151 到着

 山小屋を探すのを諦め、再び前方へ意識を向ける。

 道は枝尾根を右へ左へと曲がりくねりつつ上っている。

 道幅は一応2腕4m程度はあるが傾斜は急だ。

 馬車ではまず上れない。

 しかし歩くためにしては道幅は広い。

 今は雪の下で見えないが舗装面もしっかりしているようだ。


『何の為にこの道はこう整備されているんでしょうね』

『今はもう使われていない乗り物の為だね』


 アルストム先輩はあっさり答える。


『どんな乗り物ですか』

『その辺は見てのお楽しみだね』


 別の極限に行った時に見たのだろうか。

 この先にもそんなものがあるのだろうか。


 出てくる魔物はオークの他にはオーガやトロル。

 街付近に現れたら最低でも騎士団が連隊単位で出撃するような敵だ。

 それでも皆の様子はほとんど変わらない。


『オーガもトロルも売れないから嬉しくないのよね』

『そうそう。オーガは肉が固いしトロルは脂っぽくて美味しくないし』


『でもトロルの毛皮、寝袋にすると最高に気持ち良かったですよ。今回野営用に持ってきてありますけれど』

『それ本当?』

『本当です。学校の布団より心地いいから今朝まで部屋で使っていたくらいです』

『なら少し本腰入れよっか。アルストム、適当に状態いいの保存しておいて』


 常識離れした会話は無視しよう。

 いや、俺の範囲内で状態がいいのを倒したら一応とっておこうか。

 後が煩そうだ。


 相変わらず脳筋2人は先頭で目に付く敵を倒しまくっている。

 喋っている皆さんも近づいてくる敵がいればすかさず魔法を飛ばす。

 50歩程度で1回、俺かアルストム先輩のどちらかが魔物を収納なり燃やして魔石を取ったりしている状態だ。


 吹雪のせいで相変わらず視界は良くない。

 しかし見えない壁が近づいているのはわかる。

 どうやら上りの終わり、稜線のすぐ先にあるようだ。


 壁の向こう側もある程度走査は通る。

 確認出来る範囲には注意が必要な敵はいない。

 だからペースはそのままで歩き続ける。

 上方向、更に高い部分が見えなくなった。

 どうやらそこが稜線らしい。

 

 まずは先頭2人とモリさんが壁の向こう側へ。

 何か言っている。

 吹雪で聞こえないけれど問題はないようだ。


 ついでアンジェや先輩達、そして俺とアルストム先輩達が壁を超える。


 壁を超えた途端吹雪が止んだ。

 前方は赤茶けた平地。

 先に壁のようにそびえる岩が見える。


「思ったより早くここまで来れたな。考えてみれば当然か」

 アルストム先輩が呟いた。


「どういう事ですか」

「ここはもう停車場までの通過点パス・ダ・ラ・カザさ。書物では3日はかかると書いてあったけれどね。まあこれだけ魔物がひっきりなしに出るならそれだけかかるのも当然かな、普通なら。それに今回は移動魔法でかなり近づけたからね」


「空が違う」


 誰かがそんな事を言っている。

 その通り、空はただ一面白いだけ。

 太陽が無いし空も青くないし雲もない。


「どういう事?」

「ここは迷宮ダンジョンと同じ扱いって事さ。わざわざつくり物の空を投影する事もない」

「つくり物の空?」

「そういう事。僕らが普段見ているのはつくりもの空さ。かなり複雑な仕組みで映しているようだけれどね。所詮誰かが作った、見せるための代物という訳だ」


 アルストム先輩は何でもない事のように言う。


「でもなんで空なんて映す必要があるんだ」

「晴れた空は青く、太陽が東から昇って西へ沈み、時には雲がわき暗くなって雨が降る。夜は晴れていれば星が見える。

 そんな空が上に広がっていなければ自然じゃない。そう思った誰かがいて、そうしたって事だね」


 アルストム先輩の口調はさっきと同様。

 

「でもそれでしたら大陸の全ての空は作り物だという事ですか」


 どうやら向こうのパーティはフィンがやったようなヒントというか予習はしていなかったようだ。

 明らかに驚いている。

 

「空だけじゃないさ。

 この前の新しい迷宮ダンジョンを攻略した時に気づかなかったかい。

 第15階層と第16階層の間の鉄で出来た構造物の地層。デモンが出る直前の倉庫としか思えない階層。

 そしてつくりものの空。ここまでくればもうわかるだろう。ハンス君達はどうやらある程度知っていたようけれどね」


 そんな解説をしている間もオーガやトロルが出てきている。

 退治漏れしている分は俺やミリアが魔法で倒しておく。


「この大陸の全てがつくり物って訳ですか?」

「そういう事。自然に出来たものではなく人工物という訳だね」

「誰がそうしたんですか。神様とかそういう存在ですか」

「その辺は答えを焦らない方がいい。微妙な問題だからね」


「アルストム、貴方は何を何処まで知っているんですか」

 ネサス先輩の台詞にアルストム先輩はふっと笑みを浮かべる。


「その辺は説明が難しいかな。僕はかつて一度極限を超えた事がある。基本的には僕とネサス達の違いはそれだけさ。到達する為に必要な知識を教えてもらった存在はいるけれどね」


「それが以前言っていたイアソン様なのですか」

「そういう事さ。今回もいずれ出てくると思うよ。あの方は意見を聞きたがっているから。この大陸に生まれて育った世代の率直な意見をね」


 アルストム先輩はそう言って俺達の方を見る。

 厳密には俺とフィンの方をだ。


「ところでハンス君とフィン君はここパス・ダ・ラ・カザについて何処まで知っているのかな。

 もし良ければ聞かせて欲しいね。僕は師匠に破門された身。だからここの情報はほとんど持っていないからさ」

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