第4話

 女の化粧が終わるのを待つ時間は、男にとってどういう時間なのだろうか。僕の父はいったい……と、考えはじめてまもなく、友人たちがあらわれた。僕はますます大人になった頭を揺らせて、彼らに駈け寄った。

「K公園に行く?」

 昨日行くと約束したはずなのに、僕は言葉に「遊び」をもたせた。口を閉じて気づいた。僕はエロ作戦の言い出しっぺにならないように、少年たちを誘導しようとしたみたい。ああ、黙っていればいいことを真っ先に言ってしまう。

「いや、いいんじゃないか、あんなもの。それよりもH公園はすごいらしいよ。近所のお兄さんがいっつも棄ててるらしいんだ」

「エッ、行かないの? 行かないならいいけど……え?」

 オモチが甲高い声を出して、目をパチパチと動かした。言葉は困り果てているようなそぶりだったが、目が輝いている。いつかこいつの無邪気な心に蹴飛ばされそうな気がした。僕たちはまだ、「アイツはコドモだよ」なんて蔑みを使うことはなかったが、ほぼ毎日、誰かが誰かの恐ろしい幼稚さに悩まされ、その暴虐の犠牲となった。今だって、僕は言わなくていいことを口走ったじゃあないか。行動しながら思考するという子どもの特性は、僕たちを野生児たらしめそして辱めるだけの、かなしい不可避の欲求みたいなものだった。さらにいま僕たちが探しているのは男の欲求だ。なんだか僕は怖くなった。カッターナイフはどこから現れるだろうか。

「あんな切れっぱし、欲しくなったらポストを開ければいいだけじゃん。それよりももっといいもん探そうぜ」

「僕はそれでいい。オモチは?」

「え、いいよ」

「え、ってなんだよ。オモチだって見たいんだろ。昨日あんなにはしゃいでたじゃん」

 ルネは欠けた歯をみせて笑う。

「やめてよ〜」

 オモチは照れてれ小躍りして、ルネに飛びかかる。ルネはそれを軽くあしらって、デブはまた蹴られた。

 お尻がいい音を炸裂させたとき、オモチは「あんっ!」と高く喘いだ。それでまた蹴られる。こいつの尻に刃物はないな……と、僕は悪いことを考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る