148 実施前にひと調べ

 俺の装備は基本的に此処へ来た時のまま。

 それもあって一足先に俺だけ街へ戻って来た。

 パス・ダ・ラ・カザへ行く前に本で関連する事を調べようと思ったからだ。


 アルストム先輩は言っていた。

『大抵の知識は失われずにどこかに何らかの形で残してある』


 知識を形で残す最も簡単な方法は本だ。

 今までアルストム先輩から聞いた魔法に関するヒントもすべて本だったし。

 つまりこれから行く極限について同様に本に記載されている事を期待してである。


 向かったのは国立図書館。

 この周辺で最も多くの本があるから。

 まずはパス・ダ・ラ・カザ周辺の地図等から調べてみよう。

 図書館の案内図を見て地理.・地誌・紀行の棚へ。


 だがこれといった本はない。

 それどころか地図らしい地図すらない。

 アンダナ公国方面に関する本が少ない上、あるのも境界山脈の入口であるベリヤから南側に関するものばかりだ。


 なら次に調べるべきはどの分野だろう。

 歴史関連で見てみるか。


 該当する棚を見てみると各国や地域で分かれている。

 アンダナ公国関連は2冊しかない。

 手に取ってさっと目を通してみる。

 残念ながら内容は全て大陸が今の状態になってからのもの。

 参考になる事は無さそうだ。

 

 念のため大陸全体に関する歴史の本も見てみる。

 先史時代についてほんの少しだけ記載があった。

 残念ながら知っている事ばかりだったけれども。


 でもそれで俺は気づいた。

 知るべき事は先史時代か更にそれ以前に関する事だと。

 そういえば俺がパス・ダ・ラ・カザについて知ったのは伝説からだった。

 刀について聞いた時、ウラートに関する伝説を聞いた。

 そのウラートからやって来た船がついたと言われているのがパス・ダ・ラ・カザだったのだ。


 そうか、なら調べるべきは伝説についてだ。

 しかし伝説というのはどの分類の棚にあるのだろう。

 歴史の分類では無さそうだ。

 ゆっくり調べている時間はない。

 今日の夕食時間まであと2時間程度。

 ここは聞いた方が早いだろう。

 受付に戻って図書館の人に聞いてみる。


「すみません。伝説について載っている本等はどの棚になるのでしょうか」

「伝説ですと社会科学のうち風俗習慣.・民俗学・民族学の分類になります。3番通路の奥から2番目の棚、下から2番目以降です。分類記号は388番になります」


 なるほど、そういう分類になるのか。


「わかりました。ありがとうございます」


 礼を言って言われたとおりの棚へ。

 思った以上に該当する番号の本がある。

 幅150指150cm程度の本棚の6列分くらいだ。

 タイトルを見て抜き取りさっと目次を見て確認する。


 1冊目、2冊目、3冊目……

 参考になりそな本はなかなか見つからない。

 思わずため息をついてしまう。

 

 しかしよく考えたら仕方ない。

 簡単に見つかる筈はないだろうから。

 背表紙からピックアップする作業を再開する。

 しかし参考になりそうな本はやはり見つからない。


 ふと思ってしまう。

 自分は何を探しているのだろうかと。

 パス・ダ・ラ・カザへの行き方は概ねわかっている。

 出る魔物や魔獣も概ねわかっている。

 実際に行くだけならそれで充分な筈だ。


 ならここで他に何か参考事項だなんて調べる事が必要だろうか。

 またため息をついてしまう。


 その時ふと1冊の本の背表紙が目に留まった。

『失われし神の伝説~神話の原型を求めて』とある。

 何となく手に取ってみて、開いて確認してみる。

 

『これは亜人に伝わる伝承を調査しまとめたものである。ドワーフ族及び獣人族はこの大陸の創世についてよく似た伝説を持っている事が知られている。一般的な類型としては……』


