第4話
アパートに着くと僕を待つ人影があった。
「レイちゃんっ……!」
「社長? それに……陽介? 何があったんですか?!」
二人からただ事じゃない様子が伺えた。陽介の顔には傷があって意識も朦朧としてる……明らかに戦闘の後だ。
「レイちゃん! 話は後で」
「わ、分かりました! とにかく中へ入ってください。陽介立てるか?」
手を差し出したが、力が入らないようだ。握った手から陽介の震えが伝わってくる。明るい陽介からは想像できない姿に事の重大さを感じた。
「レイちゃん? その格好は調査に……いえ、今はそれ所じゃないわね」
部屋に入りベッドに座らせた。タオルで血を拭いてると陽介は涙を流していた。肩を震わせて大粒の涙が頬から陽介の膝に滴り落ちる。
「レイちゃん、説明は私から話すわ。細かい事情は後で。とにかく今は休ませましょう」
「はい。陽介、もう大丈夫だからな」
しばらく困惑の中、泣いている様子だったが眠りについたようだ。何が起こったかわからないけど、とにかく疲労困憊……それが陽介の状態だ。
「レイちゃん、こっちに座ってくれるかしら」
陽介の状態もあって社長も細かい話は聞けていていないらしい。
「レイちゃん……陽ちゃんの相棒、モクレンは知ってるわよね?」
「勿論です。二人とは何度も一緒に行動してますから」
モクレン、彼女は能力が高い。冷静に状況は把握し、迂闊な行動は取らない判断力。よほどの状況や強い悪霊との戦闘でも無ければ切り抜けるだけの霊力と頭脳を持ち合わせてる。後先考えない陽介には絶対に欠かせない存在だ。依頼遂行が上手く進むのも陽介の能力より、彼女が相棒で居るお陰だろう。
「殺されたわ。陽ちゃんを助けて消滅したって」
「モクレンが?! 何で……陽介が依頼を受けていた霊の仕業ですか?」
殺された……モクレンは霊だ。殺されたという人間的な表現より、消滅の方が正しいのかもしれない。ただ、僕たち成仏屋の霊能力者にとって相棒の霊、仲間の霊、友達の霊……心を通わせ、行動を共にして助け合う仲間に霊も人も関係ない。だからこの表現の方がしっくりくる。
「いいえ、依頼は完了してるわ。陽ちゃんから報告を受けたの。その後、男と女の二人組が現れて襲撃に会ったそうよ。モクレンが交戦したんだけど……陽ちゃんを逃がすのが精一杯……最後に陽ちゃんが見たのは女に殺されるモクレンの姿だった」
自分を逃がす為に相棒が殺された……。陽介の涙の理由がわかった所でどうにも声の掛けようがない。ただでさえ、僕には相棒が居ない、陽介の気持ちを理解してやるなんておこがましい。
「それ以外は聞けてない。あの状態じゃ仕方ないわね。隣の町でも同じ様な事が起こってるのよ。わたしが他の事務所に出掛けた用件もその事……状況を聞いて被害にあった子達にも会ってきたの」
隣町で霊能力者が襲われ始めた。命を落とした者、陽介と同じ相棒の霊が殺されている者、生き残っても霊力を失う者、記憶障害、様々な症状がでている。犯人像に関してもモクレンが陽介を助けてくれた事で分かった。
モクレンが居なかったら陽介は殺されていたかもしれない。辛いだろうが、唯一、命も記憶も残っている陽介からもっと詳しく聞く必要がある。
社長は話ながら鞄から小包を取り出した。僕が事務所に居るときに届いた物だ。
「霊力に反応して場所を教えてくれる霊具よ。範囲は使用者によるわ。ただ、レイちゃんには反応しないの。だからお家の前で待たせてもらったんだけど、無事で良かったわ。」
襲撃者は霊力が低い僕に気づかなかったのか。だから襲われなかった、裏を返せば見向きもされてない……マリアの件も、襲撃者の件も、惨めでしょうがない。
「レイちゃん? 何があったか知らないけど、落ち込んでる場合じゃないのよ。これから襲撃者を捕まえないといけないの、しっかりしなさい」
久々にみる真剣な顔だ。
「さ、陽ちゃんには悪いけど、あんまり時間が無いわ、記憶を覗かせてもらいましょう。レイちゃん、結界を張って」
結界を張るのは陽介の記憶に意識を潜らせてる間、身体を守る安全策だ。霊具を取り出し素早く発動させた。
《破邪の結界》
「流石ね、起動のスピード、質……霊具は使うものによって効果も質も変わるわ。レイちゃんのは完璧……いえ、それ以上ね。それじゃ、何が起こったのか、犯人はどんな奴なのか見に行きましょうかレイちゃん。目を閉じてなさい」
社長が霊術を発動し、僕達のいる部屋が霊力で満たされる。もし、この人が敵だったらと思うと恐ろしい。
《妖狐式霊術 追憶》
陽介に何があったのか。モクレンを殺したのは誰か。感情を露にする性格ではないけど、沸々と込み上げてくる感情を感じながら陽介の記憶に意識が移っていった。
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