第6話
石段に上がると、あたりはおびただしい低木と雑草が伸びるままに放置されていた。木陰にはおかしの袋や、BB弾、丸まったTシャツ、教科書が落ちていた。湿った土のうえに置かれた教科書からは、すこし淋しい感じがした。とにかく繁茂し散乱しているのだが、幅の狭い、一本のけもの道ならぬ子ども道の産道が僕たちのために用意されていた。
もう誰もいないはずなのに、自ずと僕たちは息を殺して背をかがめ、まるで敵の基地に潜入するみたいにじりじりと侵攻していった。奥には囚われの美女が……、なんてオマセの夢想は土の匂いにすぐさま窒息した。狭い通路はきびしい男だけの世界だ。僕たちはただ倒すために進んだ。
オモチが先頭にいたので見にくかったが、急に視界がひらけた。一本の樹木を中心にして、まあるい広場ができていた。僕が鈍いオモチを追い越して、背を伸ばして広場に立つと、樹木の傍でこちらに背を向けて座っている男がいた。そして彼の足下には、色鮮やかでさまざまな形をした本が散らばっていた。本当に倒すべき敵が現れてしまった。だけども僕たち立ちすくんで何もできない。
ルネが地面を激しく踏んだ。パン、と快活な音が緑に広がる。敵はこちらへ向き直った。そいつは僕たちよりずっと歳上そうなお兄さんだった。お兄さんは「チッ」と舌打ちをすると、僕のことをキツく睨んだ。かと思うと立ち上がり、微笑したような口元をつくり、背を屈めて窮屈な産道から這い出て行った。
しばらくは、僕たちは奇妙な目配せをして動けなかったが、お兄さんが公園から逃走した気配を感じ取ると、みんな一斉に吹き出した。全身が哄笑にとりつかれて膝をついて転げまわった。なんて情けない奴! あんなお兄さんが、僕たちとおなじ情熱で煮えたぎって、しかもしばらく僕たちに気がつかないで夢中になってやがった! しかも独りさみしく、昼間の公園の影に座りこまざるをえない男子の憐憫! 「あれはモテない。死んでもムリだ」とルネはくりかえしかすれた声で笑っている。
「さいごちょっと笑ったじゃん! あれってごまかしてたよね!」
「ぜったいごまかしてた。ちょーだせえ!」
「ああ、でもなんか可哀想だなあ」
そう言って僕が苦笑すると、二人の腹はますます揺れた。ルネが本を一冊手にとって。
「こんなにたくさん囲ってやがった!」
と言ってその本の表紙を眺めた。
「はあ?」
ルネは間の抜けたような、あるいは怒っているような声を出した。僕も木の傍に屈んで眺めてみる。表紙はパンツの見えた女の子の……、絵だ。
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