第35話 施設の中へ
155 施設の中へ
壁が近づいてきた。
近づいてみると壁は白い粉末状の錆びみたいなもので覆われている。
何処かで見た壁と同じだ。
「この壁があると倉庫とかあの敵とかが出てきそうな気がするなあ」
「あの新規
モリさんやアンジェの言う通りだ。
あの階層と同じ白い壁。
道は壁の前で広場のように広がって、そして壁で途絶えている。
壁は全面同じように見えて扉らしき部分は見当たらない。
「行き止まりに見えるわね」
「まあね。確かに壁に出入口は無い。でもよく見ればハンス君、わかるだろう」
確かにわかる。
壁には確かに出入口その他開く場所は存在しない。
しかし広場状になっている右側に周囲の空間と違う構成の部分がある。
魔法陣も呪文式も描いてはない。
しかし空間の構造からそこが転移陣と同等の機能になっているのが見える。
そこが入口だ。
ただ転移以外の仕掛けというか構造も見える。
そこに近寄らないように無意識に働きかけるタイプの結界だ。
なるほどこうやって中へ入る事を拒んでいる訳か。
俺は理解した。
ただこれでは入ろうとしても無意識で入口部分を避けてしまう可能性がある。
俺は空間の構造を見る事が出来るから問題ないけれども。
「わかりますが、このまま入っても大丈夫ですか」
「心配いらないよ。これを使う」
アルストム先輩はロープを取り出した。
「入口は壁とは別の場所にしっかり存在している。ただ目に見える形ではないし人避けの結界も展開してある状態だ。
そんな訳でここからは全員このロープを握って歩いてくれ。握って触覚で感じていれば見た目に誤魔化されても問題はない。
先程と同じ隊列で行こう。ロープの先端はハンス君が、最後尾は僕が持つ。あとは全員このロープを握って、このロープに従って歩いてくれ。やたらロープに引っ張られると感じたら目を閉じてとにかくロープに従って歩く。そうすれば問題ない」
なるほど、そうやれば大丈夫という訳か。
「予め予期していたんですか、こういう場所がある事を」
「まあね。以前行った極限にあった仕掛けは突破できるよう、取り敢えず準備はしておいた訳だよ」
そんな訳で隊列の中心にロープを伸ばして前進だ。
「ハンスは目標が見えているの?」
ミリアにそう聞かれる。
「ああ。第13属性が使えれば見える」
「つまり最低でも賢者にならないと見えないって事ね」
「正確には第3レベル
アルストム先輩の注釈が入った。
だが知らない
聞いてみようと思ったが今はそういう状況ではない。
後にしておこう。
さて、あと3歩で空間が違う部分に突入だ。
突入先がどうなっているかは今の俺にはわからない。
まさかいきなりデモンと戦闘という事はないよな。
でも万が一の為に空即斬はすぐ出せるようにしておこう。
そう思いつつ足を踏み出す。
3歩目でふっと軽い浮遊感。
すぐに何処かに着地した。
風景が一瞬で切り替わる。
思わず止まりそうになるが後ろがいる。
だからそのまま足は動かし続ける。
大きい建物の内部だ。
広間というか玄関ホール、いや昇降口といった雰囲気だろうか。
天井が高い広い空間。
所々に椅子やテーブル、戸棚のようなものが置かれている。
壁は白く塗られた金属製でおそらく天井も同じ。
殺風景で実用本位という雰囲気だ。
「はい全員止まれ。無事中へ入れたからね」
アルストム先輩の声。
「何だここは、いきなり場所が変わったけれど」
「そうね。何処なのこれは」
うちの前衛2人だ。
「さっきの壁の中さ。仕組みは
さて、今日の行程はそろそろ終わりにしよう。フィン君、その辺の端末で一番近いゲストルームを探してみてくれないか。僕より君の方が得意そうだからね」
「わかりました」
フィンが近くのテーブルにへ近づく。
目的はテーブルに置かれた箱型のようだ。
俺はフィンについていって尋ねる。
「この箱が端末というものなのか?」
「そうだよ。ちょっと音声指示をするから黙って見ていてね」
俺はわからないまま取り敢えずフィンに従う。
フィンは箱型のもの、正確には片流れの屋根のように上が斜めの平面になっているものの屋根部分に手をかざす。
ふっと屋根の上に光が浮かんだ。
何だ、そう思うが黙ってと言われたのでそのまま見る。
「僕達が使用できるサービスの一覧を表示して」
『了解いたしました』
返答の声の存在や気配を探る。
確認できない。
遠話のような魔法とも違い、魔力も感じない。
どういう状態だろう。
声とともに浮かんだ光が形を変えたのも見える。
しかし俺からではその光が何を意味しているのかわからない。
フィンにはこの光が違うものとして見えているのだろうか。
それともフィンはこの意味不明な光の意味するところを知っているのだろうか。
「わかった。今から使えるゲストの宿泊用ルーム、シングルで11部屋あるかな。場所はここから出来るだけ近い処」
『了解しました。第1候補はこちら、B1宿泊ブロックとなります。此処で宜しいでしょうか』
先程と同じ声で光の形が更に変わる。
やはり俺からはよく見えないし理解できない。
「うん、そこでいいよ。あと近くに11人で集まれる部屋もあるかな。会食したいから食事も出して」
『了解しました。それではB1宿泊ブロックの第3多用途室を確保します。食事はどのような内容になさいますか』
「一般的な夕食、11人分で。量は少し多めで頼むね」
『了解しました。4案を表示致します。選択してください』
「1案でいいかな。ただパンはこの倍で、あと肉を多めにして」
『了解いたしました。これで宜しいでしょうか』
「うん、そんなものかな」
『テーブル配置はどうしますか。一般的な案を表示します』
「2番でお願い」
『了解しました。準備に12分程お待ちください』
「なら準備がおわったらこの端末で通知してくれるかな。それまでこの辺にいるから」
『了解しました』
何度も走査したが誰もいないし魔法の気配もない。
つまり誰かが隠れている訳でも別空間に接続している訳でもない。
しかし確かに声が聞こえた。
それもフィンとの会話が成立している声が。
「これは何か魔法なのか?」
「違う、魔力を感じない」
「ティーラが魔力を感じないのなら魔法ではありませんね。説明して頂けませんか」
俺も知りたい。
今のは何だったのかを。
見たところフィンとアルストム先輩は今の何かについて知っているようだ。
自然視線が2人に集中する。
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