第3話 人運がない。

 サクラがニコラウスを地下に案内すると、地下にいた兵士が何人か集まってくる。

「△○*#%!」

 ゾロゾロと兵士が集まるが、ニコラウスが剣を横に一閃。光を放ち兵士たちを切り裂き、真っ二つにした。上半身と下半身に分かれてしまった彼らの腹からは内臓がぐちゃりと溢れ出している。

 気持ちの悪い臭いと、視界の赤にサクラは口元を押さえる。

「うっ、おぇっ……」

 血の匂いには慣れていたが、やはり視覚情報と嗅覚の情報が混ざり、さらには距離も近いと、その限りでは無い。獣人としての嗅覚に文句を言いたくなる。

『すまない。お前は獣人だったな』

 ニコラウスは顔色を悪くしたサクラを見て謝罪した。

『早くここから出たほうがいいな……』

 そう言われて、涎の垂れた口元を腕で拭い、ニコラウスの背中を追ってサクラは歩く。

『居たな』

 サクラの入っていた檻から少しばかり離れたところに奴隷が何人か。

 生気を失った、全てを諦めたような目をした獣人の少年たち。その全てが年端もいかないような幼い少年たちで、女の性癖がよく分かった。

「あのショタコンクソ女……」

 死んでしまった女に対しての悪態をつく。少年奴隷達の体のあちこちには痣が見える。サクラと同じような扱いを受けていたのだろう。

『今、檻から出してやる』

 そう言ってニコラウスは鍵を開けるつもりも無いのか剣を振るって檻を破壊した。

 檻は破壊されたというのに少年たちが出てくる気配は見えない。

「何で」

 出てこない。

 そうサクラは疑問を口にしたが、どうやらニコラウスには直ぐに理解したようで、彼らの頭に触れると光が少年たちの身体を包んだ。

「それは?」

『これも魔法だ。こんな時には役に立つ。手が塞がるのを防げるからな』

「魔法が得意なんですか?」

 そう尋ねれば男はふと笑った。

『いや、苦手だ。だからこの程度しかできん』

 そう言って、ニコラウスは少年たちを浮かせて檻の中から出る。

 他の場所を見て回るが、どうにもこれ以上の奴隷はいないようだ。

『結局、三人か……』

「この後、俺たちはどうなるんですか?」

 解放されたとしても働き口はない。さらにはサクラには言葉がわからない。

『魔王様は寛大だ。あの方なら君たちを受け入れてくれる』

「魔、王?」

 そう言われて思い浮かぶのは人間に恐怖を与える魔の王。ゲームではよくラスボスとして登場する。

『獣人は人間社会では差別されるようだが、魔王様は優しい、のか……?』

 何故、疑問符が付いた。

 そう聞きたくなるが、そんな時間はないようで。ニコラウスはサクラの頭に触れて魔法を発動させる。

『これで俺の用件は終わりだ。お前達を保護しよう』

「え、あ、そう言えば、あの、貴方は人間じゃないんですか?」

 話を聞く限りでは人間ではないのだろう。

『ーーああ、その通りだ』

 その質問に肯定で返す。

 だから、言ったはずだ。

 彼は優しい“人間”とは巡り合えない。それほどに人運が無いのである。

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