鉄拳重機ステゴロオー

「ったくゥ、ステゴロオーはないわ、ステゴロオーは!」

「今更言っても仕方ねえだろが、長ったるい名前なのが悪ィんだよ、長ったるいのが」


 愛嬌もねえしな――ハマノタケキイクサノカミの頭部コクピットに搭乗を果たした落雁と鹿子の二人。

 薄暗いそこへと出入口を潜り抜け姿を表した彼らはこの全高五十メートル以上にも及ぶ巨大建造物の中で以て本当に些細でくだらない口喧嘩を繰り広げている。


 と言うのもこの建造物、正式名称は鹿子曰くハマノタケキイクサノカミだと言うのだが、落雁はそれが長く口に出しつ言い辛いとして改名、その名も“ステゴロオー”とすると言って憚らないのである

 そして今度はそれが鹿子には気に入らない。

 と言うわけでこの問答は建造物の名が発覚してからずっと続いているのであった。


「コイツも気に入ってんだろ? なっ、ステゴロー!」

「アホか、このハマノタケキイクサノカミに自意識はないのじゃぞ? 気に入るもなにもないわいっ」

「アホはテメェだバーカ、モウロクしてんじゃねえぞババアめ。意識があるとか無いとかじゃねーの」


 愛着とはそういうものだと、怒りに歯を剥き両手を水車か二輪の如く振り回し突撃してくる鹿子を、長さで勝る腕を使い彼女の顔面を手で抑えつけて彼女の拳が届かぬ所で留めた落雁はやれやれとかぶりを振りながら言った。


 彼の手に噛みつこうとする鹿子。しかし落雁はひらりとその手を退けてコクピットの中央へと歩む。

 勢い余りつんのめった挙げ句、結局転倒した鹿子はその場に手足をなげうち、よよと泣いて袖で涙を拭うような仕草を見せる。


「なんと酷い、愛妻になんたる仕打ちじゃ」

「愛妻とか、オレはテメェとツルむ気なんざねえよ」

「なんじゃい! 良いではないか良いではないかっ」


 さっさと動くようにしやがれ――無論嘘泣きしているだけの鹿子に付き合う気はさらさら無いと、落雁は遂に球形をしているコクピットの中央に設けられた円環の中に立ち、嘘泣きを看破され冷たくあしらわれたことに猛抗議する鹿子に告げる。


 すると鹿子は「ほれ見ろ、やはり妾が居らぬと何も出来ぬ奴じゃなラクは、仕方ない奴じゃ」と何故か上機嫌になってスキップなどしながら呆れ顔している落雁の背後へと回り込んだ。

