160 朝の集合前に
周囲は真っ暗だ。
そろそろ朝の筈だが。
そう思って俺は現在の状況を思い出す。
「照明をつけてください」
『了解いたしました』
あっさり部屋が明るくなった。
しかしこれでは今の時間がわからない。
普通は外の明るさを見て判断する。
しかしここの窓らしき場所はどうやら外には面していない飾りの模様。
だがよく考えたら此処は極限の先。
どのみち外が見えても時間はわからない。
素直に端末に聞くしかないだろう。
「今は何の鐘の時刻ですか?」
『了解いたしました。概ね6の鐘の時刻を5分ほど過ぎた時刻です』
いつもより1時間遅く目が覚めたというところか。
自在袋から布を出して魔法で濡らし、顔を拭きながら思う。
今日の予定は9の鐘の時刻に集合してこの施設の案内ツアーだ。
それまでまだ3時間近くある。
昨日と同じように不明な点の質問をしようか。
そう思って思い出す。
そうだ、アルストム先輩が言っていた。
各自朝食は自分の部屋で頼めと。
どんな朝食があるのだろう。
「朝食を食べたいと思うのですが、お願いしていいですか」
『了解いたしました。どのようなメニューになさいますか。例を表示いたします』
あの幻像魔法のような方法で料理が表示される。
簡素なものから豪華なものまでさまざまだ。
『必要な場合は料理単品を追加する事が可能です。また分量は自由に調節可能です』
おっと、これは。
なら久しぶりに犬の獣人らしい朝食でも食べるとしよう。
肉多め、野菜普通、パンなし。
それならば……
「3番からパンを抜いたものをベースにしてください。あと朝食で食べられる肉料理の単品は何ですか」
『了解いたしました。50件まで表示いたします』
よしよし。
それならば……
◇◇◇
かなり久しぶりに肉食獣系獣人風の朝食なんて食べてしまった。
なお肉食獣系獣人の典型的な朝食というのは、
〇 鶏胸肉や猪もも肉等脂肪が少ないあっさりとした肉を茹でたもの
が主食で、
〇 内臓肉の塩漬けを焼いたもの
〇 骨を煮込んで野菜を加えたスープ
〇 根菜系サラダ
と一緒に食べるのが基本。
場合によっては内臓肉塩漬けが内臓肉の煮込みになったり根菜ではなく豆類のサラダになったりする。
これを細かく注文できるのをいい事に再現してみたのだ。
ただ全く同じ組み合わせは作れなかったので、
〇 蒸し鶏に甘酸っぱいタレをかけたもの
からタレをかけないよう注文したものをメインにして、
〇 ベーコンエッグ3人前
〇 牛にこごりスープ
〇 ポテトサラダ
という組み合わせになった。
正直なところこの組み合わせの方が、元々獣人の村で俺が食べていたものより今の俺の口にはあうと思う。
今の俺はかなり普人風の味付けに慣れてしまった。
きっと以前の獣人村時代の味付けでは薄味すぎるだろう。
朝食後は時間があるのをいい事に朝風呂。
その後、端末に此処の事を幾つか質問したところで予定の時間近くなったので部屋を出る。
集合場所である昨日夕食を食べた部屋へと到着。
「おはようございます」
挨拶しながら周りを見ると半分程度集まっていた。
いないのはライバー、アンジェ、ティーラ先輩、ルイス先輩、そしてアルストム先輩か。
「ライバーとアンジェはどうしたんだろう」
「2人とも起きてはいたようだけれどさ。ぎりぎりまでゆっくりしたいから先に行ってくれってさ」
モリさんが確認済みという訳か。
それならまあいいだろう。
アルストム先輩はいつも全員が揃ってから来ると言っていたな。
なら後はティーラ先輩とルイス先輩か。
そうおもったらふらふらと先輩2人が登場。
「おはようございます。どうしたのですか、ティーラは」
「あの端末は何でも答えてくれるようだ。だからついつい魔法関係でわからない事を質問し続けた。気付いたら8半の鐘の時刻」
なるほど、それでいかにも寝不足という感じなのか。
なおネサス先輩、ルイス先輩には何も質問しない。
つまりはいつも通りという事なのだろう。
「それじゃライバーとアンジェを呼んでくるか」
モリさんが動きかけたところをフィンが手で制する。
「端末で呼び出せばいいよ。ライバーの部屋とアンジェの部屋、両方へつないで」
『了解いたしました。どうぞ』
「ライバー、アンジェ、時間だよ。起きているなら急いで来て」
「わーった。今行くぜ」
「私も今から部屋を出るから」
返答が聞こえた。
なるほど、端末はこういう使い方もできるのか。
何でも出来るんだな。
ほどなく扉が開いてうちの前衛2人が入って来た。
だが朝なのに早くも何か疲れたような表情だ。
それも2人とも。
「どうしたの。何かあったの?」
「いやさ。何でも注文できるって聞いたからな。なら好きなものを思い切り注文したら食べ過ぎた」
「ライバーも? 何でも注文していいのなら頼まないと勿体ないよね、やっぱり」
つまり朝食を食べ過ぎたという訳か。
何だかな。
でも俺もあまり大きな事は言えない。
普人の基準ではかなり偏った重い朝食を食べたから。
さて、全員揃ったからそろそろ出てくるだろうか。
そう思ったらちょうど扉が開いた。
予想通りアルストム先輩、登場だ。
ただ入って来たのは1人ではない。
褐色の肌に白くて長い髪の、モリさんより小柄な少年も一緒だ。
「おはよう。時間より少し早いが全員揃ったようだね。それじゃ此処、極限の向こうにしてこの大陸最古の港、ラ・カザの見学会と行こうじゃないか。
なお案内はペレス先輩がやってくれるそうだ。こう見えても僕のかつての兄貴分でね、此処の事ならほぼ何でも知っている筈だ」
ペレス先輩と紹介した人物、どう見ても12~3歳くらいにしか見えない。
しかしアルストム先輩は兄貴分だと言っている。
見た目通りの年齢ではないという事だろう。
「ひょっとしてアルストムが以前、今でも時々連絡を寄越してくる兄貴分がいると言っていたのは貴方ですか」
「そんな事を言っていたのかい、アルは」
アルストム先輩はペレス先輩と呼ばれた白髪の少年にわざとらしく肩をすくめてみせる。
「僕はイアソン様に破門された身だからね。ペレス先輩に頼らないと何も情報が手に入らないからね」
「破門じゃないと思うけれどね、僕は」
「でもイアソン様から見れば裏切りじゃないのかい。こっちへとどまらずに向こうへ戻ったのは」
「裏切りだとは思っていないと思うよ。寂しそうではあったけれどね。アルもキルケと同様向こうを選んだのかって」
アルストム先輩とペレス先輩と呼ばれた一見少年に見える白髪の人、さらにイアソン様と呼ばれている人は割と親密な間柄のようだ。
少なくとも2人の話しぶりからはそんな感じが伺える。
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