第5話
車に乗って依頼に向かう途中、モクレンが異常なまでに邪悪な霊力を感知した。俺にはモクレンが言うほど邪悪な霊力は分かんないけど、相棒の様子を見るにただ事じゃねぇんだろうと思って車を止めた。
「モクレン? 大丈夫か? 近いのか? 俺にはよくわかんねぇけど……」
ふと車の外に目を向けると公園に普段からのほほんとした先輩、レイジさんの姿があった。モクレンは行くなって言ったたけど、レイジさんに駆け寄ったんだ。何てことない会話をして車に戻った……普通だろ? 知り合いが居たんだからさ……何の危険もなかったし……なーんにも問題無かったのに……それに危険なら霊力0のレイジさんはもっと危ねぇし……
「陽介殿! いつも考えもなしに動くなと言うておるであろう! たわけ者! 先程の霊圧、余程の者でない限り動くこともままならぬ!」
「いや、だってよ? 危ないならレイジさんにも知らせてやらねぇとさ、俺だって考えて……」
あ、やべ……言い訳すると長くなるんだ……
「ほぉ、ではお聞かせ願おうか。 レイジ殿がレイジ殿では無かったら? レイジ殿が呪縛に捕まり動けぬ状態であったら? まんまと陽介殿まで呪縛に掛かりおるのか? 考えておるのならモクレンの問いに答えられるであろう?」
「いや、だからさ……考えすぎるのも良くないだろ? それに何も無かったわけだしさ……な?」
「何かあってからでは遅いのだ! よいか陽介殿、一人の勝手が皆を危険に追いやるのです。目に見える事が全てではないのですよ、常に先を考え策を……」
「策を持って行動し冷静に状況を見定める事が大切……だろ? 解ってるってー! もぉ、何度も聞いて耳にホタテが出来ちまうって。 そ、それよりモクレン! 今日も気品があるなぁ……うお! 眩しすぎて車の運転が難しいぜ! おやおや、大変な時間だ! 出発進行ー!」
これ以上続けると本気で謝らされそうだ、説教を終わらせて依頼の霊が待つ海に車を走らせた。
「陽介殿はまるで聞いておりませぬ。たまには真面目に耳を傾けぬか。危険な事は何度もあった、次も大丈夫打などと言う保証は無いのだ。モクレンにも対処出来ぬ事、対処出来ぬ悪霊がおることを忘れてはなりませぬ。その時は陽介殿にも危険が及ぶのですよ」
感情が表情にあまり出ないモクレンだけど、これは真面目に怒ってるなぁ……いつもはそこまで怒らないのに……
「なんだよ……今日はやけに真剣じゃないか? なーに、モクレンが敵わないときは俺の風霊術で切り抜けてやるさ! お前が作戦、俺が切り裂く! 完璧だろ? あ、わかった! 今日の依頼の事でイライラしてるんだろ? スポーツカーでデートみたいなのが嫌なんだろう? モクレン風に言うと、好かぬのであろう?? ん??」
「また、たわけた事を……」
俺だって分かってるつもりだ。どうにもならねぇ悪霊ってのは居る、俺たちが出会った時を思い出した。モクレンは律儀な奴だ。助けられた恩だと言って俺の相棒をしてくれてる。本来は俺なんかとくっつくような霊じゃない、何か凄い奴なんだって……社長から教えて貰った事がある。
まぁそんなのどうだっていんだ。俺にはやらなきゃいけねぇ事がある。はぐれちまったモクレンの家族を見つける……
「陽介殿、レイジ殿と別れたあと何か手に持っておるようだが……それは何じゃ? ちょっと手に取らせてくれぬか?」
レイジさんから受け取ったボールをモクレンに放り投げた。なんて事ないただのボールだ……
「レイジさんはあいっかわらず不思議な人だよなー。朝っぱらから公園でボール遊びしてさ! なんつーか、のほほんとしてる人だよな。なんだよ? そんなに気になるボールか? 気に入ったならやるよ」
「陽介殿、これはただのボールではござらぬ。間違いなく霊具。 しかも、かなり強力な物じゃ。このモクレンにも見たことがない。 どのような効果のある霊具か見当もつかぬ。ヨウコ殿にも見てもらった方が良い……しかし、レイジ殿が何故これを? 公園で何をしておったのだ?」
ヨウコ殿?……あぁ社長か。
レイジさんには本当に特に変わった様子もなかった事、モクレンが嫉妬ぎみな事、これから依頼で海に行く事、会話した内容をそのまま伝えた。モクレンの眉間にしわが少し寄った気がしたが、特に何を言うわけでもなく俺の話を聞いてた。
この霊具を何でレイジさんが持ってたのか、俺にも分からない。それに、ついつい持って来ちゃっただけで、貰ったわけでもないし。
「何事もなく終われば良いが、悩み多い一日になりそうであるな。陽介殿が、勝手に引き受けてきた依頼で海に向かい、謎の霊圧、霊具との遭遇……陽介殿、この霊具はモクレンが預かろう。しかし、レイジ殿か……本当に底の見えぬお方であるな……」
「いやぁ……それは……こ、断れなくてなぁ。それより、底が見えぬって……レイジさんの事か? そりゃ不思議な人だけど、モクレンからレイジさんってどう見えてんだ? 霊力も無くて、成仏屋やってんだから不思議だなとは思ってたんだけどよ」
レイジさんとは一緒に依頼をこなした事もある、二手に別れての行動が多いからレイジさんの戦いって見たことない……つーか……正直、霊力無しで戦えんの?って、思ってる。
「霊力無しか……陽介殿、そもそもそれが不自然なのだ。 霊力の弱い者は霊にも人間にもいくらでもおる。 しかし、レイジ殿のような霊力が全く無い者というのはおらんのだ。レイジ殿と付き合いが長いのはヨウコ殿であろう? 今度ゆっくり……」
「よし! 着いたぞモクレン! ん? どした?」
「……もう良い。」
海だ。待ち合わせ場所には一人の男が立っていた。
「陽介殿……? 依頼はあの方か? どうにも女性には見えぬが……」
「おう! あのおっちゃんで間違いないぜ! 俺は女だなんて一言も言ってないぜ? 赤いスポーツカーで海をドライブしたいとか言うのはあの、おっちゃんだ! 簡単な依頼だぜ! はっはっはっー! さーて、モクレン! 今日も一日頑張ろうぜ!」
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