163 大陸に上陸するまで

「ここまでの内容は理解できた? 勿論わからない事も多いとは思うけれど、人間が地球テラと呼ばれる遠い場所からやってきて、ここを作って住むようになったという全体像はわかったよね」


 俺達は頷く。

 しかし1人、疑問を持っている奴がいたようだ。


「あのさ、石に紐をつけてふりまわすのと同じで筒の中に俺達がいる事はわかったんだ。でもそれじゃ何で惑星とかいう球に人は立っていられるんだ? 下側にいたら落ちないか?」


 勿論これはライバーだ。

 確かに俺もその辺は謎だと思う。

 でも今、それを聞くのが正しいかどうかは疑問だ。


「うーん、それはね。惑星のようなとんでもなく大きくて重いものには人でも物でも自分に引き付ける力があるんだよ。重力って呼んでいるけれどね。まあこの辺は説明すると長くなるからさ。そんな力があるんだ位に思ってくれればいいかな」

「わかった」


 ライバー、納得してくれたようだ。


「さて、それで人が移り住む話になるんだけれど、その前にひとつ問題が起きたんだ。次に移り住む場所で人間はどんな風に生きるべきかって問題がね。


 結果、3つの派閥に別れたんだ。

 

 1つは自然共生派。元々住んでいた地球が住めなくなった原因。それをそのままにしておいたら、此処でもやがて問題が起きるんじゃないか。だからそうならないような生活に改めるべきだという考え方。


 2つめは現状維持の上、共生を模索する派。便利な生活を捨てるのはもう無理だ。だから今の生活水準を維持しつつ、資源の節約や環境の悪化防止を心がけようという考え方。


 3つめは進歩促進派。今更知識も生活も後戻りは出来ない。幸い今回の移住で資源も環境もリセット出来た。だからより先に進んで知識や技術の進歩で問題は改善すべきだという考え方。


 結果、3つの考え方は相いれる事は出来なかった。だから移住する場所を分ける事にしたんだ。

 自然共生派はここイベリアへ、現状維持派はマダガスカルへ、進歩促進派はアナトリアへ。


 幸いな事に3つの派閥の人数は誤差程度の違いだった。だから資材も均等にわけ、3つの新しい大陸へと移り住んだんだ。


 大陸の内部構造も3つの派閥それぞれでかなり違うよ。イベリアの居住空間は地球テラの環境を忠実に模した状態。中で人が感じる重さも、1日の長さも、1年を通しての気候もほぼ同じ。空には太陽も星も見える。日の出日の入りのように完全再現できなかった部分もあるけれどね。


 マダガスカルやアナトリアはまたかなり違うらしい。この辺は細かい資料がないから完全にはわからないけれどね。


 例をあげるとマダガスカルは空は一応あるけれどそこまでそっくりじゃないし、昼と夜は明るさが変わるだけ。

 アナトリアは基本的に空という場所はなくて、必要なら幻像のようなもので個々に見せればいいという感じらしいよ。


 そして移住以後3つの大陸はほとんど交流が無い状態。最初のうちは通信等も頻繁にしていたんだけれどね。百年も経たないうちにお互い連絡すらほとんどしなくなった。


 さて、次の説明は移住後の話に移るよ。でもここで3つの考え方があって、それぞれ3つの大陸に移り住んだという事だけは覚えておいてね」


 何かこの後の展開に関係するのだろうか。

 そう思っているうちに幻像は再び動き始める。


『さて、それでは宇宙船がイベリアの宇宙港へ入るよ。ただ遠くから沢山人を載せて来た大きな大きな船だ。だから一度に何隻も入れない。だから実際は出たり入ったりで1年がかりだったんだけれどね』


 あの宇宙船と呼ばれた構造物が、更に大きな構造物の中心に空いた巨大な穴の中にゆっくり入っていく。

 幻像が中へ入った状態になった。髪の毛のように細い糸状のものが多数接続される。


『ここがイベリア第一宇宙港、ラ・カザのメイン埠頭。ここは星々の間と同じで空気が無い場所だから、つないだあのパイプの中を人や物が通るようになっているよ。パイプは細く見えるけれど、あれでも直径は最低で5腕10m以上はあるんだ』


 はじめて大きさが対比可能になる。

 とは言え髪の毛の太さが5腕10m以上か。

 全体が大きすぎて想像しにくい。


『それではラ・カザの中へ入っていくよ。ここからは宇宙船からパイプを通って中へ入る人の視点で見ていくよ』


 窓が並んだ狭い室内のような場所だ。

 椅子が横方向に2列、間に通路をおいてもう2列。

 縦方向に同じように幾つも列が連なっている。

 椅子に座っているのは服装こそ見慣れないが人間、それも普人だ。


 窓の外は細い通路のような場所。

 床部分以外は同じ灰色の材質の壁だ。

 見た感じ、前へ向かって進んでいるように見える。


『全てが大きいからね。歩いて移動したら時間がかかって仕方ない。だから大きな馬車のような乗り物で移動しているよ。馬がなくても御者がいなくても前に進んでくれる乗り物だよ。

 後でこれと同じような乗り物に乗るから楽しみにしていてね』


 しばらく前に進むと景色が変わった。

 周囲が見覚えのある白い壁になる。

 乗り物が止まる。

 人々が椅子から立ち上がり、前に向かって進み始める。


 視点も同じように前へ向けて動き出す。

 前、右側に外に出る出口があった。

 出た先はやはり白い壁の広い場所だ。

 視点は歩いて行って階段をのぼる。


 白くて広い場所に出た。

 この建物に最初に入った時の、あの広い白い空間に似ている。

 椅子とテーブルが所々にあって、あの端末と呼ばれる箱もテーブルそれぞれに置かれていた。


『こうやって人は此処、イベリアへ到着したんだ。

 ここでの内容は以上、次は実際に宇宙港へ行って、宇宙船を見てみるよ。あの乗り物にも乗るから楽しみにしていてね』


 映像が止まって消えた。

 部屋が明るくなる。

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