136 俺が考えた形

 午後。

 結局ライバーは帰る時までテーブルから離れる事が出来なかった。


「これじゃ駄目ね。基礎からもう一度やらないと。今週の午後はライバー、討伐なしで筆記試験の特訓よ。ハンスと私で交互にやるから覚悟しなさい」


 久々にミリアが鬼モードだ。


「そこまでする必要ないだろ。今だって半分はあっているんだしよ」

「こんなの全部正解が当然の常識問題よ」


「なあモリさん、ハンス、何とかミリアに言ってくれよ。頼むからさ」


 ライバー、いつになく真剣に弱っている。

 これだけ困っているライバーを見るのは久しぶりだ。

 特に最近は脳筋的に全てをパワーで解決できるようになっていたから。


「うーん、大変だろうけれど仕方ないなあ、こればかりはさ」

「C級にならないと一人ではろくな依頼を受けられないし、しょうがないよね」

「大丈夫だよ。試験は今度の5の曜日だから。だからあと4日頑張ればいいだけだしね。終わったら冬休みもすぐだよ」

 

 誰もライバーをかばおうとはしない模様。

 当然だろう。

 ここはミリアが正しい。


「取り敢えず試験に出る分野に絞って特訓だからね。取り敢えず今日も夕食後、ハンスにみっちりしごいて貰うから。さっきまでで確認したライバーの現状とやるべき分野、引継ぎ事項は書いておいたわ。これ」


 ミリアが俺が貸した教科書類と一緒にメモを俺に渡す。

 ううむ、これは酷い。

 歴史は1割以下でほぼ全滅。

 法律、算術、魔法学は3割程度で地理と魔獣魔物学が5割。

 近接戦闘概論だけがかろうじて6割でぎりぎり及第点という有様だ。


「確かにこれは鍛えがいがありそうだな」

「廃人寸前まで追い込まないと間に合わないわよ」

 

 ミリア、厳しい。

 言いたい事はわかるし、今からこれを合格水準に持っていくにはかなりの事をしなければならないのもわかるけれど。


「ライバー、短い付き合いだったなあ。何とか生き延びてくれ」

「取り敢えず回復魔法くらいはかけてあげるからね」


 クーパーやアンジェが冗談めかしてそんな声をかける。

 微妙に目が笑っていないように見えるのは気のせいだろうか。

 ここは少し安心させてやろう。


「心配しなくてもいい。まだ時間はある。1週間位寝なくてもライバーの体力なら持つ。それに俺もミリアも回復魔法や治療魔法は使える。だから問題はない」


「ひいっ」


 あれっ、ライバーが凍り付いた。

 少し脅し過ぎただろうか。

 

 それくらいしないと間に合わないだろうから、半分くらいは本心から言っているのだけれども。

 

 ◇◇◇


 B級も記述試験は一応ある。

 しかし特に対策する必要は感じない。

 試験問題例を解いてみたがC級試験に毛が生えた程度だった。

 範囲もC級試験とそう変わりない。

 だから俺自身の試験は気にせず心置きなくライバーの勉強時間にあてられる。


 1の曜日と3の曜日の昼は俺が歴史、法律、魔法学を中心に叩き込み、2の曜日と4の曜日の昼は地理と魔獣魔物学を中心にミリアが教えた。

 更に毎夜それらの復習と算術の計算問題。


 ただそれでも一応5時間は寝れるように配慮はした。

 ぎりぎりまで勉強させた後、睡眠魔法を叩きこんで寝せたとも言うが。

 少なくとも生存には問題ない。

 

 さて、明日は試験だ。

 とりあえずライバーには今夜までで必要な知識を叩き込みはした。

 明日までに全てを忘れていなければ筆記試験も何とかなる筈だ。

 実技試験は多少弱っていても奴なら落ちるとは思わない。

 腕力だけで充分通るだろう。


 最近はむしろ俺の方が睡眠時間は少ない。

 ライバーの試験対策の後、最近気になった事について自分なりに整理しているからだ。

 今まで集まった情報が何を示しているのか。

 少しでも具体的な形にならないかと。


 今日整理したのは大陸の形についてだ。

 フィンがヤトゥバでヒントとして教えてくれた事。

 方向を変えて同じ距離同じ高さの場所を見てみたらどうなるか。

 この事についてどうなるかを考えてみた。


 走査してみると明らかに東西方向と南北方向が違った。

 南北方向は同じ直線上で遠くなるような感じ。

 つまり平面上と同じ状態だ。


 一方東西方向は遠くになるほど同じ標高でも高さが高くなるように感じる。

 東側は海岸と海だから余計に解りやすい。

 遠ければ遠いほど明らかに高さが高くなる。


 南北とあわせて考えると、俺がいる場所は円筒か円すいの内側にいるような状態だ。


 ここエデタニアから見えるほぼ同じくらいの標高の場所を走査で見て、その情報をもとに図に描いてみる。

 出来た図を定規で計ってどうなるか大きさを計算してみる。


 その結果、東西方向は直径300離600km程度の円となった。

 俺達がいるのはこの円の内側だ。


 南北方向は今のところ不明。

 傾きはなく真っすぐに見える。

 ただ知られている地域から考えると500離1,000km以上はある筈だ。

 

 直径300離600km程度、高さ500離1,000km以上の円錐形か円筒形の内側。

 これがフィンから教わった知識からの推論でたどり着いた世界の形だ。


 何故こんな形をしているのだろうか。

 思い当たる理由がひとつある。

 遠心力という奴だ。

 重いものを振り回せば外側に向けて力がかかる。

 この力で円筒内の物や人間に地表、つまり円筒の外側に向けて重力を働かせている。


 むしろその為に円筒型の内側、外側に向けてひっぱられるような形で俺達がいる。

 それならこの形も理解できる。


 ただこの形では不自然な事もある。

 太陽の位置だ。


 この大陸では太陽は東からのぼって西へ沈む。

 実際にはのぼる部分と沈む部分は見えないけれど、そういう事になっている。

 だいたい朝9半の鐘時過ぎから昼2半の鐘くらいまでなら、南側の空を南東から南西に向けて動いているのが目視できる。


 しかしそう見えるように太陽の位置を調整するのは難しい。

 単純な方法では大陸の東側と西側では同じ時間でもかなり違う角度で太陽が見えてしまう事になる。

 何らかの幻術的な魔法陣でも組んであるのだろうか。

 でもそうだとしたら何のためにそうしたのだろう。

 単に時間がわかるようにする為ならそんな事をする必要は無い。

 理由が思いつかない。


 試験は明日だ。

 俺もそろそろ寝るべきだろう。

 そう判断して俺は紙とペンを自在袋に仕舞い、着替えてベッドへ入る。


 試験が終わったら時間を作ってミリアともこの辺を相談してみようと思う。

 出来ればフィンも加えて。

 何か俺がわからない事を教えてくれるかもしれない。

 そうでなくとも何かヒントをくれるかもしれないから。

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