138 昇級試験(2)

 試験官は俺の受験票を確認し、どこからか取り出したメモ板らしきものに何かを書きこんだ。


「確認しました。申し遅れましたが私は冒険者ギルドウァーレチア本部ソゴルヴァ支部のカレジノと申します。本日はここ3番の試験官を務めております。


 それでは今回の試験について説明します。今回の試験課題は2人パーティによる不明な迷宮ダンジョンからの脱出です。


 ここから先は迷宮ダンジョンを模した通路となっています。貴方は新人のD級冒険者と組んで討伐任務中、転移トラップでこの迷宮ダンジョンへ迷い込みました。この地点は行き止まりで先へ進むしかありません。


 パーティ員に適宜指示をしつつこの迷宮ダンジョンを脱出してください。なお私がパーティ員のD級冒険者を演じます。私の武器はこのショートソードで防具は見た通り、魔法は使えないものとします。


 なお途中で敵が出現します。無論本物ではなく今回の為に雇った冒険者です。彼らはそれぞれ魔物や魔獣の画を描いた紙を貼っています。


 攻撃をする場合はその絵の部分へ怪我をしない程度の攻撃を当てて下さい。魔法の場合も同様です。新人冒険者である私に指示するという形でもかまいません。


 なお試験は私がこの後開始を告げた時から終了を告げるまでの間とします。


 以上がこの試験の内容です。宜しいでしょうか」


 なるほど、B級ともなればパーティリーダとしての力量も必要だという事か。

 納得だ。俺は頷く。


「それでは試験を開始します。指示をお願いします」


 そこからもう試験という訳か。

 了解だ。


「何処かわからない場所へ飛ばされてしまった。脱出するにはこの先へ進むしかないようだ。

 まずは俺が先頭で行こう。後ろは頼む。6歩ほどの間をおいてついてきてくれ」


 モリさん達の場合は周囲の難易度がわかっていたし、訓練させるという目的もあったから前に出した。

 だが今回は難易度不明で目的も脱出だ。

 無難に俺が先頭で行くべきだろう。


「わかった」


 こんかいの新人剣士は素直な設定のようだ。

 なら楽でいい。

 

「勿論俺も索敵をしながら進む。だが自分でも俺に任せず索敵をしてくれ。万が一という場合もある。目は多い方がいい」


 この辺もお約束の台詞だ。

 ふと思う。

 こういう試験はミリアの方が得意だろうなと。

 それともミリアは違うタイプの試験なのだろうか。

 そう思いつつ後ろの事を考えあえてゆっくり目に進む。


 走査である程度敵の配置は読めている。

 まずは前方10腕20m程度の場所に1人、次に10腕20m先の曲がり角に3人だ。

 いずれも岩や曲がり角等でこちらからは直接目視できない場所に潜んでいる。


 出来るだけお約束通り行こう。

 そう思ったので最初の敵から5腕10m程度のところで一度立ち止まって背後に声をかける。


「さて、気付かないか」

「何でしょうか」

「敵の気配だ。この先5腕10m、右側にいる」

「何の敵でしょうか」

「わからない。だがいつでも対処できるよう準備しておいてくれ」


 実は偵察魔法で何の絵が何処に貼られているかも今の時点でわかる。

 最初のおっさんはゴブリンで、絵は胸甲中央に貼られている。

 しかし偵察魔法は空属性こと第13属性。

 普通の冒険者が使える魔法ではない。

 だからここはわからないふりをしておこう。


「行くぞ」

 刀を左下段に構えてゆっくりと近づく。

 間合いまであと3歩という距離で向こうが前に出て来た。

 予定通り即時前に進んで攻撃を当てる。

 本来は両断出来るのだが今回はそうする訳にはいかない。

 軽く刀を当てるだけ。


「うっ」


 いかにもという感じでゴブリン役は倒れた。

 倒れ方といい最後にばたっと力尽きる様といいなかなか演技派だ。


「油断するな。まだ先にいる」


 同時に襲ってくるかとおもったのだが先の2人は攻めてこない。

 その代わり背後から1人、近づいてくる。

 偵察魔法で絵を確認。

 やはりゴブリンで、胸甲に絵が貼ってある。

 もう少しで目視でも確認できるな。


「後ろからくる。構えろ」

「はい」


 ゴブリン1匹ならD級の新人でも問題ないだろう。

 だが念のため一応魔法で手助けできるようにはしておく。


 おっと、このタイミングで前からも来たか。

 挟み撃ちという訳だ。

 なかなか意地の悪いシナリオだな。

 もっともハミィ先輩は5対1なんてのまでやったらしい。

 だからそれよりはましか。

 そんな事を思いつつ指示を飛ばす。


「そっちは後方の1匹だけに集中しろ。前2匹は俺が対処する」


 前からの敵はやはり胸甲にアークゴブリンの絵が貼ってある。

 色で見分けがつくあたりうまく描いているなと思う。

 後方の新人君が心配だからさっさと片づけよう。


「氷弾、連射!」


 わざとそう宣言して氷弾を飛ばす。

 威力は当てるだけ程度だが1匹あたり10連射だ。

 余裕で倒せますよというアピールを兼ねている。


 2人が倒れるのを確認して振り向く。

 ゴブリンが弱いといってもあくまでそれは平均値。

 時にはやたら強い個体がいるなんて事もない訳ではない。


 しかし今回はそこまで心配はしなくていいようだった。

 わざとらしくゴブリン役が倒れる。


「試験終了です。それではこの先に進んで下さい」


 これで終わりのようだ。

 俺は一礼して先へと進む。

 時間としては割と短かったかな。

 受験者数が多いからこんなものだろうか。

 そんな事を思いながら。 

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