156 入口にて

「用意が出来るまで少し時間があるようだからね。まあ取り敢えず皆、その辺の椅子にかけてくれ」


 そう言って手近な椅子にどっしりかけたアルストム先輩を不審気な表情で見てネサス先輩が尋ねる。


「ここは本当に安全な場所だと思っていいのでしょうか?」

「ああ、大丈夫さ。ここはどうやら一般用の場所らしいからね。一応軽く説明しておこうか」


 アルストム先輩は全員が座ったのを確認するよう周囲を見て、それから再び口を開く。


「遺跡、施設、極限。呼び方は色々あるけれどね。これらには一般の人が入っていい場所と一般立入禁止の場所がある。正規のルートで入っていい場所へと来た場合は基本的に魔物は出ない。勿論当初の管理がされている場合に限るけれども。

 元々これらの場所は人の為に作られた場所だからね。この大陸そのものと同じでさ」


「極限の先には必ずデモンが出る訳じゃないのか」

迷宮ダンジョン経由で極限に入るのは正規のルートでは無い。壁に穴をあけて無理やり侵入するのに近い方法なんだ。だからデモンなんてのが出てきたりする。

 しかしどうやらパス・ダ・ラ・カザを経由して此処へ来るのは正規のルートらしい。門を通って正面玄関から入るようなものだね。この場合は入ることが認められているからデモンが出たりなんて事はない訳だよ」


「ならデモンは門番みたいなものなのか」

「門番というか警備員だね。でもまあそういう事だ」


 なるほど。

 今のハミィ先輩とアルストム先輩の質疑応答を聞いた限り、此処は安全な場所のようだ。

 しかし細かい疑問は幾らでも出てくる。


「管理がされていると今言いましたが、それは誰の手でですか。この大陸を作った神というような曖昧な存在ですか」


 今度はネサス先輩だ。


「神という存在が曖昧なのは認めるよ。しかしこの大陸を作った神は残念ながらそんな曖昧な存在じゃない。かつて間違いなく存在したし、僕が把握している限り今なお3人は現存しているからね。


 ただここを実際に管理しているのは自動で動く機械さ。機械というのはまあゴーレムみたいなものを想像してくれればいい。手を加えずとも命令通りに勝手に動く道具の一種だね」


「ゴーレムにしては魔力を感じない」


 確かにティーラ先輩の言う通りこの周辺には魔力をほとんど感じない。

 魔素マナも割と薄目のようだ。


「魔力とは違う方法で動いているだけさ。施設の中ならその方が簡単で維持管理もしやすいみたいだからね」 


「そんな力があるの」

「もともとはそっちの力の方が先で、魔法というものが後に出来たらしい。その辺はまあ、明日以降に詳しくという事で。長くなるからね」


「つまり詳しく説明するつもりがあるという事ですか。そしてそれだけの事をアルストムは知っていると」

「僕の知識も完全じゃないさ。勿論他に説明要員がいなければ僕がやるけれどね。でもおそらくその辺の説明はもっと詳しい人がしてくれると思うよ」


「それは神ですか」

「どうかな。誰が説明に来るかは僕もわからないからね。ただ此処では普通は神という言葉は使わない。天地を想像した伝説かつ宗教上の存在とごっちゃになるからね」


 理解しにくい事が多すぎる。

 今まで知っていたのと違うものが多すぎる。

 だから細かい疑問は幾らでも思いつくのだ。

 しかしそれらの疑問を積み重ねても全体像が見えてこない。

 そもそも何が疑問の全体像なのかも俺はつかめていない。


 この大陸が作られた事が疑問なのだろうか。

 この場所が疑問なのだろうか。

 いや、他にもっと何か根本的な疑問があるような気がする。

 それがわからない、掴めない。


 ピンポンパンポン、ピンポンパンポン。

 妙に明るい音が鳴り響いた。

『夕食の準備が完了いたしました。ガイドラインでご案内いたしましょうか』

 あの誰もいないのに聞こえた声がまた響く。


「うん、お願いするね」

『了解いたしました』


 フィンが返答すると今までただ白色だった壁の一部が変化した。

 水色の線が表示され、更に線の上を右側に向けて白い何かが連続して移動している。

 いや、移動しているのではなくそこの色が変わっているだけのようだ。

 水色の線の上に更に白く色が変わった部分があり、その白い部分が右へむけて動いている、もしくは順番に色を変えている。


「さて、とりあえず夕食といこうか。そろそろお腹も空いたしね」


 アルストム先輩は立ち上がる。


「食事は誰が用意したのでしょうか」

「さっきも言った自動で動く機械さ。ここは人の為の施設だからね。正規のルートで入ればそのくらいのサービスはしてくれるという訳だ。

 もちろん無料だよ、念のため言っておくけれど」


 歩き出す先輩に俺達はついていく。

 状況をほとんど理解できないまま。

 いや、アルストム先輩以外にももう1人状況を理解している奴がいる。

 フィンだ。


 だから俺は歩きながらフィンに尋ねる。


「フィンはここに来た事はないだろう。何故部屋を確保したり食事をとれる事を知っているんだ?」


「ラトレ迷宮ダンジョンの第10階層と第11階層の間にある場所に行った話をしたよね。あの場所は正規とは言えないまでも立入禁止の場所では無かったんだ。


 勿論最初は端末を見てもそれが何かわからなかったし、どう使うかも知らなかった。ただ偶然僕が言った独り言に近くの端末が反応してね。それで試行錯誤してある程度使い方をおぼえた。


 そんな訳でまず端末で此処で出来る事は何かを表示させてみたんた。その上で出来る事にあった休憩用の部屋と会議室の確保、夕食の提供をお願いしたんだよ」

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