162 イベリアに着くまで

『さて、何故このイベリアやマダガスカル、アナトリアが作られたかというとね、人が住む場所が足りなくなったからなんだ。

 大昔、イベリアが出来た頃よりずっと昔、人は地球テラと呼ばれる星に住んでいたんだ。イベリアからは光の速さでも何百年もかかる遠い場所だよ』


 今度は暗い中に青い球形の幻像が映し出される。


『昔、人間は全員この地球テラと呼ばれる青い惑星に住んでいたんだ。この青く見える部分は海、白く見える部分は雲、他は陸地だよ。

 この地球テラの表面積はイベリアの居住部分の340倍くらいあるよ。でも陸地は概ね3割だし、場所によっては寒すぎたり暑すぎたり乾きすぎたり。だから実際はそこまで住める面積は大きくないけれどね』


 ついに説明に地球テラが出て来た。

 俺が知っている伝説ではウラートと呼ばれていた場所だ。


『この 地球テラで人間を含む動物や植物、その他の生命は生まれたんだ。今ここイベリアにいる動物や植物も、元々は 地球テラで発生して今の形まで進化したものだよ。


 そんな地球テラは長いこと人間が住む唯一の場所だったんだ。でも人の数が多くなり過ぎて、地球テラだけでは土地も資源も足りなくなった。


 それで土地や資源が足りなくなって戦争まで起きたりした。戦争というのはわかるよね。国と国とが武器を使って争うことだよ。


 今までと違う、立体ではない幻像が映し出される。

 動く絵のようなものだ。

 どう見ても生物とは思えない形の何かが火を放つ。


 勢いよく飛んでいくでも魔物でもない単純な形の何かが異形の箱が並ぶ灰色の森の上で爆発する。

 光と、広がっていく巨大な雲。

 そして灰色の、すべてが壊れた遺跡のような緑も生物もない場所の映像。


『そのうち地球テラも度重なる戦争で住める場所がずっと少なくなってしまったんだ。仕方ないから地球テラの近くの星や宇宙空間にイベリアのような場所を作って移住したりもしたんだけれどね。


 結局それでは足りないという事で、他の場所に移住しようという話になったんだ。星々の間を長い時間をかけて航海する、大きな大きな船を作って他の場所に移住しようという話にね』


 今度は再び立体に見える幻像だ。

 星々の間に巨大な人工物と思える細長い何かがいくつもいくつも浮いている。

 それらはやがて前へ進み始めた。

 真っ暗な星々の間を、更に先へ。


『移民の為に造られた大きな船の集団だよ。この映像は第52次超長距離移民船団だよ。これから光でも四千年かかる距離にある恒星アルタ32を目指して、地球テラの近くに設けられた宇宙港から出発するところ。


 ところでアルタ32という恒星の名前、さっき言ったけれどおぼえているかな。イベリアの近くにある恒星だよ。

 そう、この船団で来た人達がここイベリアに現在住んでいる人の先祖にあたるんだ』


 細長い巨大な筏のような異形の、そして確かに人工物だとわかる巨大な構造物が映し出された。


『この大きな船は第52次超長距離移民船団の旗艦で新メガロード級第12番艦、アルゴス号。この時点で最新で最大の移民船だよ。このアルゴス号はもう1隻、連絡駆逐艦のアイタリデース号と一緒にここ乗降場ラ・カザに停泊している。後で見学するからおぼえておいてね』


 大きいといっても対比するものがないからよくわからない。

 後で実際に見る事が出来るなら、その時にわかるだろうけれども。


 幻像が再び変わる。

 星々の間の映像だ。

 オレンジ色の明るい大きな球が中心にあり、5つの球形が周りをまわっている。


『さて、この中心が恒星アルタ32。第52次超長距離移民船団は長い旅をしてやっとここにたどり着いた。でも此処には地球テラと同じようにそのまま住めるような惑星は無かった。実はそれは旅に出る前からわかっていたのだけれどね。

 

 ならどうするか。無いなら作ればいい。地球テラの近くにあった資源はほぼ使ってしまった。しかし此処にはまだ資源がある惑星がある。

 

 だからね。この一番外側にある惑星を使って、新しい住処を作ったんだ。この惑星はラシェーラと呼ばれている。今はもうないけれど。


 このラシェーラという星1つを壊して資源として分類して造ったんだ。イベリアやアナトリア、マダガスカルの3つの大陸型宇宙スペース居住空間コロニーをね』


 船団から幾つかの塊が星へと近づいていく。

 そのままどんどん近づいていく。

 幻像が変わる。

 灰色の強風が吹き荒れる中、巨大な箱から蜘蛛のようなものが出てくる。

 それらは地面を掘り始める。


『これらは船団が用意した人工の自動装置だよ。生物ではないけれど目的に沿って勝手に動く道具の一種。これらの装置で必要な資源を集め、必要な形に加工していく。これだけでも長い長い時間がかかったんだよ』


 回転する球体の一番外側部分に何本から長い柱のようなものが立っている。

 それらの柱から星々の空間へ、小さな埃のようなものがまき散らされていくように見える。


『あの柱で惑星ラシェーラで集めた資源を星々の間へと運び出すんだ。あの柱で地上から星々の間まで持ちあげて、予定の場所へと放り出して。

 あの小さな埃のようなものが資源だよ。ああ見えても1つ1つはこの部屋の数百倍以上の大きさなんだ。他が大きすぎるから埃のようにしか見えないけれど』


 そして今度は先程見たのと同じ、大きな異形の船が映る。


『移動にも住む場所を作るにもとにかく時間がかかる。とても待っている事なんでできやしない。だからこの間、人は寝て過ごすことにした。

 勿論普通に寝るのとは違うよ。特殊な方法、千年近い期間でもそのまま寝ていられる方法。冷凍睡眠コールドスリープなんて呼ばれているけれどね。実際にはただ寒くしているだけじゃないけれど』


 棺桶のような装置の中に大人の男性が入っている映像。

 顔部分や身体のあちこちにカラフルなコードが繋がった状態で、動かず静止している。


 幻像がまた変わった。

 今度はまた星々の間だ。

 しかし先ほどあった惑星ラシェーラがかなり小さくなっている。

 そして埃のようなものが集まって形をつくりつつある。


『さて、惑星ラシェーラから集めた材料で、3つの大陸型宇宙スペース居住空間コロニーが出来上がって来た。此処では1つしか見えていないけれどね。同じものがあと2つ、別の場所にあるよ。


 惑星ラシェーラが動くのにあわせて必要な資材をそれぞれの場所に出しておいたんだ。あとはそれをこうやって組み立てていけばいい』


 幻像がまた変わった。

 構造物は少し前に幻像で見た大陸型宇宙スペース居住空間コロニーの形になっている。

 その代わり埃のように散っていたものや惑星ラシェーラと呼ばれていた星がなくなっていた。


『資源としてほぼ全部を出した惑星ラシェーラは消えた。代わりにイベリアやマダガスカル、アナトリアという3つの大陸型宇宙スペース居住空間コロニーがそれぞれ出来上がったよ。


 さあこれで住む場所が出来た。それじゃみんな起こして移り住もう。そんな訳で全員がゆっくり目覚めた。そして出来上がったばかりのこのイベリアにも人が住むようになった訳。

 それでは住む為に宇宙船がイベリアに行くよ』 

 

 ここで映像と音が止まる。

 自然な止まり方ではない。

 どうやらペレスさんがまた何か説明をするようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る