149 そして冬休みへ
これから行くパス・ダ・ラ・カザについても少しだけ記載があった。
『新たに作られた大陸には船をつけるべき港がつくられた。この大陸の港は『La Kaja』と名付けられた。これは古き言葉で『高台・基盤・乗降場』という意味である。ここから人々は新たな大陸へと広がっていった。
なお一説によるとこの地はアンダナ公国北部に位置するパス・ダ・ラ・カザの先に位置するという。ラ・カジャへの通過点という意味でパス・ダ・ラ・カジャと呼ばれていたものがなまってパス・ダ・ラ・カザと呼ばれるようになったとも言われている。
パス・ダ・ラ・カザでは現代の知識でも解析不能な遺物が出土するらしい。だが本当に伝説の港がこの先にあるかは不明である。
またこの地は境界山脈の高地への入口という意味で名付けられたというのが通説である』
この本に記載があったパス・ダ・ラ・カザ関係はこれが全てだ。
長く分厚い本だったわりに今回の旅に役立つ内容と言えるかどうかかなり怪しい。
それでも俺的にはそこそこの成果があったように感じた。
この本ではパス・ダ・ラ・カザの先には港があるという事になっている。
以前ドワーフの里で購入した本ではパス・ラ・カザに船がついたという事になっているが、これくらいは誤差の範囲だ。
しかも港がある事になっている。
アルストム先輩が言っていた。
『パス・ダ・ラ・カザは他の極限と違う意味がある場所なんだよ』
それは港があるという意味なのだろうか。
港というからにはそこから別の外洋へ続く海が広がっているのだろうか。
それとも他に何かあるのだろうか。
わからないまでも興味をひかれる。
他の神話部分についても同様だ。
フィンのヒントから予想される大陸の形。
一斉討伐の時に見た自然とは思えない人工的な金属の層。
鉱石や金属の倉庫にしかみえない地下の空間。
この本の神話の通りこの大陸が作られたものだとすればそれは理解できる。
ただそれでは作った部分があまりに巨大だ。
この大陸全てという事になるのだから。
なら壊した大陸とはどれくらいの大きさだったのだろう。
その大きな大陸を壊した船とはどれほど巨大なものだったのだろう。
勿論これは伝説であり神話だ。
実際にこの通りの事が起きたとは限らない。
信じすぎるな、俺。
これはただの物語だ。
俺の心の冷静な部分がブレーキをかける。
それでも何かこの神話を信じ始めている俺がいる。
全てが実話でないにせよ、似たような事が起こったのではないかと感じる俺がいる。
今まで感じた謎全てをこの神話に結びつけてしまいそうになる。
夏休みに村付き冒険者をしたウーニャの村なんて、この話と直接関係なさそうな事まで。
落ち着け、俺。
これはただの本だ。
書いてある事が真実とは限らない。
とりあえず落ち着こう。
そして寝よう。
試験は終わったが今日も授業はある。
ただこの本の内容はなかなか魅力的だった。
まだ拾っていない、気付かなかった記述があるかもしれない。
読みにくい本をとりあえず速度重視で一気読みしたから。
明日の午後、国立図書館へ行ってこの本を買い受けておこう。
俺は本を自在袋に収納して灯火魔法を解除する。
今の本のせいで少し興奮状態にあって素直に眠れそうにない。
こういう時はという事で睡眠魔法を自分対象にして起動。
おやすみなさい……
◇◇◇
翌日の昼、パーティとは別行動で国立図書館へ行きあの本を購入。
ついでに他に参考になる本が見当たらないか探した。
午後ずっと探したが1冊も見つからなかった。
そう簡単に偶然そんな本が見つかるなんて事は無いようだ。
他には遠隔移動や空即斬を練習したり。
訓練ついでにラトレの迷宮を一気に第21階層まで攻略したり。
ミリアと久しぶりに
もうお互いレベルが100を超えているのであまり上がらなかったけれども。
そして今日はいよいよ12月20日、冬休み最初の日。
朝8の鐘で集合予定だったのだが、7半の鐘で部屋を出て来たところ既にアルストム先輩以外の全員が揃っていた。
「すみません、遅くなって」
「いや、私達が早く出て来ただけだからさ」
「やはり極限へ挑戦となると落ち着けませんで」
先輩達もやる気満々という感じだ。
「まもなく全員揃うと思います。アルストムはこちらのパーティだけの時も、全員が集合した後、わりにすぐ現れますから」
それって偵察魔法で集合状況を確認して、全員が集まったのを確認してから出てきているという事ではないだろうか。
待つのが面倒とかそういう理由で。
アルストム先輩ならやりそうだしそれが出来る実力もあるから。
なんて事を考えると近くで空間が揺れた気配。
そこから10数える程度で本人が出てきた。
「やあやあ随分皆さんお早い集合で。まだ7半の鐘が鳴ってそれほど経っていないというのに」
「御託は抜きでさっさと出ようぜ」
ハミィ先輩がそう言ってアルストム先輩を睨む。
おそらくこっちのパーティはいつもこんな感じなのだろう。
だからあまり気にしない事にする。
「そうだね。ただここから遠隔移動魔法を使うのは少し目立つから、こっちへ移動しないかい」
アルストム先輩はそう言うなり校内に向かって歩き出す。
こっちを確認しようという素振りさえない。
うーむ、このパーティ、かなり俺達のパーティと違う感じだな。
一体感が無いというかばらばらというか。
この前の一斉討伐で感じた以上だ。
そう思いながら先輩達を横目に見つつ、何となくという感じでアルストム先輩と同じ方向へ歩き出す。
受付を過ぎ、窓がない一角を通ったところでふっと空間が揺れるのを感じた。
遠隔移動魔法の起動だ。
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