153 単調な階層?

 なるほど、そうやってフィンは知った訳か。

 俺は経緯については理解した。

 しかしその知識がどういうものなのかについて、フィンはほとんど話していない。

 だからあえて具体的に聞いてみる。


「ならこの先、パス・ダ・ラ・カザやその先には何があるか、フィンは知っているのか」


 フィンは頷いた。


「概ねハンスがさっき言っていた通りかな。この先にあるのは港と船。遠い昔、ウラートと呼ばれた場所から人がこの大陸にやってきた時に乗っていた、大きい大きい船が今もそこにある筈だよ」

「その船こそが他の極限の先にはない、僕が見たいものって訳さ」


 アルストム先輩がそう付け加える。


「でもそんな船があるとしても、話のとおりなら相当に古いものである筈です。今もまだ形が残っているのでしょうか」

「その辺は見てのお楽しみってところかな。ただこの大陸そのものもつくりもの。なら整備さえしていれば残っている可能性は高いと思うよ。

 ところでフィン君。端末を操作までしたのなら、中へ入れるパスコードも入手しているかい? もしそれならかなり手間が省けるんだけれど」


 端末? パスコード? 俺の知らない単語だ。

 だがフィンは首を横に振る。


「僕が見たのは一般ゲスト権限で閲覧可能な部分までだよ」

「つまり最悪の場合は力づくという事だね」


 アルストム先輩はそう言って肩をすくめた。


「それではこれまでの状況もわかったし、先に進むとしようか」

「その方がいい。わからない事をぐちぐち聞かされるよりはさ」


 ハミィ先輩がそう言って歩き出そうとした時だ。


「ここからはパーティらしく隊列を組んで行った方がいいと思うよ。もう少ししたら罠も出てくるからね」

「面白そうじゃないか。一斉討伐の時に見たデモンって奴か」

「デモン類も出てくるかもしれないね。怖いのはそこじゃないけれどさ」

「上等だね。なら隊列はどうするんだい」


 おっとハミィ先輩、口調はともかくとして素直にアルストム先輩の言うとおりにするつもりのようだ。

 気に入るいらないは別として実力は認めているというところだろうか。

 なんて思ったらだ。


「とりあえず2列で行こう。先頭の1人はハンス君で、もう1人はネサス、頼む。後はまあ、それぞれ好き好きに。ただ通常のパーティと同じ間隔であまり間をあけずに歩いてくれ。あと横にも広がらないように。最後尾には僕がつく。

 あとハンス君、先頭から回収は大変だろうから、魔物の回収は出来る範囲でいい。残りは僕がやるから」


 結構いい加減な隊列指示だ。

 でもこのメンバーならそれで十分なのだろう。

 そして先頭は俺をご指名か。

 いいだろう。


「了解だ」

「わかりました」


 そんな感じで歩き出す。

 おっと、アルストム先輩が俺を前につけた意味を早速理解した。

 結界だ。

 それも不可視で走査でもわかりにくい程度の。


 道はまっすぐ続いている。

 ただ偽の結界で曲げられた道も感じる。

 これは気付きにくい。


 突破条件はおそらくレベルと職業ジョブ

 レベル100以上で賢者や勇者等の上級職以上、あるいはそれらの者が率いている事だ。

 それ以外では右側に気づかないうちに曲がっていってしまう。

 真っすぐに進んでいるつもりでも。


「まだ問題は無さそうですね」


 ネサス先輩には見えていないようだ。

 なら心配かける事もないだろう。

 念の為背後の連中により気をつけながら歩くようにしよう。

 アルストム先輩が最後尾にいるから問題はないとは思うけれど。


 それにしてもだ。

 なんとなく思った事をネサス先輩に言ってみる。


「アルストム先輩でもパーティ指示なんてするし、皆さん従うんですね」

「実力は皆認めているのです。言動に問題はありますけれど」


 ネサス先輩の言いたいことはよくわかる。

 あ、ふとアルストム先輩の昔の言動を思い出した。

 ついでに聞いてみる事にする。


「そういえば以前アルストム先輩が生徒会役員を自称して問題のある生徒を回収していましたけれど、冒険者学校にそんな組織があるんですか?」


 金属性魔法の授業で先輩達に文句をつけられた時、そんな事を言っていたようなおぼえがある。


「冒険者学校に公式にはそんな組織はありません。アルストムが犠牲者を煙にまいて連行する時に使う自称ですね。他に風紀委員会とか校内美化委員会なんて自称も使います。まあ実態は魔法の実験台の確保活動ですけれど。

 脱毛、発毛、強制回復、治療促進、精神操作。そういった闇属性や生命属性の魔法は練習台がいなければ訓練できないですから」


 なるほど。

 あの先輩方もラーダもやっぱり実験台だったのか。

 前方に出てきたオーガ2頭を熱線魔法で倒しながら納得する。

 なおオーガは素材にならないから燃やして魔石だけ回収だ。


 この辺は広い赤茶けた岩や礫の台地。

 植物さえ生えていない。

 その中央に幅2腕4mの白っぽい石畳の真っすぐな道があり、そこを俺達は歩いている。

 道は微妙な上り坂だ。


 壁を越えてからはずっとこんな場所が続いている。

 はっきり言って単調きわまりない。

 本で読んだことのある砂漠とはこんな感じだろうか。

 歩きっぱなしだし風も無いので特に寒さは感じない。

 魔法を使わないでじっとしていればおそらく寒いのだろうけれど。


 変化といえば身長の2倍程度の岩が時折ある程度。

 あとはそんな岩陰から魔物が出て来たりするだけ。


「パス・ダ・ラ・カザってこんなに何もない処なのか?」

 これはティーラ先輩だ。


「実はこの単調さにもそれなりの意味があってね。僕も此処へ来たのは初めてだからこうなっているとは知らなかったけれどさ。

 ただここはまだ迷宮ダンジョンで言ったら上層階程度の部分だと思うよ。

 本番はまだまだ先、焦る事はないさ」


「どういう事?」

「ハンス君は気付いているから問題ないと思うよ」


 やはりアルストム先輩の指示、結界の事をあらかじめ考えに入れた上の事のようだ。

 なら俺が説明する必要はない。

 先輩が必要と判断したなら説明役もしてくれるだろう。


 この辺は結界のせいだけではなく、空間の性質が通常の場所と少し違う気がする。

 この先がどうなっているのか俺でも見えないし走査できない。

 わからないまま単調な景色の中をただ進んでいく。

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