164 大きな戦争
「それじゃ移動するよ。今度は少し歩くから」
俺達はペレスさんの後について歩き始める。
同じ場所ではないだろうけれど昨日とそっくりな白い廊下を通って、右へ、左へ、そして直進。
広いロビーのような場所に出た。
どことなく見覚えがあるような場所だ。
「ここは到着ロビー。宇宙船からバス、あの椅子がいっぱいある馬がいらない馬車のような乗り物で来た時、最初に到着する場所だよ。
元々は宇宙船に乗り込む人は別の場所を使っていたんだけれど、今は此処へ来る人も少ないからね、宇宙船へ乗る人も宇宙船から降りる人もここを使っているよ」
そう言われて気付く。
先程の幻像で最後に出た場所だ。
「ここからあの乗り物に乗るのか?」
「そうだよ。この宇宙港はかなり広いから、歩くくらいじゃとても案内しきれない。遠隔移動を使ってもいいけれど、それだと大きさが実感できないからね」
先程の幻像で出て来た階段を降りる。
小さい小屋ほどもある黄色く四角い乗り物があった。
よく見ると車輪も4つついている。
車輪は馬車のものより直径はやや小さいが倍以上の太さだ。
重さ的にこれくらいの太さが必要なのだろう。
馬車より車体が大きく人も大勢乗るから。
入口から階段を2段のぼると通路は右側に曲がる。
その先は通路の左右に2列ずつ、合計25列ほど座席が並んでいる。
高級な馬車のようにふかふかしていて座り心地は良さそうだ。
「乗ったら左右どっちでもいいから窓際の席に座って。その方が外を見やすいから」
俺は前から2番目の右側の窓際へ。
他もそれぞれ左右の窓際に乗る。
全員が座った後、入口の扉が勝手に閉まった。
そのまま前へと進み始める。
「凄え。これ、馬もないのに何で動いているんだ。魔法か」
いや違う、魔力を感じない。
「魔法とは少し違うけれど、まあ似たようなものかな。その辺は説明すると長くなるから省くよ」
しかしライバーの感想は続く。
「便利だな。魔法でなくとも動くならさ、魔法が使えなくても使えるよな」
「魔法より昔から使われている方法だからね」
「なら今は何故使えないんだ?」
「使わないようにしたんだよ」
ペレスさん、ライバーの感想交じりの問いにも丁寧に答える。
「さっきの幻像の部屋で簡単だけれど説明があったよね。『
だからここ、イベリアではこの方法は使わない事にした。その代わりに使うようになったのが魔法だよ。魔法なら必要な時に必要な場所で必要な分だけしかエネルギーも資源も必要としない。結果的に資源を節約できるんだ」
ちょっと気になったので聞いてみる。
「魔法を使う理由は資源を節約する為なんですか?」
「他にも理由はあるけれどね。大きな理由の一つではあるよ」
「魔法を使うとどうして節約になるのでしょうか」
これはネサス先輩だ。
「例えば水を例にとって考えてみるよ。
魔法を使わないで水を自由に使えるようにするには水のあるところから水路をひいてこなくちゃならない。
そうすると水路工事をするのに労働力が必要だよね。しかも水路の中にある程度水がないと端まで流れないよね。途中でなくなる水だってある。
結果、工事する労力と工事に必要な資材、そして水路を流す水。実際に使う水以外にこれらの余分な要素が必要になるだろ。
一方魔法で水を使う場合、手元に魔法で必要なだけ水を出せばいい。水路工事もしなくていい。水も出した分しか必要じゃない。魔力は必要だけれど他はずいぶんと節約できるよね。水路を牽くのと比べたらさ」
「ありがとうございます」
ティーラ先輩が頭を下げた気配。
「ただ魔法を広めた結果、魔物や魔獣なんてのも生まれてしまったんだ。
魔物は魔法に使用する微小な装置が間違った方法で組み合わさって生物の形を模したもの。魔獣は同じく微小な装置が元からいる動物に間違った形で組み合わさってしまったもの。
それでも人が魔法を使える限りはそれほど脅威ではない。むしろ資源節約の為には仕方ない。そういう訳で魔物や魔獣の発生についてはあえて黙認した。
その頃は魔法を使えない人が出るなんて事を考えていなかったからね」
つまり魔物も魔獣も元はと言えば作られた存在という訳か。
