154 空の終わる場所

 単調な景色の中ひたすら歩き続ける。

 この場所は時間で景色が変化しないようだ。

 太陽も出ていないし明るさも変わらない。

 だから俺では時間経過がわかりにくい。

 モリさんが1時間に1回休憩を入れてくれるので、その回数から6時間ちょっと歩いたとわかるけれども。


「そろそろ前の休憩から1時間だなあ」

「ならそこの岩陰で休憩しよう」


 アルストム先輩の台詞で皆歩みを止める。

 フィンが自在袋帳から折り畳み椅子を人数分出した。


「この椅子があるだけで結構楽よね。下にべたっと座るとどうしても砂や土が気になってさ」


 確かにハミィ先輩の言う通りだなと思う。

 ちゃんとした椅子にゆったりと座ると歩いている疲れがかなり楽になるように感じるのだ。


「ところでこの先、あの部分は空じゃなくて壁だよな、どう見てもよ」


 ライバーが言う方を皆で見る。

 だが視力ではよくわからない。

 単なる地平線っぽく見える気もするし。

 狂戦士バーカーサーであるライバーの裸眼視力は俺達と比べてはるかに高い。

 だから奴には見えても俺達には見えないなんて事はある。


「あ、でも確かに空がそのまま下がってきて、地面に繋がっているように感じるなあ。走査と視力を併用するとさ」


 モリさんは探索士レンジャーだから走査・探索能力スキルがかなり高い。

 だからわかるのかもしれない。


 なお賢者である俺が見てもその辺ははっきりわからない。

 その辺はやはり職業ジョブの違いだろう。


「ところで時間的にはもう夕5の鐘過ぎだ。そろそろ1日の行動終わりなんだけれどどうする? この辺に今夜の拠点を作るか、もう少し動いてあの壁まで行くかだけれど」


 これもモリさんだ。

 彼女は俺達と違って正確な時間がわかる技能スキルを持っている。

 そして俺もそろそろ休むべき時間だと感じていた。


「こんな魔物が出るような場所で野宿する場合にちょうどいい魔法はあるのか? 普通なら交代で見張りが2人は必要だろ」

「方法はいくつかあるね。誰かの土属性魔法でオーガでも入れないような岩壁を作るとかさ。更に僕の闇属性魔法で持続性の闇でも作って周囲をカバーすれば魔物が入ってくる事はまずないね」


 俺がレベルアップ時にやる方法に更に闇属性魔法を加えた形か。

 確かにそれなら見張りはいらないだろう。

 そう思った時、俺はフィンが何か言いたそうにしている事に気づいた。

 何だろう。

 聞いてみようかと思った時だ。


「フィンは何か別の意見があるようね。違う?」


 ミリアが俺より早く気付いていたようだ。

 フィンは小さく頷く。


「僕は1時間以内なら壁まで行ってしまった方がいいと思う。ライバーやモリさんが言う通りなら、壁の向こうはもう施設だと思うんだ。それなら僕達でも使えるゲスト用の寝室もそう遠くない場所にある筈だよ」


 施設? ゲスト用? 俺にはその辺の単語がよくわからない。

 しかしアルストム先輩には通じたようだ。


「確かにその方が快適だね。ならもう少し頑張って行くとしようか」

「アルストムがそう言うなら仕方ないわね」


 やはりアルストム先輩、信頼はされている模様。


「それじゃあと5半時間12分休んだら歩き出すとしよう。それまでに水や行動食なんかは済ませてくれ。時間はモーリさん、頼む」

「わかった」


 そんな感じで岩陰でのトイレを含む休憩をした後、また歩き出す。

 少し歩くとライバーやモリさんが言った通りに見えるようになった。

 空がそのまま壁となって地上と繋がっている。

 

「空が終わる場所」

「ルイスにしては詞的な事を言うのね」

「単なる感想」

 

 確かに空が終わる場所だな、これは。

 そんな事を思いながら歩いていく。


 魔物はやはりそこそこ多い。

 出てくるのはほとんどがオーガだ。

 オークとほぼ同じくらい大きく、同じくらい力が強く、細身の分動きが素早いという本来なら強力な敵。


 ただし鍛え過ぎたこのパーティ相手では雑魚同然。

 前方にいるのは俺かネサス先輩の魔法で、それ以外も誰かが魔法で確認と同時に倒している。


「何かやる事ないよな、私は。最初のままの隊列で良かったんじゃないか、アルストム」

 

 ハミィ先輩がアルストム先輩に絡む。


「いや、先頭はハンス君で正解なのさ。賢者クラスの力がないと正しい道をまっすぐ進めないようになっている、ここはね。

 間違うといかにも遺跡っぽい場所で行き止まりって事になる。あの壁まで辿り着けずにね。そここそが本に記載がある、探検の結果辿り着いたパス・ダ・ラ・カザの遺跡だよ。

 大分前に言った通りハンス君も間違った道の事には気付いていた筈だ。違うかい?」


 やはりわかっていて俺を先頭につけた模様だ。


「右にゆるく曲がっていましたね」

「本当ですか?」


 やはりネサス先輩は気付いていなかったか。

 俺は頷く。


「今回の結界はレベルと職業ジョブ両方。だからこの中では僕かハンス君でないと突破は出来ない。だからハンス君に前にいって貰って、最後に僕がついた訳さ。単調な景色も偽りの道に入った事に気づかないようにという理由なんだろうね」


「なら最初からそう説明すれば良かったのではないでしょうか」

「そうするのも面倒だったからね」


 こういう所がアルストム先輩の人徳の無さなのだろうか。

 でも一応ここは誤解のないよう説明しておこう。


「こういった結界は意識し過ぎると間違う可能性が高くなります。見えている道が本当に正しいのか、かえって判断がつきにくくなる事もあります。

 アルストム先輩が説明しなかったのはその辺を知っていたからだと思うのですが、違いますか?」

「まあそう言う事もあるけれどね」


 うーん。

 どっちが本当の理由か、俺にもわからなくなりそうだ。

 これはきっとアルストム先輩の性格なのだろう。

 偽悪的というかトリックスター気取りというか。

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