142 予定の決定
「アルストム先輩は何故その事を知っているんですか」
「僕もイアソン様に育成されたうちの1人だからね。僕の意見に失望してか関係はもう切れてしまったけれど。ただ彼の近くに少々おしゃべりな友人というか兄貴分がいてね、今でも時々連絡を寄越してくる訳だ」
先輩はフィンの質問にそう答えてふっと嗤う。
「何かよくわからない話。黒幕がいて何かを企んでいる、そういう理解?」
「黒幕なんてとんでもない。彼らは神だよ。少なくともこの大陸に関しては。それに企んでいる訳でもない。本人的にはあくまで善意たっぷりさ。ただその立場にあまりにも長く居過ぎたからわからない事も増えただけで。
まあその辺の話はおいおい。今回行く計画に対してはあまり気にしないでいいからさ。動機もその辺の意向とかそういうものではなく、さっき言った通り僕の個人的理由だけだから」
「私達にこの話をしなかったのは何故?」
「関係者がいなかったから。それだけだよ。こっちのハンス君とフィン君は関係者だ。だから一応そういう話だと断っておいた方がいいと思ってね」
ティーラ先輩にそう答えて、そしてアルストム先輩は再び俺達の方を見る。
「そんな訳で極限の先ツアー、報酬は魔物討伐の機会と今までの疑問の答え合わせ、そしてこの大陸の、いや世界とその先の姿の閲覧だね。
勿論無理はしない。駄目だと判断したら無理せず引き返す。その場合はまあ、ちょっと高価な魔物の討伐ツアーになってしまうけれど。この面子なら無理をしなくても突破できるだろうけれどね。
そんな訳でどうかな。行ってみてこの大陸の真の姿を見てみたいと思わないかい」
行きたい、俺もそう思う。
しかしその前に確認できるところは確認しておこう。
「交通機関はどうするつもりですか?」
「勿論ベリヤまで遠隔移動魔法だよ。僕の魔法だけでもこの人数なら何とか全員を移動可能だからね。
でもハンス君が遠隔移動魔法を使えるようになってくれると助かるな。バックアップという意味でも僕の魔力負担軽減という意味でも。ネサスやティーラが使えるようになるまであと半年はかかりそうだからね」
「わかりました。勉強しておきます」
「今のハンス君ならあの本をよく読めば習得できると思うよ。それじゃあらたまって質問しようか。冬休み、パーティ合同で北の極限の先を目指す提案に参加してくれるかをね」
「ハンスは賛成という事でいいのね」
「ああ」
ミリアの台詞に俺は頷く。
「ならこっちも全員賛成です。よろしくお願いします」
「別に畏まった言葉は使わなくていいよ。単に学校に1年先に入っただけで、実力は同等だからね。ネサス、違うかい?」
「そうですね。ハミィもティーラもルイスも問題ないですよね」
「ああ。冒険者は強さが全てだから」
あと2人も頷いた。
アルストム先輩はともかくパーティとしてはやりやすい相手だ。
その辺はこの前の討伐でもわかっている。
ハミィ先輩の戦闘狂というのは注意した方がいいかもしれないけれど。
「それじゃ予定だ。と言っても交通機関の予約も宿の予約も必要ないけれどね。出来るだけ現地で時間を取りたいから冬休み開始当日、12月20日の朝8の鐘で出発したい。試験の補習があれば無理だけれど、大丈夫だよね」
ライバーがぎくっとした顔でミリアの方を見る。
「それはこっちで何とかしますから」
返事がミリアというところがなんともうちのパーティだ。
「ならそれで決定だね。食べ物類はパンと野菜類、最小限の肉類はこっちで買っていく。ただ天幕等の衣・住装備はそっちが使っている方が優秀だと思うからお願いしていいかな。無論その辺の費用はあとで清算するとして」
「装備は野営前提で、何日間分の予定で行きますか」
「現地の情報がないからね。だから野営も出来るフル装備で行くつもりだよ。
食料も2週間分持っていくつもりだ。実際は1週間分でも足りると思うけれど。
極限の先からでも帰る分には直接此処まで遠隔移動魔法を使える。だから必要なのは前進にかかる日数と向こうでの滞在日数。
ベリヤからパス・ラ・カザまではかつての記録では3日とされている。その先は正直よくわからない。だから出来る限り余裕はみておきたい。
その辺についてもメモでまとめて明日には渡すよ。準備期間は充分だろう、それで」
アルストム先輩の言っている事はセオリー通りだ。
遠距離移動魔法前提というところを除けばだけれども。
「さて、計画案はこんなところだけれど質問や異論はあるかな。あくまでこの旅行計画に関する事限定で、だけれど」
怪しい笑顔でにこやかに先輩は尋ねる。
旅行計画に関する事限定というのがミソだ。
正直超神について等とか世界の姿についてとか、質問したい事は多い、多すぎる。
だがどれもがある意味途方も無さ過ぎてどう聞くか急には思いつけない。
「無いようならこれで説明会は終わるよ。ご参加ありがとうございました。以降よろしくという事で」
「アルストムってどうにもうさん臭く見えますよね。いつも思うのですけれど」
「これでも誠心誠意やっているつもりなのだけれどね」
先輩方の表情と態度を見るに今のネサス先輩の意見はアルストム先輩本人以外の支持を得ているようだ。
俺も実はそう感じないでもない。
ただ先輩が言っている事には多分、嘘はない。
それも感じるのだ。
とりあえず俺がやるべき事は、早急に遠距離移動魔法を使えるようにする事。
あとは空即斬も使えるようにしたい。
あれが使えればデモン相手でも何とかなるだろうから。
今日、これから後は国立図書館だな。
なら皆に断っておこう。
「今日は俺は図書館に行ってくる」
「わかったわ。こっちは久しぶりにラトレの
あ、ライバー、また誰かに助けを求めるような目をしている。
しかしここに味方はいない。
「仕方ないよなあ。今日は3人で軽くラトレに行ってこようか」
「そうだね。この3人編成というのも珍しいかな」
「なら罠部屋で少し稼がない? 少し買いたいものがあるの」
「なら俺も……」
そう言いかけたライバーがミリアに睨まれ口をつむる。
自分の立場は理解しているようだ。
これも自業自得という奴だな。
諦めて勉強に専念して貰おう。
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