140 この先の予定

「ところで冬休み、そっちのパーティはどうするんだ。俺っち達は夏と同じタルエラの牧場で常駐警戒だけれどさ」


 もう冬休みも近いしそんな話が出てくる時期か。

 いやむしろ時期的には遅いのだろうか。

 今年は一斉討伐があって予定が後送りされたから。


「そっちのパーティ、夏に好評で冬も来てくれって言われていたんだよね」


 アンジェの台詞で思い出す。夏の終わりに此処でそんな話を聞いたよなと。確かにこのパーティ、1組いればひととおり何でもこなせて便利だろう。


「大変なのはショーンとケイト、そしてエマだけだよな。俺っち達はのんびり警戒って奴だ」

「でも何やかんやで全員に仕事が回ると思うんだな」

「そうそう。いざ何かが出たとなると私とケビンが間違いなく出るしね。それにクーパーはなまじ器用で何でも出来るから何処でもこき使われ、いや重宝されるのよね」


 想像出来て笑える。

 確かにクーパーは腕力こそないけれど器用だし走査は完璧だし腰も軽い。

 良くも悪くも便利というのはうちのパーティで言えばモリさんと同じだ。

 

「そう言えば私達もネサス先輩からお誘いがあったよ。何も予定が無いなら少し遠くへ出かけませんかって。詳細は明日のお昼に聞くつもりだけれど」


「あのパーティと一緒なら相当ヤバい場所なんだろうな。腕がなるぜ」


 アンジェの思いもよらない話にライバーがそんな反応をする。

 一方で俺は嫌な予感に襲われた。


 これがネサス先輩自身からの誘いなら問題は無いだろう。

 だが危険人物アルストム先輩が絡んでいると話が変わってくる。

 この話はいったいどっちなのだろう。

 

「何処へ行くとか、詳しい話は聞いた?」

「北の方って言っていた。詳しくは明日昼に聞く予定。ただ魔物がこれまで以上に強いから結構大変かもしれないって」


「ネサス先輩って一斉討伐でそっちのパーティと一緒の場所に行った2年生の凄く強い先輩だよな。それが結構大変ってどれだけ強い魔物が出るんだよ」

 

「でも行ってみたいかな。わざわざ大変なのに誘ってくるという事は、きっと何かあるんだよね」


 そうなるとやはり目的地は極限だろう。

 パス・ダ・ラ・カザかその近辺、あるいはその先。

 フィンもそう思って言っている筈だ。


 そうなると交通手段は何を使うつもりだろう。

 普通の交通機関で行き帰りしたら時間も交通費もかなりかかる。

 やはり移動魔法だろう。

 アルストム先輩なら使える可能性が高い。

 シャミー教官が言っていたように遠距離移動魔法が階層移動魔法とそう変わらないものなら。


 俺も使えるようになるだろうか。

 今までに何度も試しているのだがなかなか出来ない。

 調べようとも本にもやり方が載っていない。

 何せ遠隔移動魔法は伝説の魔法扱いされている。


 しかし他に参考になりそうなものは無い。

 もう一度基礎から空属性を見直して考えてみよう。

 俺が見逃したところに遠距離移動魔法のヒントがあるのかもしれない。

 階層移動魔法や短距離移動魔法と違う何かが。

 今日からしばらく夜は勉強だな。


「ハンス、何か難しい顔をしているわよ。料理がなくなるまでに楽しまないと」


 おっと、ミリアの言う通りだ。

 今は楽しむ時間だろう。

 ハイオーク料理てんこもりなんてそう機会は無いのだから。


「ところで昇級試験は全員合格したけれど、学校の試験は皆大丈夫なの?」

 

 ミリアの質問にライバーが嫌な顔をする。


「いいじゃねえか。今くらいその事を忘れたって」


「でもあまり酷いと来期に中級以上の実技授業が受けられなくなるよね。1月からの学科授業も特別クラスで地獄の特訓になるって聞いたよ」


「あれはやばいらしいんだな。厳しすぎて今の2年で特別クラスになった先輩は全員退学したって聞いたんだな」


「退学したらパーティも別になるわよ。時間があわないから。あと住む家とか家財道具とかもそろえる必要があるわね。かなりお金がかかるけれど、ライバー、貯金は大丈夫?」


 ライバー、皆さんにせめられる。


「いいじゃん。どうせ俺、この先は腕力系冒険者だろうしさ」


「でも試験も貯金も大事です。

 私は卒業したら上の学校でもう少し薬草学を勉強したいです。成績がある程度良ければ高等学校への編入も出来るようですから。今は3組ですから来年はせめて2組にはなれるように勉強もしないと。

 お金はこの学校にいれば使わないしこのパーティは結構稼げるので、無駄遣いしなければ何とかなるかなと思っています」


 エマの真っ当な意見。


「そう言えばエマは薬草を勉強したいって前から言っていましたよね」

「ええ」


「私も上の学校に行ってもう少し勉強したいです。理論を勉強しないと治療術士としては駄目ですから」

「ならケイト、教会にいても良かったんじゃない? 私と違って教会でも目をかけられていたんだし」

「教会ですと教義に縛られます。もっと自由な立場で治療術士をしたいと思っているんです」


 そう言えばアンジェとケイトは同じ教会の出身だったな。

 タイプは全く違うけれども。


「俺っちはこのまま冒険者かなあ。取り敢えず食えるという事でこの学校を目指したんだしなあ。ショーンは実家の食堂か?」

「いつかはそうすると思うんだな。でも学校を卒業したらもう少し冒険者をして、色々な食材を知りたいんだな」

「ショーンだとパーティの相手には困らないよね。討伐に強いし料理も美味しいし」


 確かにショーンはパーティにいると嬉しい存在だと思う。走査は苦手だし敏捷性も無いけれど盾の向こう側に魔法攻撃を飛ばせるのは便利だ。それに自炊には最高だし。


「結構この学校でも冒険者以外が志望って人も多いんだよな。俺っちやモ―リはとにかく食べていける方法が此処くらいしかなかっただけだけれどなあ」

「私も同じです。小作農の女子なんてすぐ結婚するか冒険者になるくらいしかないですから。少しでも勉強したいとなると此処に来るしか」


 話題が冬休みの予定から何故か卒業後の予定になってしまった。

 こうやって将来に対して選択肢が多いのは普人だからだろうか。

 普人でなくとも街や社会が大きければこうやって選択肢が増えていくのだろうか。

 久しぶりに獣人的な立場になってそんな事を考えたりする。


 獣人、特にあの村にいた頃の俺は将来とか特に考えていなかった。

 山で狩りをして菜園も作って自給自足。

 そんな獣人村の生き方が当然で全てだったから。


 今の俺はもうあの頃には戻れない。

 なら今後俺はどうしていくのだろう。

 エマやケイト、ショーンのようにやりたい事が特にあるという訳でもない。

 特に何も考えず冒険者をやっていくのだろうか。

 今の俺には答は思いつかない。

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