第32話 冒険者昇級試験
134 まずは装備の調整から
一斉討伐が終わった次の休息日。
カペック平原の手前、いつもの休憩場所。
此処に折り畳み休憩セット一式を出して拠点を設営し、俺達は武器の改良と調整をしていた。
今回は12人編成、つまりクーパー達も一緒だ。
今回は討伐が目的ではない。
2週後にある昇級試験に向けての装備改良・調整・訓練が主な目的だ。
昇級試験は自前の装備を使ってもいい。
装備の良さも実力のうちだから。
例年なら今頃試験があって、その後4週間で冬休みとなる。
そろそろ冬休み中の仕事先探しや遠征討伐等の予定等を皆で考えている時期だそうだ。
しかし今回は一斉討伐の為、昇級試験が遅れた。
そんな訳で一斉討伐が終わって早々昇級試験対策をしている訳だ。
クーパーが特殊弓をフィンと調整している。
クーパーの特殊弓は軽銀を使い更に軽く短くなった。
矢も更に細くその代わり少し長く、そして大量に入るようになっている。
弓も矢もクーパーの要望にあわせてフィンが作った専用品だ。
「軽くするとその分反動が厳しく感じるよな」
「そうだね。だから重りをこことここにつけて調整出来るようにしてあるんだよ。もう少し重心が前の方がいいんだっけ」
「ああ。手は疲れるけれどその方が連射の時に当てやすくなる」
「ならもう少しだけ重くしておくね」
あの新規
軽銀やそれより更に軽く頑丈な金属、逆に重いけれど高熱にとんでもなく強い金属。
ほとんど鉄なのに錆びない合金なんてものまで。
フィンの手持ちの自在袋では足りず俺の収納魔法まで使って持ち帰って、早速活用している訳だ。
一方、エマとケイトもクーパーのものとは違うタイプの新しい特殊弓を試している。
2人の新型特殊弓は長さ
矢はクーパー用と違ってフィンが両手持ちで使った特殊弓と同じもの。
やはり軽銀を使って今までのものより軽く仕上がっている。
機能的に今までのものと違うのは近接戦闘も出来るようになっている点だ。
先端の特殊矢が出る場所の上下に突起が2箇所あり、そこから雷魔法が出る仕組み。
雷魔法はゴブリン程度なら1発で動けなくなる威力だ。
魔力の通し方によって特殊矢と雷魔法を使い分けられるようになっている。
モリさんもついに普通の弓から特殊弓に乗り換えた。
モリさん仕様はクーパー専用とほぼ同じ形と大きさで特殊矢も同じ。
違いは魔法杖機能がついている点と、先端部に専用ナイフを装着できる点。
よく見ると少しだけシルエットが太く頑丈に出来ている。
勿論新しくなったのは特殊弓シリーズだけではない。
「ところでライバー、新しい盾はどう?」
「凄えいい!
「ライバー以外持ち運びさえ出来ないと思うわよ、あれは」
ミリアが言う通りライバーの盾は今まで以上に重い。
フル装備のモリさん3人分以上の重さがある。
振り回せるのはライバーだけという代物だ。
重い方が何かとぶつかった際、衝撃がこっちに来ない。
その理屈はわからないでもないが、これはやり過ぎだと思う。
使用者自身が気に入っているから文句はつけないけれど。
一方、同じ大盾でもショーン用は違い、軽銀を使って前よりやや軽く仕上げられた。
魔法杖機能がついているのは前のものと同じだ。
ミリア用とアンジェ用の炎の槍は穂先が新しく入手した耐熱金属製になった。
いままでより重いが高熱に耐え、さらに魔力を使用しなくとも普通の槍として使える。
勿論これも魔法杖機能付きだ。
「魔力を使わなくても使えるのは便利よね」
「でも私は今まで通り魔力を通して使う方が多いかなきっと。切れ味が全然違うしね」
他にメラニーの湾曲した剣もケビンの槍も新しくなっている。
フィンがレベルアップした分、刃の作り込みや精度が更に向上している。
見かけは以前のものとそう変わらないから目立たない。
でも使用者には違いが判る筈だ。
他にクーパー達のパーティは革鎧も新しくなった。
以前は学校から貸与された革鎧やゴブリン等の装備から俺やフィンが作った鎧を使っていた。
これらも一般に市販されている普及品程度の性能はある。
しかし今回ついに専用品を俺とフィンで作ったのだ。
俺はともかく進化種ともなったフィンの腕はもはや職人並。
しかも使用した素材が超高級品だから高性能に仕立てあがっている。
何せうちのパーティ、『その辺の冒険者ギルドや学校の事務室に出せない位の高級素材』が余ってしまっている。
最終日、あの新しい
しかし残念ながらハイオークも3匹混じってしまった。
更にはトロルなんてものまで。
シャミー教官に言われた手前、ハイオークやトロルなんて代物をギルドに出すわけにはいかない。
自己消費して証拠隠滅するしかない訳である。
外に出せないので俺とモリさん、フィンの3人でそれらを解体。
皮と肉、魔石それぞれ使えるようにした。
そのうちハイオークを今回は使いまくった訳だ。
肉もこの後ショーンの手で調理したり加工したりする予定。
あくまで普通のオークの肉として。
違うと気付かれるかもしれない。
けれどもあくまで普通のオークとごまかすつもりだ。
皮は魔法で乾かし、トブラナの実から抽出した液体を浸透させた。
これで通常のオーク革よりも軽くて丈夫な材料になる。
革鎧等には最適だ。
しかし俺達のパーティは進化種だけになってしまったので装備の重さを気にしなくていい。
だからモリさん、アンジェ、ライバー、フィンは金属鎧を使用している。
俺とミリアは元々いい鎧を持っているから作らなくていい。
だから使うのは籠手の甲部分とか靴のあて革とか程度。
しかしこのハイオーク素材、余らせておくのはあまりに勿体ない。
その結果、クーパー達にハイオークの革鎧なんてものが廻った訳だ。
なおトロルの毛皮等は別に使用予定があるらしい。
フィンが何か考えている模様。
「それにしてもやっぱり自分用の鎧はいいわね。学校の貸与品と違って身体にあっているから一段と動きやすいし」
「ああ。それに新しいからか革も軽いし、そのくせ強い感じがする」
「だよな。これなら一段と動けるぜ」
クーパー達の感想は正しい。
ただそれは新しいからではない。
フィンとモリさんがクーパー達から顔をそむけて苦笑している。
知らない顔をしているのが耐えられなかったのだろう。
気持ちはよくわかる。
俺も同じだから。
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