第2話
切れはしのお姉さんは三人の共通財産であり、今夜の宿泊場所については秘密基地にかくまおう。と、恥ずかしがりの三人の無言の折衷案を、太っちょのオモチがすすんで提案した。彼はおそるおそる、「どうかな」「いいと思うんだけど」などと僕たちに揉み手をしながら、慎重な強引さで肉迫してきた。その語尾には愚鈍なりの賢明さが滲んでいて、僕とルネは平生見られぬ引っ込みじあんの爆発に驚いた。オモチは温和でやさしい性格の、よく咽せる手粘な小太りであったはずだが、彼の眦がキッと鋭ったようになったのだ。
オモチの勇敢は、ルネを竦ませるどころかどうも癪に触ったらしかった。必死でいじわるな僕たちは、好奇心を噛み締めながら利口そうにしている人間をふいに叩きのめしたくなった。僕は乱暴に女がからんだ新鮮さにひそかに感動しながら、どうするべきかとルネに目をやった。ちょうどルネにも何か奇妙な感動が降りて来たところらしかった。
「オモチ……」
すばやく腕を組み、ウーンと唸ってみせてから。
「それがいいかもしれない」
と、言葉がこぼれた。
ルネはオモチの不気味な誠実さに敗北した。僕はなんだか弟に詫びたくなってきた。太っちょの少年は見慣れぬ影をお顔につけて、にっこり笑った。
この幼気な少年たちに、罪や背徳なんて甘いものはまるでなかった。僕らは秘密基地、といってもK公園の裏手にある、子どもたちだけのゴミ捨て場、にある「ポスト」に切れはしを入れて、花壇の傍にそっと置いてくることにした。
不埒なオモチが責任をもって全ての過程を担当した。僕は何も言うことができない。このデブに指図したら、大人みたいに僕を叱りつけそうだったのだ。そのかなしい苦痛に、僕は諦めていた。ルネはあえてその蔵(きす)む姿に背を向けていて、「盗むなよ」とただひとつ発することも、もちろん睨みつけることもしなかった。僕たちは皆おそろしく渇いていたが、このあたりになると、もう泡のように弱気になっていた。襲うことはできても、殴られることは嫌なので、僕は空のポストを見るのもやめた。
それでも去り際には、秋の寒さが這ってきて、影のような鉄ゴミのポストを冷やしているのを、僕はうしろに見てしまった。
「明日また探そう」
ルネが叫んで、オモチの尻をやさしく蹴った。
僕は駆け出し、誰も泣かなかった。
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