157 豪華な夕食

 アルストム先輩は壁の表示通り歩いていく。

 廊下は先程の部屋と同じ素材で出来ているようだ。

 壁、天井、床ともに白く塗られた金属素材。

 天井と壁の境目で白い曇りガラスのような素材が光っていて屋外と同じ明るさで廊下を照らしている。


 壁の所々に手のひら大の白い突起があり、文字1字と3桁の数値が書いてある。

 どれも同じ高さ、俺の腰よりやや高めの位置にあるが用途はわからない。

 ただ番号は続き番号になっているようだ。


「この突起は何?」

 ハミィ先輩が尋ねる。


「扉の鍵みたいなものさ。押せば扉が開くようになっている」

「でも扉の境界線というか継ぎ目が見えない」

「照明と塗装で見えなくしているだけさ。走査かけてみればわかる」


 俺も言われた通り走査をかけてみてみる。

 確かに突起の横に扉サイズの切れ目らしきものが確認できた。

 

「でも押しても何ともならないぞ」

 ライバーが歩きながら白い突起を押したり扉部分を押したり試している。


「開く権限が無いと反応しないんだ。僕達用に借りた部屋はもう少し先だからね。それ以外は触っても開かないよ」

「なるほどな、魔法で鍵がかかっているようなものか」

「そういう事」


 ただ使われているのは魔法ではない。

 違う方法だ。

 魔力を感じない。


 T字路を青と白の表示の通り左へ曲がる。

 今までと比べ少しだけ変化があった。

 少し先で青と白の表示が途切れ、そのすぐ先にある扉の把手のにあたる部分が青色に点滅している。


「あれが目的地なのでしょうか」

「そういう事だね」


 先頭のアルストム先輩が突起に触れる。

 扉部分がすっと向こう側に下がり、そして上へと上がって行った。


「さあ到着だ。好きな席についてくれ。すべて用意は出来ているようだからね」

 中はやはり白い天井と白い壁。

 ただ床はやはり白色だが石のように見える素材だ。

 よく見ると少し黄色っぽい斑点と粒がある。

 本物の石かどうかは俺にはわからないけれども。

 

 広さは奥行き4腕8m幅2腕半5mくらいだろうか。

 ここも廊下とおなじような方法で明るくなっている。

 奥に窓があってカーテンが閉まっている。

 中央にテーブルが6台、四角く囲むように配置されていて11脚の椅子、11人分の料理が並んでいた。

 

「思ったより豪華ね」

「味も悪くは無いと思うよ」


 出ている食器は俺達が普段使っているものと同じ形状だ。

 皿もフォークもナイフも、コップも。

 料理は

  〇 肉や野菜を何かで固めて四角く切って並べたもの

  〇 乳白色のどろっとした感じの多分スープ

  〇 白身の魚の切り身を焼いて白いソースをかかったもの

  〇 楕円形に成形して焼いた肉に茶色いソースがかかったもの

  〇 握りこぶしくらいの茶色いパン5個

  〇 白いやや深い皿に入った乳白色で表面がこげているもの

  〇 透明なグラスに入ったやや黄色味をおびた透明の液体

  〇 白色のカップに入った明るい茶色の多分お茶

という内容だ。


「それでは食べようか」

「毒とか入っていないよね」

「心配しなくていいよ。ここは問題ない」


 アルストム先輩とフィンが食べ始めたのを見て俺も食べ始める。


「美味しい。でも味が濃い気がする」

「確かにそうですね」

「このパン柔らかい!」

「この肉、美味うまいけれど柔らかすぎるな」

「ミンチにした後、タマネギか何かを混ぜて固めた感じだなあ。でもただ肉を焼いたより美味しいか」


 概ね皆が言っている通りだ。

 美味しいのだけれど少しばかり濃い味だ。 

 だからパンの消費量が多くなる。

 パンも普段食べているものと比べると中が白くて柔らかい。

 美味しいが食べ応えが無いのでその分食べる量も多くなる。

 フィンがパンを倍でと言ったのはこの辺がわかっていたからだろう。

 という事はだ。


「フィンはこれを食べた事があるのか」

「此処ではないし、完全に同じものでは無いけれどね。前に行ったラトレ迷宮ダンジョンの秘密の場所で似たような料理は食べたよ」

「ずるいじゃない。こんなに美味しいのを」

「あの場所は秘密だと言われたからね」

「それもその、何とか様という人に?」

「そう、イアソンさんに」


 やはり知っていたようだ。


「これ、ショーンに一度食べさせたいよね。そうすれば同じような料理を今後も作ってくれるだろうし」

「そのショーンとはどなたでしょうか」

「学校の1年生で時々一緒に行動しているパーティの盾役。とにかく料理を作るのが上手なの」

「そういう担当が一人いるといいですよね。うちは全員機能食主義でして」

「単に料理の技術が無いだけ」


 先輩達のパーティにも苦手科目はあったようだ。

 うちはモリさんがそこそこ器用だからその辺はまだましかな。

 ショーンには敵わないけれど。


「この施設に住んでいる人は全員こんな美味しいものを毎日食べているの?」

 

 アンジェのそんな台詞にふっと疑問が生じる。


「普段はもっと簡素なメニューだと思うよ。今回はパーティ用という事でひととおり揃ったそこそこ豪華なものにしたから」


 フィンの返答はアンジェに対するものだが俺が思った疑問はそうじゃない。


「ここは誰か人が住んでいるのか? 住んでいるとしたら何人くらい?」

「僕の知っている限りでは10人程度だね」


 俺の質問に答えてくれたのはアルストム先輩だ。


「それってイアソン様とか前に言っていた人? あと第一世代とか前に聞いたけれど」


「第一世代でここにいるのはイアソン様だけだね。メディア様は別の場所だし、もう1人は大陸で一般人に紛れているからね。

 イアソン様の他には、イアソン様の補助で大陸の管理をしているのが2人、知識の伝承管理をしているのが3人だね。僕の知っていた時と同じならさ。

 でもその辺は僕より詳しいのがいずれ説明してくれると思うよ」


「その中の1人が来るっていう事?」

「明日は見学コースへ行くつもりだからね。その時に案内をしてくれる筈さ。

 今日は質疑応答はここまで。あとは明日としよう」


 見学コースか。

 それで俺は納得できるのだろうか。

 何に対してなのか不明確で俺自身よくわかっていない疑問が解けるのだろうか。

 

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