 目次に目を通してみる。

 どうやらこの本はドワーフの里で購入した本と同じ伝説を更に詳しく調査して記載した本のようだ。

 参考になる事が載っているかもしれない。

 そうでなくとも少し興味をそそられる。


 しかしかなり分厚い。

 さっと中身を読むには長すぎる。

 裏表紙を開いて値段を確認、正銀貨5枚5万円だ。

 かなり高いが払えない金額ではない。

 いや、借りて読めばいいか。


 4半の鐘が聞こえた。

 どうやらこれで時間切れのようだ。

 やはりあてもなく探すなんてのは無理だったかな。

 そう思いながら本を持って受付へと向かう。


 ◇◇◇


 深夜、寮の自室。

 俺はようやく借りて来た本を読み終えた。


 なかなか読みにくい本だった。

 調査や考察部分がやたら長くてくどい。

 その結果『神話の原型』部分が続けて読みにくくなってしまっている。


 しかも『神話の原型』そのものもかなり長い。

 それでも何とか頁を追って読んだ限りでは『神話の原型』はこんな感じだ。


 まずはこの大陸にたどり着く前の部分として


 ① かつて人々は別の大陸にすんでいた。

 ② その大陸は呪われた魔法により人が生きていけない場所になった。

 ③ 人は巨大な船をつくり元の大陸を脱出した。

 ④ 目指した海域には住めない岩場ばかりの大陸しかなかった

 ⑤ 船の武器で住めない大陸を打ち砕き、幾つかの居住可能な新しい大陸を作る

 ⑥ 今後新たな大陸で新たな生活するにあたって

  〇 以前と同じような生活を目指す

  〇 呪われた魔法の知識を全て捨てる

  〇 呪われた魔法の一部の知識は残す

  で意見がわかれ、最終的にはそれぞれ別の大陸で別の世界を作る事に決める

 ⑦ 呪われた魔法の知識を全て捨てる派の人々がこの大陸にアルゴス号を旗艦とする艦隊で上陸する

 

という一連の物語というか伝承がある。

 厳密には③と④の間に反乱や事故で船が失われたり、別の目的地を探して別れたりするなんて話もある。

 だが細かい部分を追うと複雑になるので省略。

 この部分についてはドワーフ族、獣人族、エルフ族どれに残っている伝承を辿ってもほぼ同じ話になるらしい。


 だがこの後、大陸に人々が辿り着いてからの伝承は種族、地域、場所によって大きく異なる。


 エルフ族に伝わる話では、

 ① 大陸についた後数世代経つと人々はかつての知識を忘れ去った。

 ② 故に知識の散逸を恐れた人々の長らは長命化しエルフ族となり、人々を見守る事とした。

 ③ 更に数世代経った後、人々長き航海の事もこの大陸にたどり着いた時の事もエルフ族となった長らの事も忘れ去った。これが普人である。

となる。

 

 これがドワーフ族の場合は、

 ① 新たに作った大陸は以前にいた大陸ほど豊かでは無かった。

 ② 故に資源を管理する為、かつて船団を率いた神々はドワーフという長命種をつくり、貴重な資源の管理を命じた。

 ③ 故にドワーフ族は他の種族と違い、この大陸における貴重な資源を現在も独立して管理している。

となる。

 この貴重な資源とは金属資源の事らしい。

 船団を率いたのが神という事になっているのもエルフ族の伝承と違う点だ。


 そして獣人族の場合はこうなる。

 ① 呪われた魔法を捨てた人間にとって、新たに作った大陸での生活は厳しいものだった。

 ② 普人では生き残れない可能性を危惧した女神は、この環境でも生き抜ける人間を生み出した。これが獣人族である。

 ③ 獣人族はその優れた力により大陸を席巻した。この事態を危惧した別の神は普人に呪われた魔法の一部を貸し与えた。

 ④ 呪われた魔法の一部を貸し与えられた普人により、獣人族は内陸部のより厳しい土地へと追われた。

 ⑤ 獣人族を生み出した女神は神の座を降りた。彼女は今もこの大陸を人として流離っている。


 ちなみに俺自身は全くこの内容を知らなかった。

 きっと獣人族でも長老とか呪巫など一部にだけ伝わっているのだろう。

 もしくは獣人の国あたりでは一般的なのかもしれない。

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