159 就寝の前に
その後、俺たちはそれぞれ個室へと別れた。
「ベッドもトイレも風呂もひととおりついている筈だから。わからない事があっても端末に聞けば教えてくれるから問題ない筈だよ」
フィンはそう言ったけれどわからない事は結構あった。
トイレの形が違うとか、水の出し方がわからないとか。
ただその辺は端末に聞いたところ、非常に具体的に説明して貰えた。
何もない空間に現物そっくりな立体的なものが出てきて、説明とともに動くという形で。
ただ現物そっくりにみえるけれど実態が無い。
幻像魔法の一種かとも思ったが魔力は感じない。
これもやはり魔法とは別の力のようだ。
とにかく違い過ぎてよくわからない。
全てが疑問でわからなくなる。
落ち着け俺。
焦点が合わなくなりそうな思考を整理する。
此処は伝説やフィン、アルストム先輩達の話からすると港の筈だ。
遠い昔、人々がこの大陸にやってきた時に作られた、今もその時の船があるという港。
しかしこの高地に海があって港があるという事なのだろうか。
今ひとつわからない。
ふと思い出す。
確か端末はわからない事も答えてくれる筈だと。
だから俺は疑問を口に出してみる。
「ここは港なんですか」
『了解いたしました。ここは宇宙港です。正確にはイベリア
知らない単語が出て来た。
反射的に尋ねる。
「宇宙港とは何ですか」
『了解いたしました。宇宙船を係留し、人や荷物等を積み下ろしする場所の事です』
この宇宙という言葉が他と違う、鍵になる言葉のようだ。
「宇宙とは何ですか」
『了解いたしました。意味はいくつかあります。① 我々が存在する全ての広がり。② その全ての広がりのうち、人間が居住する施設及び人間が居住する惑星の大気圏内以外のこと。
現在の一般的な言葉では、『星々の場所』と呼ばれているものとほぼ同一の意味であると判断いたします』
宇宙とは星々の場所という事なのか。
「夜空に見える暗い場所だと思っていいんですか」
『了解いたしました。イベリアの大陸区域内で視認可能な夜空は
答はあっさりと返される。
しかし答が出たから理解できるという訳ではない。
宇宙という単語すら俺は知らなかった。
そして星々の場所を旅する船。
俺の理解を少々超えている。
しかし伝説で伝えられている話とは確かに符合する。
遥かな海とは星々の場所の事を指しているのだろう。
遠い昔、それまで人々が住んでいた場所が住めなくなった。
そこで船、端末が宇宙船と言ったおおきな船を造った。
それで遥かな海こと星々の場所を航海して来た。
そして港を作って此処へと来た訳だ。
そうだ、それならまだ質問すべき事はある。
「その宇宙船で人は何処からやってきたんですか」
『了解いたしました。太陽系第三惑星である
俺の知っている名前と違う。
しかしさっきの説明でも出て来た名前だ。
「その
『了解いたしました。同一の場所を違う言語で表現したものです』
同じ場所のようだ。
「その
『了解いたしました。
なおこのイベリアの大陸部分は
使われている単語でわからないものがそこここにある。
だが俺が気になったのは既知のある単語だ。
「なら
『了解いたしました。
よくわからない説明だが、星であることは間違いないようだ。
「俺が今いる場所は星ではないんですか」
『了解いたしました。星という単語の定義によります。星という単語が宇宙空間に存在するある一定以上の凝集物を示す場合は、イベリアも星の一種です』
この言葉では俺の言っている意味が伝わらないようだ。
なら角度を思い切り変えて聞いてみよう。
「俺が今いる場所は神が作ったものですか」
『了解いたしました。この施設をはじめ、イベリア全体は第52次超長距離移民船団によって初期構造が建造されました』
図書館で読んだ本を思い出す。
目指した海域には住めない岩場ばかりの大陸しかなかった。
だから船の武器で住めない大陸を打ち砕き、幾つかの居住可能な新しい大陸を作った。
伝説のその部分にあたるのだろう。
「第52次超長距離移民船団には神は乗船していたんですか」
『了解いたしました。第52次超長距離移民船団には人間の他、環境を創成する為に地球で確認された生物のうち3割に近い種について、冷凍受精卵、種子、その他遺伝情報の形で積載していました。
神という物質的・具体的存在は積載しておりませんが宗教、信念という形では乗船していた人間個々の精神に内在していたと思われます』
「神という『具体的な存在』は乗船していないんですね」
『了解いたしました。物質的存在を伴う神というものは現在まで確認されておりません』
神はいない、そういう回答だと思っていいだろう。
更に念の為聞いてみる。
「その船団を指揮していたのは神ではなく人間ですね」
『了解いたしました。現象面においてその通りと判断いたします』
つまりこの大陸は神ではなく人間が作った訳だ。
俺の質問と理解に間違いが無ければだが。
更に俺は質問する。
「なら
『了解いたしました。
この大陸とは違うという訳だ。
念押しで質問する。
「人間は
『了解いたしました。人間をはじめとする現状で既知の生物種は全て地球において自然発生したものとされています』
ここまで質問した事をまとめてみる。
① 人間は
② 人間は巨大な宇宙船を造り、星々の場所を通ってここが存在する場所へとやってきた。
③ 人間はこの場所を作って移住した。
俺にとっては神話レベルに昔で、やはり神話レベルで大きすぎる話ではある。
でもそれの主体は神ではなく人間。
質問してわかったのはまとめればそれだけだ。
俺の質問の仕方が悪かったのだろうか。
なら質問と共にわからない事が増える中でどうすれば全体像が理解できるようになるのだろうか。
ふと思う。
フィンは今の知識を手に入れるまでどれくらい質問を重ねたのだろう。
アルストム先輩はどうなのだろう。
ここでむやみに質問を繰り返しても効率は良くなさそうだ。
取り敢えず明日にあるという説明を待った方がいいのだろう。
実際そろそろ休憩した方がいい。
今日は一日中動きっぱなしだったし。
俺はベッドに横になる。
「照明を消してください」
『了解いたしました』
暗くなった中で、俺は睡眠魔法を起動した。
新たな知識と新たな疑問とで、そのままでは眠れそうになかったから。
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