 そして再び柏手を打ち鳴らす。


「――我が身は超鋼はがねと重なりて、今こそ救世の化身に御霊を授けん! 目覚めいっ、ハマノタケキ――」

「ぶっちぎるぜ、ステゴローッ!!」

「ぬぁぁあっ! このっ、バカラクゥ〜ッ!!」


 バチンッ――と長々語る鹿子に被せて、己の手のひらに拳を打ち付けながら落雁が雄叫びで告げる。

 するとまるで彼の言葉にこそ反応したかのように、それまで薄暗く無機質な機械仕掛けの密室であったコクピットが明るくなり壁面や天面、底面全てに外の風景が映し出される。

 それはまるで落雁たちが宙空に浮揚しているかの様だ。


 そして実際、落雁の背後に回り込んでいた鹿子の身体が円環たちに囲われ浮かび上がり、落雁の頭上やや後方で固定される。

 そんな彼女からの罵詈雑言の一切を無視した落雁は眼前で目線を同じくした一号と対面しながら、右手を持ち上げた。

 するとそれまで棒立ちしていたはずのステゴロオーが稼働し、落雁と同じ仕草で右手を持ち上げ五指を動かした。


 ステゴロオーとのモーショントレースが快調に作動している事を確認した落雁が歯を剥き不敵な笑みを浮かべる。

 彼の仕草はどのような些細なものであってもステゴロオーへと伝達され、ほんの僅かな遅延すら無く反映される。

 ガチンッ――今度は両の拳同士を落雁は打ち合わせる。するとステゴロオーも同じくして拳同士打ち付け、そこで鋼鉄の音色を奏で火花で彩った。


「調子イイぜ」

「ぅぅう〜……ラァ〜クゥゥ〜……」

「“あの日”の様にはいかねえぞ、折り紙ヤロウ」


 落雁の動作に合わせステゴロオーが身を屈め、ぎゅんぎゅんと朱い装甲の下、内部骨格を埋め尽くした人工筋肉が縮み力を蓄える音が脚部より低く鳴り響く。

 頭部の鬼の面から覗く二つのセンサーには小さな瞳が宿り、増大した輝きが迸る。


「往ぃっくぜぇえっ」


 刹那、ステゴロオーの足元が爆発を起こしたが、それは火薬だとかそういった類による事象ではない。

 あまりに巨大で、あまりの勢い、そして有り余る膂力により駆け出したステゴロオー。それがあまりに過ぎたるが故に、蹴散らした大地が爆発したように見えるのだ。


 ステゴロオーもといハマノタケキイクサノカミ現出に伴い戦術を変更した防衛軍は直ちに地上戦力を引き上げ、機体が自由に動くために道を譲る。

 航空戦力はテオドール一号への攻撃を控え、有事の際に緊急展開出来るように待機している。そしてそれは配備された兵器群も同様である。


 計画戦闘都市トウキョウがその真価を魅せる時である。

 展開した都市部は全てこの巨大を疾駆させるためのもの。

 全身を連動させ、まるで人と見紛うステゴロオーの全力疾走に大地が立て続けに揺れる。


「彼奴は遠距離からの砲撃が脅威じゃ、ラク。真っ正面からでは危険じゃぞっ」

「ンなこたあ百も承知よ、二百も合点!」

「では何故真っ向から!?」

「しゃらくせえんだよ、そういうのはっ」

「流石はラクと云った所か……是非もない! だが防御は怠るでないぞ。妾が何とかしてやる、特訓の成果を見せい! ラクっ」

「だから、そういうのがしゃらくせえってんだっ」


 落雁の背後に浮揚する鹿子の役目は機体の状況確認と機能及び兵装の使用である。

 彼女の周囲を天球儀の様に取り囲んでいる円環に並んだホログラフィー、それがハマノタケキイクサノカミ――ステゴロオーが持つ兵器たちだ。


 無数にあるそれらの中から必要なものをピックアップするべく、鹿子はまず機体のシルエットが表示されたホログラフィーを見て両腕の電影に触れる。

 すると円環が稼動し、機体の両腕に備わった装備のみを表示した。そして彼女はその中から一つを選び指先で触れた。


 落雁が背を丸め両腕を持ち上げる。そうしてステゴロオーは己の上半身で下半身を隠し、両腕がその上半身と頭部を覆う。

 直後に一号が放ったビームがステゴロオーへと直撃し、爆発に似た閃光がさく裂する。

