第37話 アルストム先輩の述懐
166 年齢偽装の程度問題
「向こうの窓際に座ってね」
全員が窓際に座ったところで扉が閉まる。
乗り物が動き始めた。
「この乗り物はおよそ1時間で
今回はその先に停泊中のアイタリデース号の先まで行く。だから合計
馬車の10倍以上の速さで走る乗り物でもそれくらいかかる大きさか。
こんな大きなものをかつての人間は作った訳だ。
まあもっと大きなイベリアそのものも作ったのだけれども。
勿論人間がこつこつ作った訳ではない。
幻像にも出て来た勝手に動く道具を大量に使って作ったのだろう。
それでも気が遠くなりそうだ。
かかる手間というか手数も、必要な材料も、かかった時間も。
「ところでペレス先輩、ひとつ質問いいかい」
この声はガイドツアーが始まってからずっと黙っていたアルストム先輩だ。
「アルに先輩呼ばわりされるのも正直変な気分だけれどね。何?」
「船長はどういうつもりなんだい?」
「どういう事かな?」
アルストム先輩はふっとため息をついた後、口を開く。
「このツアーさ。見学ツアーの設定は確かにあった。しかしこんなコースではなかった筈だ。確かあの映像を見た後は展示室でコロニーや船の模型を見て終わりだったんじゃないかな。
今回わざわざ船の実物を見せたり、その前にも妙に細かい説明を入れたり。その辺ペレス先輩のアドリブとは僕には思えないんだ。そういった工夫をするタイプでは無かったと思うしね。
更に言うと今回、正面から入れたのも予定外だったかな。予定では偽のパス・ダ・ラ・カザに到着。壁を壊して入った上、デモン10体くらいは相手にするつもりだったんだけれどね。
そういった事をする可能性があるのは1人しかいない。ほかならぬ船長さ。違うかい?」
「その辺は僕ではなくアルが知っているんじゃないのかな?」
ペレスさんはそう言ってアルストム先輩の方を見る。
「確かにどれもイアソン様の指示だよ。何故今回に限りそうしたのか僕はわからない。
今から五百年くらい前だよね。アルが此処を出たのは。アルはイアソン様を裏切ると言った。イアソン様はアルが別の道に進む事を決めたと言った。
ただね、その時僕は思ったんだ。本当にイアソン様とアルは道を違えたのかって。
僕が知っている限りイアソン様の考えを一番理解していたのはアルだった筈だ。カイやベルグはアルより先輩だけれど自分の業務や研究以外の事はほとんど考えていない。サッチャやフェールはただイアソン様に心酔しているだけ。
イアソン様の視線の方向を向いていたのはアルだけだ。少なくとも僕が知っている限りではね。
だから僕は今でも疑っている。アルは今でもイアソン様の指示のもとに動いているんじゃないかってね。
現に今回、アルはイアソン様が育成していた子を一緒に連れて来たよね。そしてイアソン様はアルが来るときに正規のゲートをアル達が通れるように開けた。
だからイアソン様が何故そうしたのか。それを本人以外に知っているとすれば僕じゃない。アル自身じゃないのかな。違うのかい?」
ちょっと待ってくれ。
情報量過多だ。
話の筋は概ね理解できる。
しかしそれではアルストム先輩がとんでもない年齢になってしまう。
どう考えても学生という年齢はない。
しかし同時に何処か納得していたりもする。
アルストム先輩はどう考えても俺より遥かに先、高みにいる存在だ。
今までの言動からその辺は充分わかっている。
流石に五百年以上なんて前から活動しているとは思わなかったけれども。
「お話中失礼します。ペレスさん。アルストムは何者なんですか」
ネサス先輩が尋ねる。
俺だけではなく、この場のほとんどが思っていた疑問を。
「僕の前任者だよ。イベリアの気候、海流、天候の管理の他、イベリア内における人間社会の動向を監視し場合によっては誘導する維持を司る亜神であった者。
500年前に維持神の座を去って亜神から大賢者に戻って、以降イベリア大陸の中を転々としていたけれどね。概ね学生の姿でさ」
はあっとアルストム先輩がため息をつく。
「ペレス、その辺は言わない約束だっただろ。事前に打ち合わせして、わざわざ先輩呼びまでしたのにさ」
「神は人に対して嘘はつかない。違うかい、アル先輩?」
苦虫を噛み潰したような顔とはこんな表情の事なのだろう。
勿論アルストム先輩の事だ。
「ところで亜神って何なんだ」
一方全く空気を読まずこんな質問をする奴もいる。
勿論ライバーだ。
この雰囲気の中でよくそれを聞けるなと思ったが仕方ない。
ここは俺が解説しておこう。
「
レベル100以上で基本4属性と生命属性を上級までマスターすると賢者になれる。更にレベル200以上で光属性と闇属性、第13属性を上級までマスターすると大賢者になれる。その上が亜神だ。ほぼ全ての魔法を使いこなし、世界の全ての知識を自由かつ任意に知ることが出来ると言われている」
あくまで本で読んだ内容だ。
ただメディアさんのところにあった本なので間違いではないだろう。
「確かにそんなんじゃ相当な年数がかかりそうだな」
「そんなレベルじゃないと思う」
うちの前衛2人はその辺アバウトというか何というか。
まあ確かにその辺のレベルは実感できるものではないけれど。
「アルストムは何故冒険者学校の学生をしていたんですか?」
ネサス先輩が尋ねた。
アルストム先輩はまた小さくため息をつく。
「大した理由じゃない。学生の身分が便利だったからだよ。社会に帰属しているようで帰属していない。だから生きるという事から少し離れた傍観者的立場であらゆるものを見ることが出来る。
冒険者学校の前には魔道士学校にいた事もあるしね」
「そして何の目的で私達をここへ連れて来たのでしょうか。
此処へ来たことがないというのは嘘だったのですか。
連れてくる事は当初からの、冒険者学校に入学してパーティを組んだ頃からの計画だったのですか?」
アルストム先輩は大きな大きなため息をついた。
「確かにここに来た事がないというのは嘘だよ。そしてここへ誰かを連れて来るのが入学時からの計画だったというのも事実だね。
仕方ないからその辺について軽く解説という名目の言い訳をさせてもらおうか。間違った事を勘繰られてもペレスに妙な事を言われても困るしね。
ただ僕の方を見る必要はない。耳だけこっちに向けておいてもらえれば充分だよ。どちらかというと今窓の外に見えている宇宙船の方が貴重だと思うからね」
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