第33話 北の極限へ行く前に

141 計画の説明

「この前の一斉討伐でそこそこお金は貯まった。でもいくつか答えが見つからない謎が残ってしまったんじゃないかな。その辺をすっきりさせよう、そう思ってね。僕の個人的目的は別にあったりもするけれどさ」


 学校、お昼時の食堂。

 同じテーブルを囲んでいるのはいつもの俺達のパーティと、アルストム先輩達のパーティ。

 そして今は冬休みの計画についてアルストム先輩が説明しているところだ。


 やっぱりこういう計画だったかと俺は思う。

 そんな予感は話を聞いた時からしていたのだ。

 だが若干疑問もある。


「アルストム先輩は行った事があるんですか?」

「パス・ラ・カザは初めてだね。以前僕が行った極限は地面の下、ラトレではない迷宮ダンジョンの先の先さ」


「なら今回のその先にも何があるかは知っているんじゃないですか?」

「パス・ラ・カザは他の極限と違う意味がある場所なんだよ。知っていると実際に目で見るというのはまた違う事なんでね」


「極限に行った事があるなんて聞いていない。それなら単独であのデモンも倒せたんじゃないの」


「僕の闇属性魔法はこっそり動くのには便利でね。単独なら余程の敵でもない限りフリーパスさ。デモンやもっと怖いのが相手でもね。だから2年前、今のネサスよりレベルが低い時でも何とか極限へ行くことが出来た訳だ。


 ただ本気でその先を見る、もしくはその先へ行くとなるとその頃のレベルじゃ足りなくてね。その為にはより強い仲間が必要だと当時の僕は考えた。だからこの学校に入って、ついでに一番強そうだったハミィと一戦したりもした訳だ」


 アルストム先輩は最初から極限の先へ挑むつもりで、その為にパーティメンバーを強化したのか。

 その結果パーティは強くはなったけれど『危なくて放流不能』になった訳だ。

 俺達と結果は同じでも理由が違う。


「今のアルストム先輩なら単独で行けるんじゃないですか。遠隔移動魔法を使って」

 あえてそう聞いてみる。


「遠隔移動魔法でも直接行けない場所はあるのだよ。この大陸内でもね。極限の少し手前までしか移動魔法では直接行くことは出来ない。一度行ってある事をしてくると出来るらしいけれどね。以前僕が行った時は闇属性でこっそりとだからそんな事は出来なかった。

 だから今回も遠隔移動魔法で行けるのはパス・ラ・カザの手前、境界山脈の入口ベリヤの先までになるね。

 ところでハンス君はもう遠隔移動魔法を使えるようになったかい?」


 それを聞かれてしまったか。

 こっちもぎりぎりの質問をしたし仕方ない。


「まだです」

「なら今度は国立図書館の魔法学史の棚だね。『偽典魔導書グルモワールの研究』なんて本が魔法学史総記の棚にある筈だ。今のハンス君なら内容が理解できると思うよ」


 まさか遠距離移動魔法にも参考書があったのか。しかし何故アルストム先輩はそんな事を知っているのだろう。


「以前に探されたんですか」

「いや、僕も教えてもらっただけさ。僕の師匠に当たる人にね」 


 先輩の師匠については聞いたことがある。


「確か前に『僕の師匠には見放された』って言っていましたよね」


「その通りさ。僕なりの方法で極限を見て、それで出した答えが師匠のお気に召さなかったようでね。それきり連絡はない。そんな訳で今は好き勝手にやっている。


 元々僕の師匠は直接技や魔法を教えるというタイプじゃない。参考になりそうな本だの資料だのを送り付けて来たり必要な本のタイトルと在り処を教えてくれたりするという形だ。


 彼が言うには大抵の知識は失われずにどこかに何らかの形で残してあるそうだ。ただ体系だった形で残っていないから知る人ぞ知るという形になっているそうだけれど」


 だから第13属性についての本等も知っていた訳か。


「そんな訳で今回の冬休みプランは北の極限さ。こっちのパーティは既に行く事で合意しているけれど、せっかくだからハンス君達もどうかと思ってね」


「僕は行ってみたいと思うけれどどうかな」


 真っ先にそう言ったのはフィンだ。

 まあフィンは行きたがるだろうと最初から思っていた。

 前々からそう言った場所に行きたいと言っていたし。


「危なくはないかなあ」


「普通の実力のパーティならやめた方がいいだろうね。ただこの前の一斉討伐の時の様子を見る限りでは、そっちのパーティも実力的には問題ないだろう。少なくともパス・ラ・カザまでは出るのはオークやハイオーク、トロルといったあたりだ。この前の迷宮ダンジョンとそう変わらない」


「いいな、俺も行くぞ」


 ライバーがひっかかった。

 奴にとってはこの辺の魔獣や魔物は雑魚だからな。

 より強い敵と戦えるのが楽しみなのだろう。


「なら働かなくてもそこそこ儲かるね。ある程度オーク狩りが出来るから」


 アンジェはそっちの方で釣られた模様。


「悪い話じゃないと思うけれど、ハンスはどう思う」


 ミリアが俺に振った。

 俺自身としても行ってみたいのは間違いない。

 しかし何かひっかかる。

 だから俺は少し考えて、アルストム先輩に尋ねる。


「アルストム先輩個人の目的は何ですか」

「目的と言えるものは幾つかあるさ。今度は遠距離移動魔法で行けるようにしておこうとか、極限の先でもこの大陸にはパス・ラ・カザの先にしか無いあるものを実際にこの目で確認したいとか。


 ただせっかくだからちょっと本音も言わせて貰おう。僕は知りたいんだ。かつて僕がした決断が正しいかどうかを。


 その場所から今いる大陸を見た時、そして大陸の更に先を見た時、僕以外の人はどう思うかを知りたいんだ。そうすれば僕がかつて迷いつつした決断に対してそれなりの評価が出来るんじゃないかってね。


 立場は違うけれどハンス君やフィン君に関与した超神達も同じように知りたいんじゃないかな。自分達の過去の決断が正しかったかどうか、それが今どのような形へとなったのか、その答を知りたくて。


 少なくともメディア様はそれを知りたくてハンス君を送り込んだのだろうと思う。イアソン様はまた別の理由もあってフィンに手紙だの道具だのを送り付けて育成したのだろうけれどさ」


 イアソン様、そしてフィンか。

 先輩の台詞からしてイアソン様というのはメディアさんと同じような立場の存在なのだろう。

 つまり第一世代、超越者、そして超神と呼ばれるような存在。


 そしてフィンはやはりその1名と何らかのつながりがあったようだ。

 俺の知らない知識を知っていたのもそのせいだろう。

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