 威力は最大。直撃すれば如何な防護電柵と云えど焼き切られ、超鋼と言えど融解し蒸発、爆発四散する。


 だが閃光のさく裂を突き破り、ステゴロオーは無事な姿で疾駆を継続した。

 それの両腕には碧く輝く、一見ホログラフィーかのような膜が展開されており、しかしそれが一号の強力なビームから機体を完璧に守って魅せたのである。


「光子障壁、隼人楯ハヤトノタテ。効果てきめんじゃっ」

「へっ、余計なお世話なんだよっ」

「何を抜かす、其方を守るのが妾の務め。そうつれなくするな」

「っるせえ、分かりきったことォオッ」

「間合いは詰まった! かましてやれいっ」


 一号が甲高く鳴く。

 そして頭頂部が閃光を溜め込むが、既にステゴロオーは己の間合いにそれを収めていた。


 隼人楯と称されたシールドは未だ健在。

 落雁はそれに保護された右手の拳を固く握り直し、大きく振りかぶった。鹿子の叱咤が飛ぶ。


「バカ者! 隙が――」

「しゃらくせえっ」


 閃光がさく裂し、一号から再びのビームが照射された。

 だがステゴロオーはそのビームを紙一重で、胴体に埋まりがちな首を傾げ頭部に直撃する所であったそれを回避。

 逆に射出された右拳が一号を強かに捉え、その巨体が大きく吹き飛び展開され広大に変わった道路を転がった。


 数メートルを殴り飛ばされ甲高いその音を悲鳴のように奏でながら地面に沈む一号を見届け、突き出した右手からシールドが消失する。

 コクピットでは同じく右拳を突き出している落雁が吐息を一つ落としていた。


「――どんぴしゃのクロス、決まったぜ」

「あ……阿呆っ、生きた心地がせんわ! もっと堅実にやれんのか、其方は! 落雁という男はあっ」

「堅実なんて詰まらねえぜ……」


 危険とスリルが生きるって事よ――とは言え斯く言う落雁も己の居るコクピットがある頭部を危険に曝しただけはあり緊張はあったらしく、浮いた額の汗を拭い自慢のリーゼントの形を整える。ステゴロオーもそれに倣い、額を右手で擦ったのち両手で存在しないこんもりした頭髪の形を整えた。


 そんな彼の背中を見ながらきーきーと口うるさくしていた鹿子であったが、その時彼女の眼前に表示されているホログラフィーが赤く染まり警報を鳴らした。


「むっ――ラクッ」

「ああ、見えてんぜ。流石に一発じゃ終わらねえかよ」

「形質変化、機動形態じゃ! ここからが本番じゃぞっ」

「そう来なくっちゃよ……でっけえ借りがあンだぜ、こっちにゃあな。徹底的にぶちのめして、徹底的にぶっ壊さなきゃあ、やりきれねえんだよ」


 ごりごりと落雁が拳の骨を豪快に鳴らす。無論、ステゴロオーも同じ動作を見せていた。

 彼の目はステゴロオーのセンサーを通し、再び浮揚した一号を見据える。それの構造が分解を経て再構築されて行く光景。


 ――オゥゥン……クゥゥ、ン。


 針のような手足を持つ、痩躯の人型。

 天使のレリーフを想像させるどこか幻想的というか芸術的にも見えたそれは一変し、何処までも冷たく無機質で攻撃的な存在へと豹変した一号は、やはり針のように天高く伸びた頭部の頭頂からやはりビームを放つ。


「けっ、ガワだけかよ。やるこたあ同じ――」

「反応が二つ……や、違――」


 二人の悲鳴が重なり響く。

 一号の放ったビームを身を翻して回避したステゴロオー。だがそうやって余裕を見せた落雁、そして凝視しているホログラフィーモニターに映った二つ目のテオドール反応に困惑する鹿子を襲ったのは、反応を振り切るほどの速度で急接近を果たした一号であった。


 それの針――事此処に到っては槍のように突き出された右手に刺突されたステゴロオーの機体がたじろいだ。

 鋭利な切っ先は防護電柵を貫通できるが、ステゴロオーの装甲に使われている超鋼は特別硬い。しかも一号が攻撃する間際、動体視力と反射神経で動物的に辛うじて反応した落雁が左腕で庇ったことで致命傷を免れていた。


 だが一号は止まらない。

 巨大で太く、重いステゴロオーとは違い、全高こそ鋭利に尖った分僅かにそれよりも高くともずっと軽いそれの高速の連続攻撃に落雁は防戦一方にされてしまう。

 苦し紛れに腕を薙いでも敵は既にそこに無く、今度は背後を攻撃され心身共に衝撃を受ける。そうして振り返れば、やはりそこにはもう一号の姿は無い。


「クソッ、ちょこまかと……ハエかよこいつァッ」

「落ち着くのじゃ、ラク。大丈夫、ステゴローの装甲なら保つ」

「ぶっ倒せなきゃ意味ねえだろうが! クソッ」

「照準解除、全方位発射っ」


 背中を丸め上半身を巨大な両腕の中に隠しカメの様になり身を護るステゴロオー。

 悪態を吐くばかりの落雁の後ろでは鹿子がセンサーによる一号の捕捉を諦め、すれば武装の中から新たなものを選択しそれを起動させた。


 直後ステゴロオーの全身至る箇所に設けられた砲口が開口し、そこから無数の光線が照射され一帯を貫かんと四方八方へと伸びて行く。

 直前に鹿子からの警告があったとは言え、待機している航空戦力、戦闘機乗りたちはその滅茶苦茶な戦法に面食らう。

 しかしこうまでして倒すべき存在なのだとテオドールの強大さを再確認させられたのもの事実であった。


「位置は絞ったぞ、後は――ラクッ」


 鹿子により渡されたバトンを受け取り、落雁は己の――ステゴロオーの身に刻まれた感覚を思い出す。

 超高速の一撃離脱。押しては返す波の様であるが落雁は気付いていた。

 ――完全なランダムでは無い。

 最も強く、深く刻まれた屈辱の感覚。彼はそれを思い出す。

 彼の脳内で己の身に刻みつけられた無数の傷が疼きを上げる。

 そして最も疼きが強い箇所こそが、次にまた――


「っ――そこかァッ」


 左腕による防御を継続したまま、脇へと引き絞った右拳が射出され目指したのはなんと前方であった。

 落雁には確証があった、そこに一号は必ず来るという確証。確信が。


 右拳が内蔵されたモーターにより高速で回転し、前腕部に設けられたブースターから爆炎が噴き出た。

 手首の回転により抵抗を掻き分け、ブースターにより打突の勢いは増加する。


 ――ギュンッ!!

 そう爆発的な勢いと威力を得たステゴロオーの正拳――否、様々な機能により威力と鋭さを増した凡そ“正”とは呼べぬ邪道の拳が虚空を打ち、空気が張り詰めた破裂音で大気を引き裂いた。


 落雁の予測は外れたのか?

 違う――コクピットでステゴロオーと同じ姿勢を取っていた落雁の口元に歯を剥いた凶悪な笑みが浮かぶ。

 ステゴロオーの拳の先。一見巨大なそれの影に隠れ何も居ないように見えていたがその実、そこには確かに痩躯の一号が存在していた。


 拳は一号の腹部へと深々と食い込み、回転して更に深くえぐり込もうとさえしている。

 突き破られた防護電柵がショートし火花を散らす中、一号の純白に頻りにノイズが走り漆黒が見え隠れしていた。


「――よっ……しゃあっ」


 衝撃が伝達し凄まじい勢いで吹き飛んで行く一号を目の当たりにして鹿子が歓喜の声を上げて両手を挙げて飛び跳ねた。ただでさえ浮揚している最中での跳躍は奇妙な光景である。そして弾むのは彼女の身体だけではない。


「鹿子ォッ」

「合点じゃ、ラク! いつでも良いぞっ」

「――メガァッ……ブラスタァァアッ!!」


 カッと見開かれたのは落雁の両目。

 それと同時にステゴロオーの“両目”に閃光が迸る。

 落雁の咆哮と共にそんなステゴロオーの両目から放たれたのは碧と朱のビーム。


 二条の光芒は宙空を熱し、地面を跳ねてビルディングへと激突することで動きを止めた一号へと突き進む。その最中、二条は絡まり混ざり合って一条の白き閃光へと変容した。


 ダメージと、そしてビルディングに機体が埋まった事で特性である高速移動が行えない一号は、迫りくる閃光に対し槍であり剣でもある両腕を組み合わせて盾にする。

 ビームを受け止めると一気に襲い掛かってきた熱量と圧力に一号の両腕は沸騰し歪に変形する。そして圧力から逃れる術はなく、妨げであり唯一の支えであったビルディングがみしりと悲鳴を上げた。


 やがてさく裂し、巨大な爆発が生じる。

 そしてその中からよろよろと現れたのは両腕を損失した一号の、防護電柵すら曖昧で白と黒が波打つようにせめぎ合う痛ましい姿。


 想定外の損傷。撤退し回復した後に再度攻撃を――一号がその様な考えを懐いた。

 だが、朱き鬼神がそれを許すことも無かった。かつての屈辱に塗れた、怒りの朱き鬼神が許すはずも無し。


「――シャオラァッ、誰か休んで良いっつったよォッ」

雷角ライカク、作動っ」

「よーよー、シャキッとしやがれッ」


 一号が逃走を企てている合間にも接近していたステゴロオーの広大な手のひらが一号の胸ぐら、もとい胴体を鷲掴みにする。

 そして勢い良くそれを引き寄せたかと思った時、同時に振り下ろされたステゴロオーの額が一号の頭部ないし針のような頭部らしき箇所に叩き付けられた。

 更にはその時、ステゴロオーの角には防護電柵を凌ぐ電撃が付与されており、頭突きにより頭部らしき部位をひしゃげさせた一号を強力な電撃が駆け抜け痺れさせた。


 解放された後の一号はたたらを踏んで後退、再び半壊したビルディングへと凭れかかる。

 漆黒に染まり、全身から上がる煙は一号にもはや戦う力が残されていない事を示していた。

 ――終幕の時である。


「かつての因縁を終わらせる時じゃ、其方の仇でもある」

「オレたちのな。死んだヤツらの弔いになっかは知らねえが、借りは耳揃えて返すぜ」

「――昇華神器、天叢雲剣アメノムラクモノツルギ。最終拘束機関、解錠! 右腕部へ顕現っ」


 鹿子の紫色をしていた瞳が金色に輝きを放ち、鹿子を取り巻く円環もまた同様の輝きを放っていた。

 並んでいたホログラフィーが集結し、一つの金色のホログラフィーへと変わる。

 そしてそれに鹿子が触れた直後、外の風景を映し出していたコクピットがやはり金色の光に包まれた。


 そしてその中で落雁が右手を掲げる。

 人差し指からゆっくりと握り締め、最後に親指を折り畳み完成した拳へと光が宿る。

 ステゴロオーもまた彼と同様の動作を行い、一瞬機体全てを包んだ金色であったがそれは掲げた右拳へと集約され、そこに金色の太陽を宿した。

 ――握り拳と云う太陽が誕生する。


「こいつで終いだ……」

「最終昇華承認、アメノムラクモノツルギ――」

「コレはテメェから借りたモンだ、オレの全力もツケといてやるから、精々味わい……やがれぇぇえッ!!」


 金色の太陽と化した右拳を振り被り、落雁の雄叫びを再現するようにステゴロオーの“口”が開く。

 巨体が地面を踏み砕きながら一号へと突っ込む。


 一号が放つビームの連射の直撃を許しながらも憤怒のステゴロオーは決して止まることなく、そして殴打の間合いへと敵を収めたそれはそこから更に一歩、大地を陥没させる程に力強い踏み込みを行いながら右拳を打ち出す。


 拳は一号の胸部へと直撃を果たし、防護電柵の無い漆黒の装甲をそれは容易に貫通し内部へと潜り込む。

 余波により一号は内部から破壊し尽くされ、ぼこぼこと泡立つかの様に装甲が膨張して行く。

 そして最期、ぱんぱんに膨れ上がり痩躯が玉のようになった一号。やがてステゴロオーの拳がめり込む胸部から全身へとひび割れが駆け抜けた刹那、内部から光を噴出してそれは遂に爆発。


 ステゴロオーの眼前、落雁と鹿子が見守る前で爆炎は光の粒へと変わり、暮れて行く空へと昇って逝くのであった。


 それを見上げながら、落雁は静かに鼻を啜る。

 そんな彼の背中を鹿子は微笑を浮かべ見つめる。鹿子に彼の顔を見る事は今は出来ない。

 しかし今はそれで良いのだと彼女は思い、彼と共に光を受け入れる焼けた空を見上げた。

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