そしてその頃は魔法を使えるのが当たり前だったと。
「さて、宇宙船の場所まではもう少しかかる。だからさっきの話の続きも含めて説明しようかな。移住したその後の話をね」
ペレスさんは説明を再開する。
「移住の時、考え方の違いで3つの大陸に別れたといったよね。
考え方の違いを大雑把にまとめると、
〇 どれくらい便利さを犠牲にするか
〇 どのくらい資源を節約するか
についての違いなんだ。便利になるほど資源を消費する、そう思ってくれれば概ねあっていると思うよ。
ここイベリアは便利さをかなり犠牲にしても資源を節約して長く維持できる事を選んだ。マダガスカルは便利さをある程度そのままにして、そこそこ維持できる事を選んだ。そしてアナトリアは便利さをもっと追求する事を選んだ。
そうして千年程経過した後、アナトリアはエネルギーや資源が足りなくなったらしい。実際に内部でどういう事が起きたのかはわからない。
ただ此処イベリアから観測できる限りでは、アナトリアは2つの行動を選んだんだ。
アナトリアの人口うちおよそ5万人程はもう一度資源を求めて旅に出た。
そして残った大多数はおそらく残存資源を求め、マダガスカルとイベリアを襲ってきた」
戦争か。
それもきっと、俺の想像より遥かに巨大な規模の。
「ただ結果として襲撃は成功しなかった。これは星々の間がだだっ広くて何もない事がその理由。
広くて邪魔が無く、周りが見渡せる場所で火矢を武器とする船が戦うと考えてみて。
片方は小さい弱い船で矢を射る人も少ない。もう片方は大きい頑丈な船で矢を射る人はずっと多い。更に船が大きい分固定式の強い弓、弩弓のようなものも使える。
この条件で小さい船が大きい船に勝てると思うかな。
勿論資源節約をしない上、更に知識を高めたアナトリアが一番技術的には強い。同じ条件ならかなり強い船を作る事が出来た。ただし同じ条件ならという条件付きでだけれどね。
実際は、アナトリアが作った最新の戦闘用の船も大陸本体に比べると遥かに小さかった。そして小さな船の武器は大陸に備え付けてあるものより威力も弱く、届く範囲も短かった。
結果、戦う船が千隻単位で攻めても大きさが全く違う相手を倒す事は出来なかった。
その頃の事を知っているある人は言っていたよ。戦って勝ち目がない事はアナトリアの方もわかっていたんじゃないかって。その上で死に場所を求めて戦いになったんじゃないかって。
人口の1割以下である5万人しか移住の旅に出なかったのは、おそらくそれ以上を移住させる程の資源が無かったんじゃないかって。
だから残った人は死に場所を求めて、勝ち目のない戦いをしたんじゃないかって。
イベリアを出た移住の船がその後どうなったかは不明。まあ僕はまだ生まれる前だったから直接は知らないんだけれどね」
千年単位の話か。
気が遠くなるような話だ。
しかもこの大陸全部の規模を賭けて戦う戦争か。
そして大陸の全人口の9割以上は助からなかったのか。
俺の実感できる範囲を遥かに超えている。
「さて、この話はまた中断するよ。まもなく
あと今は座っているからわかりにくいと思うけれど、実は体がかなり軽くなっている筈なんだ。だから次、立ち上がる時はそっと注意深くやってね。天井は一応頭をぶつけても怪我しないよう柔らかく作ってはあるけれど」
「本当だ。身体が軽いぜ。腕だけでジャンプできる。でも何故なんだ?」
振り返ってみると座ったままの姿勢でライバーが天井近くまで浮き上がっていた。
「紐に石を結んで振り回す。そんな仕組みで地面に身体を押し付けているといったよね。今、僕らは回転している外側に近い部分から中心に近い部分へ移動している。石と紐のたとえで言ったら紐の長さを短くしたのと同じ状態だ。だから外側へ押し付ける力が弱くなったんだよ」
なるほどわかりやすい説明だ。
おかげで理解できた。
何気にライバー、便利な存在だと思う。
奴は状況を全く考えず、疑問をそのまま口に出してくれる。
そのおかげで俺達もしっかり説明を聞けるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます