジュースであった。
「気になる事があって。坊やに聞いてみたいと思ったの」
彼女はグラスの縁を指でなぞりながら。
「最近、勇者のお客さんが多くてね、みなステータスを確認したがるのよ。勇者って、あまりステータスを頻繁に確認するものではないでしょう? でも同じ日に同じ人が何度も訪れたりもして……私的には儲かっているのよ。それも坊やの店のおかげなのよね」
「いえ、ティカのおかげですから」
と、オットイは頭を掻いた。
「でも聞いたわ。提案したのは坊やだって」
彼女はこの町に常駐し始めて既に長い。
そのためティカとも面識があるのだろう。
「私は勇者を相手にする事が多いけど、勇者に詳しいわけでもないのよ。だから気になってもそれがおかしいかどうかが分からなかったりするのよね。それを彼らに直接聞くのは少々尻込みしてしまって……その点、坊やなら話しやすくて」
「あ、でも僕も新米なので、分からない事もあったりするので――」
「もちろん、無理にとは言わないわ」
そういう事なら、気が楽であった。
「同じ日に同じ人が数度訪れれば、私も顔を覚えるのよね。時間が経っていなければ、そのステータスも。彼も効果を確かめたくて数値を見たのでしょう。そして紙に記しているのは私だから、その内容も覚えてしまう。比較もできてしまうわけ」
しないとは思うが、情報漏洩も彼女次第である。
「それで――勇者って、どうしたらレベルアップするのかしら?」
それはオットイにも答えられる質問であった。
そんなオットイは未だレベル1だが。
「ええっと……その人が最も困難だと思った壁を自覚し、それを乗り越えた時、レベルが上がる、だったはず。その壁が高ければ高いほど、上昇値も多い……ですかね」
あえて低い壁を自覚し乗り越える事で楽にレベルを上げる手法もあるが、そして誰もがそっちに流れてしまうのだが、上昇値が少ないため大きな成長は見込めない。
レベルが上がれば基本性能がもちろん上がるので、強さが変わらない、という事はないのだが……、高い壁と低い壁では、当然ステータスに違いが出る。
それがいくつも積み重なれば、たとえばレベル5同士であっても、ステータス的には大きなレベル差があるような比較になってしまう事もあるのだ。
「そうなの。
じゃあ、一日で数十人がレベルアップしているなんて事、普通はあり得ないわけね」
「あり得ない、とも言えないけど、可能性は低いと思う」
「……もしかしたら、いや、多分そうなんでしょうけどね」
と、占い師がグラスを指で弾き、こん、と甲高い音が鳴った。
「ティカちゃんの料理には、レベルを上げる効果もついているわよね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます