第6話

依頼主のおっちゃんと合流した後は予定通りのドライブ。本当に普通のドライブだ。時々、車を止めて欲しいと言われて海を眺めたり、景色の良い高台に立って一緒に空を見上げたりして、気が付けば陽も沈みかけていた。

 あまり語るわけではないけど、おっちゃんは終始幸せそうな表情を浮かべている。理由は知らないけど、成仏するのが待ち遠しいみたいだ。だったら早く成仏しろよと思うけど。


「モクレン、何かおっちゃん凄く楽しそうじゃないか?」

「なんと、陽介殿は聞いておらぬのですか? モクレンは先程お聞きしましたよ。成仏した先に楽しみがあると言うておりました。ずっと探しておった娘の霊が天送されたと。悔いも消えた、成仏すればやっと家族に会える。再会が待ち遠しいのでありましょう」


 家族か……おっちゃんが娘と会えるのを自分事のように嬉しそうだ……そっか……そうだよな……


「あのさ、モクレン。この依頼が終わったらさ、しばらく休みにして、二人で旅に出ようぜ」

「はぁ……まったく……陽介殿は落ち着きのない方です。今度は何を思い付かれたのでありましょうか」


呆れた顔をしてるモクレンを見つめた。


「お前の家族を探しに行くんだ。 なーに、心配すんな。俺が必ず見つけてやっからさ」

「そっ……な、なにをおっしゃるかと思えば……陽介殿には成仏屋としての使命、迷える霊を助ける使命が……そ、それに、過去に探してもらった恩も返しておらぬゆえ……モクレンが行くわけにはゆき……」

「うるせぇうるせぇうるせぇっ! 相談じゃねぇ! お前が行かないなら俺は一人でも行くからな」

「な…なにをはちゃめちゃな事をっ! 私の身勝手でこれ以上迷惑を掛けられませぬ……」


 わかんねぇなぁ……。何で我慢すんだ? 何で身勝手を言っちゃいけないんだよ。


「あのなぁ、いくらでも迷惑掛けろって。ワガママ言えばいいじゃねぇかよ。俺は難しい事はよく解んねぇけど、お前の家族は俺の家族みたいなもんだろ。お前の願いを叶えるより大切な使命なんて俺には思い付かねぇよ。さぁっ……話はおしまいだ! もう何も言うな! 迷える幽霊さんと話してたって埒があかねぇーからな! ハーッハッハッハッ!」


 おっちゃんの依頼ももう少しで終わりだ。やっぱり俺は悩んでるより行動する方が向いてるらしい。モクレンの家族を見つけて最高に幸せそうな顔を、傍で見れればそれで良い。

おっちゃんに向かって歩いてたら後ろから服を捕まれた。背中にコツンと寄りかかる重み。頭を預けてもたれかかるモクレンが居た。


「っと……な、なんだよっ……」

「振り向くのではない馬鹿者がっ……」


二月の真冬だ。海の近くで風も強い。モクレンから伝わってくる小刻みな震えはきっと寒さのせい……だと思っておくべきか?


「陽介殿……モクレンは大切な物を見落としておりました……探しに行かずとも……一番欲しい物は、もう持っておりました。これ以上は何も望みませぬ」

「はぁ? なに訳の分からねぇ事言ってんだ? 望んだ者だけが手に入れる。願った者だけが叶う。そうだろ? 俺が見つけてやる……涙が出る程笑わせてやる。そう約束したろ? 嬉し涙はその時まで取っとけよ!」


今度は背中をドンッと突き飛ばされた。前のめりに転ぶ所だったけど両手を地面について耐えた。


「な……涙など流しておらぬわ! この鈍感のたわけ者ッ!」


なんともみっともない格好した俺の横を通りすぎていく。すれ違い様に見えたモクレンの顔……夕日に照らされて赤ら顔……見た事ない位のスゲェ笑顔だった……。マジで。スゲェ可愛い。マジで……マジで目に焼き付いた。今の俺なら何だって出来る気がする。

おっちゃんとモクレンが何やら喋っている。たわけ者!っと怒られてる声が聞こえた……。さて、あとひと頑張りいきますか!


「よーーーーし! おっちゃーーん! 次いくぞ次ぃぃぃぃ!」


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