146 試験結果が出た昼に

「これで心置きなく冬休みに入れるぜ」


 昼、いつもと同様学校の食堂で昼食を食べながらライバーはそう報告。

 ただ奴が大威張りで見せた成績表には冷や汗ものの点数が並んでいる。


「算術や歴史、ぎりぎりじゃない」

「ぎりぎりでも通ってしまえばこっちのもんだぜ」


 いやライバー、確かにそうだけれどこの点数では威張れないだろう。

 

「まだまだ勉強が足りなかったわね。今回は運が良かっただけだわ。冬休み、旅行から帰ってきたらみっちり勉強するわよ。私かハンス監修で」

「えーっ、及第点だしいいだろ」

「この点数で充分なんて冗談でしょ。運が良かっただけよ」


 ライバーが何とかしてくれという目で周りを見る。

 ただミリアの言う事は事実だ。

 何せ歴史は100点満点で50点が及第点のところ55点。

 算術に至っては途中までの計算式の部分点を含めて52点。

 まさに薄氷の勝利という奴だ。


「まあ取り敢えず今は冬休みに向けた話をしようか。準備もあるしさ」

「そうね。ライバーの補習勉強は帰ってきてからみっちりやることにして」


 それにしてもミリアは面倒見がいいよなと思う。

 ライバーの勉強を見る事でミリアにメリットはない。

 単に同じパーティで出る時にライバーが補習で出れなくなる可能性があるというだけだ。


 そしてライバーが補習で参加できなくてもミリアの実力なら問題ない。

 今でも実力にかなりの差があるから。


 まあミリアが面倒を見るという事は半分くらいは俺も付き合わされるという事でもある。

 そして俺自身もまあそんなものかなと思っている。

 その辺メリットデメリットに関係ない何かが仲間というものなのだろう。

 そしてその辺がきっと家族や部族以外での繋がりが希薄な獣人と普人が違う点だ。


「ところでパス・ダ・ラ・カザ付近の情報本というのは向こうで買えるかな。あれば念のために読んでおきたいな」


 そんなモリさんに残念なお知らせがある。


「アルストム先輩が遠隔移動でアンダラのエルカステスにある冒険者ギルドに行ってみたらしい。だがあそこから先北側の情報本は無い。そんなの冒険者やギルド職員を何人も使い潰すつもりでなければ作れない。そう言われたそうだ」


 先輩とは2限の選択授業が結構かぶる。

 だからこういった情報も時に流れてくるのだ。


「おおげさよね。パス・ダ・ラ・カザまでなら出るのはオークやハイオーク、トロル程度の筈よね」


 いやアンジェ、その感覚はおかしい。


「言っておくけれど普通はハイオークなんて出たらパーティ全滅レベルよ。完全に感覚が麻痺しているみたいだけれど、このパーティはハンスの強化習得レベリングで異常に強くなっているんだからね」


「そっか。そう言えばそうよね」


 ミリアの言う通りだ。

 最初からある程度チートな能力持ちのミリアと用心深いモリさん以外、どうもその辺の認識が抜け落ちがち。

 アルストム先輩曰く『危なくて放流できない』をまた思い出してしまう。


「ところで今日この後はラトレへ行くか? この辺ではあの迷宮ダンジョンが一番敵が強いだろ」

「それなんだけれど、今日はカペック平原の手前、いつもの休憩場所に行きたいんだ。一度新しい装備品を使って駄目出しをしたいから」


 フィンの台詞を聞いてなるほどと思う。

 確かに軽銀を使って作ったと聞いてはいた。

 しかしまだ実際に試していなかった。


「確かに一度試した方がいいわね。試すのは天幕と寝袋と、あと何になるの?」

「天幕、簡易寝台、簡易寝台用寝袋、テーブルってところかな。モリさんやハンス、ミリアがいれば水タンクやコンロはいらないしね。一応水タンクは作れるようにしておくけれど」

 

 作れるようにしておく、というあたりがフィンだよな。

 奴なら鍋釜類や食器等は材料があればその場で作れるから。

 最近は金属塊インゴットに限らず木でも革でも自在に加工可能なようだし。


「ならさっさと行って向こうで昼食でも作ればよかったじゃねえか。ショーン達を誘って」

「ショーン達のパーティは今日はラトレの迷宮ダンジョンだよ。冬は熊や大鹿、魔猪などの大物が出易いから訓練だって」


 あそこのパーティの方がこっちよりバランスもいいし堅実かつ健全だよな。

 そんな事を思ってしまう。


 冒険者のパーティは戦闘重視になりやすい。

 学校内のパーティもほとんどはそういうタイプだ。


 うちやアルストム先輩達のパーティもやはり戦闘重視。

 レベルが高い分なんでも出来るから誤魔化しはきくけれど。

 任務適性は戦闘が絡む探索、先行偵察、討伐といったところ。


 うちの一般的なパーティなら任務適性は討伐や巡回警備が主だろう。

 魔法を含めて戦闘スキルに重点をおいて鍛えているところが多く、偵察すら不得意なパーティも多いし。


 一方でクーパー達のパーティは戦闘技能で集まったパーティではない分、様々な技能を持っている。

 偵察ならクーパーかケイト、料理や突破型戦闘ならショーン、薬草採取や加工ならエマ、回復魔法ならケイトという感じだ。

 それだけに救出や応援、被害回復だのといった援護任務にもかなりの適性を持っている。

 そのくせ戦闘適性も今では通常のパーティに劣らない。

 近くに常駐してくれれば一番有難い冒険者パーティだろう。

 

「それじゃこの後は北門から出てあの休憩場所に向かいましょ。ついでに武器や防具の調整も今日のうちにしておけば一石二鳥よ」

「仕方ねえな。本当は少し稼ぎたかったけれどよ」


 取り敢えず本日はカペック平原手前のいつもの休憩場所へ向かう事になった。

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