158 神の定義

 夕食を食べ終わった後。


「フィン君は別として、後の皆にはここの施設の使い方を軽く説明しておいた方がいいだろう。だから皆、ついてきてくれ」


 アルストム先輩にそう言われたので皆でついていく。


「まずはこの扉。開くことが出来る場合は近づくとこんな感じでこの四角い部分が青色に点滅する。こんな感じにね。これに触れると扉が開く」

 

 先輩の近くにある突起が青色に点滅している。

 手を触れるとふっと壁に切れ目が生じ、先程と同じように開いた。


「次は部屋の備品の扱い方だな。基本的には端末に話しかければどうにでもなる。端末とはこれの事だ。概ねこんな感じでディスプレイがあるから見ればわかる」


 この施設に入って最初の場所にあったものと同じ箱形のものだ。


「例えば照明をもう少し暗くしたい場合はこんな感じで頼むわけだ。

 この部屋の照明をもう少し暗くしてくれ」

 

『了解いたしました』


 箱から先ほどフィンと話していたのと同じ声が聞こえた。

 少し部屋が暗くなる。


『このくらいでよろしいでしょうか』

「ああ結構だ」

『了解いたしました』


「とまあ、こんな感じだ。基本的に端末に向かって命令すれば応えてくれる。出来ないときは出来ない旨を言ってくる。これを利用して他の部屋にいる誰かと話す事も出来るし今まで知らなかった情報を知る事も出来る。


 でもまあ、その辺の情報を知るのは明日にしておいた方がいいかな。明日の説明を聞いてからの方が頭に入りやすいだろうからね。

 ついでだから明日の予約もしておこう。

 明日、ここの全員でこの施設全般、およびこの大陸についての見学および説明を頼みたい。何時に可能かな」


『少々お待ちください……明日9時00分から可能です。予約なさいますか』

「そうしてくれ。集合場所はこの部屋指定で。

 あと全員の部屋に明日8時30分に目覚ましをセット。起きて反応するまでスヌーズで鳴らしてくれ。起きているなら鳴らす必要はない」

『了解いたしました』


 今少しわからない言葉が出てきたな。

 おそらく言葉の流れから時刻を表すものだろうと推測出来るけれど。


「説明を忘れていたね。この中では時間は鐘ではない表現をするのが普通だ。とは言っても難しくはない。鐘の名称とリンクしているからね。見学開始の9時というのは概ね9の鐘と同じ時間。8時30分というのは8半の鐘と同じだ。鐘と鐘の間の1時間を60に分けて表現するだけが違いかな。半時間が30分、4半時間が15分、5半時間が12分というようにね」


「そう一気に言われても覚える事が出来ません」


「忘れたらあとで端末に時間の表現について質問すればいいさ。答えてくれる。他にも単位が一部異なるけれど概ね簡単に換算する事が出来るようになっているから心配しなくていい」


 簡単に換算できるか。

 その辺少し何かひっかかった。

 それってつまりは……


「その簡単に換算できるようになっているというのは意図的なもの? そうなるように誰かが仕向けたという事?」


 俺の抱いた疑念をティーラ先輩が質問する。


「そうだろうね。例えば1腕という単位、これは本来成人男性が思いきり腕を広げた長さという意味だろう。しかし旧世界で使われていた単位とある程度の互換性があった方が便利だ。


 そこで誰かが関与して、旧世界で使われていたメートルという単位と換算しやすいように働きかけた。結果、1腕は2メートルちょうどとなった。


 重さや距離に使う長さなんてのも同じだよ。概ねそういった関与があって旧世界の単位と換算しやすいようになっている」


「その関与したというのも神、または神の手先でしょうか」


 ネサス先輩の問いかけにアルストム先輩はわざとらしく肩をすくめて見せた。


「その存在を神と呼ぶならその通りだね。ただそうなると神というものの定義をしなくてはならない。

 ネサスが言う神とは人類をはじめこの世界全体を造り出した創造神かな。それとも聖神教会で信じられていて教えで名前が出てくる神かい。あるいは職業ジョブの上級職として存在すると伝えられる大賢者以上、第4レベル以上にある元人間のことかい。この大陸を管理している数人の人物のことかい。

 神と言っても人によって様々な存在を想像する訳だ」


「今アルストムが言った神と呼ばれる存在は、全て違う存在と考えていいのでしょうか」


「第4レベル以上の職業ジョブ持ちとこの大陸を管理している数人とはほぼ同じ意味だね。そして彼ら彼女らを神と呼ぶのなら、先ほどのネサスの質問の答えは是だろうね」


 アルストム先輩はそこで一息おいて、全員を見回してから続ける。


「何故そうしたのかは明日、ひととおり説明を聞いてからという事でいいかな。正直何もかも質問されても答えきれないしね。僕だって知らない事もあるしさ。

 どうしても気になるなら自室で端末に聞いてみる事だね。そうすればある程度親切に教えてくれると思うよ。また別の疑問が生じることになるかもしれないけれどさ」


 先輩はもう一度全員を見て、そして付け加える。


「それに今日はもう遅いだろう。疲れてもいるしね。そろそろ休憩の時間にするべきだと思うよ。違うかな。

 あと明日の朝食は各自自分で端末に命令して自分の部屋で食べてくれ。食べ物の好き嫌いもあるだろうし起きる時間の違いもあるだろうしね。その方がいいだろう。

 そして明日は9の鐘の時刻、この施設風に言うと9時ちょうどにこの部屋に集合だ。遅れたら遠隔移動魔法の応用で直接呼び出すからそのつもりで」

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