第15話 ティカの秘密
昨日はティカのベッドで目を覚ましたオットイだったが、今日は違う。
二階の部屋は二つしかないので男同士であるウィングと同室になった。
ベッドではなく、家にあった寝袋に包まれて目を覚ます。
旅人なので慣れたものだ。
体に痛みはなく疲労も取れていた。
ウィングはまだ寝息を立てていた。
なので起こさないように部屋を出る。
向かうはティカの部屋だ。
試したい事があったので彼女を起こそうとしたのだ。
――ただ、オットイは失念していた。
試したい事への興味が先行して、昨日の出来事を忘れてしまっていたのだ。
ぐっすり眠るティカの体を激しく揺すり、目を覚ました彼女にぼこぼこにされる、というデジャヴを体験し、彼は再び眠りに落ちた。
「……学習しないのか?」
起きたウィングに呆れられた。
オットイもさっきの自分の行動は馬鹿だと思う。
メガネのフレームがぐんにゃりと曲がっていた。
気づけば自然と直っているが。
一階、店内のテーブルに突っ伏すオットイと、コーヒーを飲むウィングの前に、寝起き一時間して覚醒したティカが顔を出す。
オットイをぼこぼこにした事など、彼女は覚えていない。
「……階段から落ちでもしたのか?」
ティカはきょとんと首を傾げていた。
それよりも。
「ティカ、朝食作ってくれない?」
そう言うと、ウィングが椅子に座ったまま後ろに倒れた。
後頭部を激しく打ち付け、痛みに悶えている。
涙を目尻に溜ながら、
「お、おっとい……お前正気か!?」
「その反応、腹立つなぁ……っ!」
しかし、ティカの興味はすぐさまオットイへ移った。
「いいけど……なんで? 不味いって分かってるだろ」
「不味くはないよ? 味がきついってだけで」
「それを不味いと言うんだろ?」
「人が愛情込めて作ったものに、不味いなんて評価はないよ」
「…………じゃ、作るけど」
自然に恥ずかしい台詞をさらりと言ってしまうオットイに、ティカは敵わないと戦線離脱した。
聞いているだけで体が火照りそうだ。
手早く作ってしまおうと、結局、昨日と同じ料理である。
炒めるだけだ。
簡単にすぐできてしまうので、頭に浮かびやすい。
「同じので悪いけどな……」
「ううん、好都合だよ」
好都合?
ティカとウィングが、同時に疑問に思い、顔を見合わせた。
オットイが料理を口に運ぶ。
衝撃的な味に目眩がするが、なんとか堪える。
そして、全てを平らげた。
「素直に凄いな……」
と、ウィングが声をこぼす。
「ティカ! ごちそうさま! 美味しかったよありがとう!」
すると、オットイはその足で店を出て行く。
慌てているのか、行き先さえも伝えずに出て行ってしまった。
恐らく依頼を受けに行っただろうから、ミサキの所だと分かるが。
「開店前には戻ってくるようにって、オットイなら分かってるか。
……じゃあティカ、おれは今日こそ買い物に……って、ティカ?」
「………………なんだよ、人の顔をじっと見るな」
「ぼーっとしてるから。まだ寝ぼけてるんじゃないか?」
「起きてる。だから料理だって作れたんだし」
ぼけーっとしているよりは、ぽーっとしているようにも見えたが。
……まさか、ね。
ウィングはある可能性に思い至ったが、すぐにないと考えをやめた。
だが確かに、ティカにとってオットイは、初めて見るタイプである。
前例がない。
つまり、どうなるのか、予測がつかない。
店を飛び出したオットイは、ひとまず宿屋へ行き、ミサキに簡単な依頼があるかを聞いた。
報酬は少ないが、昨日とは別の最弱魔物の捕獲依頼があり、それを受ける。
「じゃあ行ってくる!」
「え、ちょっ……、なによあいつ、あんなに慌てて……」
そして町の外へ出て、目標の魔物をすぐに発見した。
森の中、オットイは木の陰に隠れて魔物の様子を窺う。
今度の魔物は毛深く丸っこい。
長い耳が特徴的な魔物だ。
攻撃力はないが逃げ足が早く、見つけてもすぐに逃げられてしまう。
戦えば一撃で誰もが勝てるが、その一発目を当てるのが難しい。
しかしオットイにとっては討伐依頼よりも簡単な捕獲依頼である。
なぜだが、急接近しても魔物に気づかれにくいのだ。
「捕まえた!」
後ろから跳びかかり、ぎゅっと抱きしめた。
普通なら、ここで檻に入れて持ち帰るのだが、捕まえた魔物がおとなしいため、檻がいらなかった。
オットイの腕の中で、長い耳の魔物が落ち着いてしまった。
日向でまどろんでいるような、おっとりとした瞳である。
宿屋へ戻り、今度は檻へ入れる。
これで依頼達成だ。
「今日は早いわね……コツでも掴んだの?」
「たぶん違うよ。……それを今から確かめに行くんだ」
はてなマークを浮かべるミサキから報酬を受け取る。
少ない金額だが、これで一回分に届いた。
じゃあね、と足早にオットイは宿を出て、町中を走り回る。
一番最初に訪れた橋の下には、既に目的のものはなかった。
聞き込みを繰り返している内に誘導されて、町の入口へ辿り着いた。
東西南北、四つある入口の中で、東である。
ここは最も勇者が通る入口だ。
「いた、お姉さん」
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