135 昇級試験に向けて?

 そろそろ腹も減って来た。


「今日もショーンに昼食をお願いしていい? この前の一斉討伐でやたらオークが獲れたから、ここでガツンと消費したいのよ」

「勿論なんだな」


 ショーンはあっさり引き受けてくれる。

 大変ありがたい。

 これでハイオークの肉の証拠隠滅ができる。


 モリさんや俺でも料理は出来るのだが、どうせなら美味しく食べた方がいい。

 モリさんも料理の腕は悪くないのだが、やはり本職ショーンには敵わないから。


「でもオークがやたら獲れるなんてとんでもなく大変そうだけれどなあ。まあそっちのパーティなら余裕なのかもしれないけれどさ」

「でもオークって高く売れますよね。いいんですか」

「獲れすぎて向こうの冒険者ギルドに申し訳ない気分になってね。それに素材としてもちょうどいいから何頭かキープして解体したの」


 正確にはちょうどいいからではない。

 普通の冒険者ギルドにハイオークなんて出すと洒落にならないからキープせざるを得なかっただけだ。


「この際だからできるなら全部調理してくれるとありがたいわ。余っても自在袋に入れておけば傷まないし。学校の夕食よりは絶対美味しいしね。何なら明日のお昼で食べてもいいかな」


「作るのは出来るんだけれど、本当に全部使っていいのかなあ。何か勿体ない気もするんだな」


「生のまま自在袋に入れておきたくないのよ。自在袋の容量そのものは余裕があるから、大量に作ってもしまう分には問題ないわ」


「なら遠慮なく作るんだな。モリさんとエマとクーパー、よろしくなんだな」


 ミリアも証拠隠滅を望んでいるようだ。

 それ以上に食欲が勝っている気もしなくもないけれど。


「あと鍋や容器は幾らでもあるから問題ないよ。何か必要があるものがあったら言ってね」


 フィンは例の鉱石倉庫から大量に金属類を持ち帰っている。

 だから必要があれば鍋でも皿でも幾らでも出せる訳だ。

 なお鉱石類は全て魔法精錬して金属塊状態で自在袋に収納してあるとの事。

 そして鍋や皿を出すというのは、必要に応じて金属塊からその場で成形して作るという事なのだけれども。


 見えるだけでもソテー、ロースト、煮込み、揚げ物という感じで様々な料理が出来上がっていく。

 作るのはショーンを中心にモリさんとクーパー、エマの4人。

 この4人の手際に他の人はついていけない。

 手伝えずにただ周りで見るだけだ。

 なお出来た料理はミリアが適宜自在袋に仕舞っている。


 調理開始から1時間後。

 出来上がった大量の料理の9割は自在袋に仕舞われた。

 それでも豪華すぎるくらい豪華な昼食が大きめのテーブル3つ分並んでいる。


「一斉討伐の前にも此処で豪華なオーク料理を食べたけれど、あの時以上よね」

「あの時は1頭だけだったんだな。今回はどう見ても3頭分はあるんだな」


 オークはそれなりに大きい。

 いくら12人いると言っても1回で1頭分を食べるのは無理だ。

 肉を1人3半重2kg食べたとしても4~5回分はある。

 それに実際は1人で肉だけを3半重2kgも1回で食べない。

 肉だけではなく野菜も当然料理に入っているし。

 大食いのライバーは例外として。


 昼食開始。


「このとろっとろの甘い煮込み、美味しいよね」

「俺はやっぱりこれ、塊肉を焼いた奴だぜ。肉を食べているという感じがしてさ」


 今回出ている中での俺の個人的好みは骨付き肉のトマト煮だ。

 しっかり中まで熱が通っているからか、ほろっと崩れる感じとトマトの酸味と甘み、肉の旨味が絶妙だ。

 パンと一緒に食べるとなお美味しい。


 皆最初は無口でガシガシと食べまくる。

 実際どれを食べても美味しい。

 ただ今回は量が充分以上にある。

 早い者勝ちなんて事はない。

 だからある程度食べると会話も少しずつ出てくる。


「それにしても今度の昇級試験、正直不安だぜ。何せ1回落ちているしさあ」

 クーパー、いつになく弱気だ。


「今のクーパーがD級に落ちる事はまずないわよ。特殊弓の腕だけでも余裕で合格ラインの上だし、ナイフでの近接戦闘だってC級に準じるレベルはあるわよ」

「ただ腕力がまったく無いからなあ。ショーンやエマと違って魔法も苦手だしさ」


「確かに魔法は使えたら有利だけれどさ、特殊弓で遠隔攻撃が出来る以上問題ないと思うな」

「ならいいんだけれどさあ」


 うん、やっぱり弱気だ。

 俺達から見ると全く心配いらないと感じるのだけれども。

 

「それを言ったら僕だって自信ないんだな。クーパーと違ってどうしても動きが遅いしなあ」

「私の方が不安です。力もないし、動きも遅いですから」


 ショーンもエマもだ。

 最初のD級試験で落ちているから余計に不安になるのかもしれない。


「ショーンは盾越しに攻撃魔法を使うだけで合格できると思うわ。実際あれ実戦では反則級に便利だから。

 エマも土属性魔法で足止めしてから特殊弓を使えばゴブリン5匹程度は余裕で対処できるわよね。D級はゴブリン3匹相手に戦える事を示せばまず受かるから問題ないわよ。


 C級受験のケイトやメラニー、ケビンも問題ないわ。C級も実技はゴブリン5匹が目安だから。筆記も授業を真面目に聞いていれば難しくないし。


 そういう意味でここにいる中で一番危ないのがライバーね。実技はともかく筆記がどうにも心配で。大丈夫よね、筆記」


「その分は実技の加点で何とかなるだろ、きっと」

「ならないわよ。実技と筆記は別計算だからね」

「そう言えばライバー、確か夏休み前の試験、ギリギリだったよなあ」

「ぎりぎりでも赤点じゃないから問題ないぜ」


 うーむ、大丈夫だろうか。

 確かにライバー以外はB級受験のミリアと俺を含め問題ないと思う。

 だがライバーの筆記は……


「仕方ないわ。今日の午後はライバーだけ筆記の特訓よ。私が付き合うから他の人は気にせず討伐と実技対策をしていて」


「そりゃねえぜ。せっかく魔猪イベルボア相手に新しい盾を試したいのによ」

「筆記試験が大丈夫だとわかったらすぐ終わりにするわよ。ハンスは確か自在袋に教科書も筆記用具も紙も入れたままよね。貸してもらっていい」

「ああ。存分にライバーを鍛えてやってくれ」


 確かにライバーには筆記試験対策が必要だろう。

 だからこの際、徹底的にやって欲しいところだ。

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