133 攻略の終わり

 随分と色々な事があったような気がする。

 しかしよく考えると攻略は2日目で終わってしまったのだ。

 つまりあと1日残っている。


「それでは討伐した魔物や魔獣の精算をしましょうか」

「ここで出来るんですか?」


 ここは確かに冒険者ギルドの管轄の場所ではある。

 だが実態は新規迷宮ダンジョンから魔物を食い止める為の単なる前進拠点だ。

 そういった事を処理できるとは思えない。


「これから私が高速移動魔法を使ってヤトゥバの冒険者ギルドへ討伐した魔物等を預けてきます。普段出る事の無い上位種等を数十頭単位で出しますので査定をするのにもそれなりの時間がかかるでしょうから。

 褒賞金は査定を終了し各人の冒険者ギルド口座に振り込まれます。また全員に計算書を配る予定です」


 確かに規格外の魔獣や魔物を大量に出されては現場の冒険者ギルドもたまったものではないだろう。

 だから先に預けておいて後に清算というのは理解できる。


「天幕の中では狭いでしょうからここでやりましょう」

 

 シャミー教官は天幕の前で防水布のシートを出して広げた。

 シートは幅3腕6m奥行き5腕10m位とかなり大きい。


「この上にこの迷宮ダンジョンで討伐して、収納できた魔物を出してください。特製の自在袋帳がありますのでどれだけ出しても問題ありません」


 実際は自在袋帳ではなく収納魔法なのだろうなと思う。

 シャミー教官なら余裕でそれくらいの魔法は使えるだろう。


「僕の方のパーティ分はこんなものかな。時間が無かったから収納できたのは一部だけだけれどね」

 アルストム先輩の台詞とともに一気に魔物の山が出現する。

 ほとんどがオークとその上位種だ。


「こっちも似たような感じです」

 俺も収納していた魔物の死骸を全部出す。

 俺達の方がやや多いのは攻略2回分と1回分の差だろう。


「私はそれほどではないですね。第1階層を掃除した分だけですから」

 シャミー教官はやはりオーク類を10頭程度。


 あわせるとオーク類だけでも60頭越え。

 確かにこんなのは一度にギルドに持ち込む量ではない。

 ヤトゥバの冒険者ギルドは大丈夫なのだろうか。

 王都エデタニアのギルドでも持て余しそうだけれども。


「すげえ、これ、幾らになるだろう」

「人数で割ってもかなりの収入だよね」

「卒業しても1年くらい仕事しなくても大丈夫」

「これでもう少しいい剣が買える」


 両方のパーティからそんな声が聞こえる。


「それでは収納します」

 防水布ごと魔物の山は消えた。


「それでは攻略は以上です。しかし期間はまだ残っています。迷宮ダンジョンも明後日までは充分持つでしょう。


 ですからこれから明後日の朝7の鐘までは自由時間とします。迷宮ダンジョン内をもう一度調べてもいいですし、他では出てこないような魔物を討伐しても構いません。


 アルストムとハンスは階層移動の魔法を使える筈です。ですから自由に移動可能ですしいざという時も問題無いでしょう。


 攻略の任務は終わりました。ですからこれから後にこの迷宮ダンジョン内で討伐した魔物や発見したもの等は自分達のパーティのものとして結構です。


 ただし冒険者ギルドで説明に困るような出し方はしないで下さい。たとえばハイオーク以上の魔物は通常の冒険者ギルドで出すと大問題になります。その辺はラトレ迷宮ダンジョンの30階層以降を攻略した際、ついでに数頭程度出すというように工夫しましょう」


 一部の面子はええーっという顔をしている。

 しかし教官が言ったのは当然の配慮だ。

 エルダーオークなんて1匹でも地上に出たら即対策本部が組まれて騎士団出動かつ冒険者全招集なんて事になる。

 一般的にはそれだけ洒落にならない化物なのだ。


 そういった常識がうちだけではなく先輩達のパーティにも欠けている模様。

 危なくて放流出来ないとアルストム先輩は言っていたけれど、まさにその通りだな。


「それじゃ上位種ではないオーク狙いだよね。アルストム、どの階層が多そう?」

「残念ながらわからないね。1階層ずつみていかないと」

「なら第2階層から順送りで」

「悪いね。それじゃお先に」


 先輩達のパーティが迷宮ダンジョンへと入っていく。


「容赦ないというか凄いよね。さっき出した量だけでも相当なお金になると思うのに」

「あと半年足らずで卒業だしなあ。その分私達より必要なんだろ」


 確かにモリさんの言う通りかもなと思う。

 卒業したら自分達の収入で生活しなければならないのだ。

 住居を借りる必要もあるし、毎日の食費だってかかる。

 家具や日用品も揃えなければならないだろう。

 だから今のうちに少しでも余裕を持っておこうというのもわかる。


「さて、それじゃ私達はどうする? もう休憩する?」

 確かにこっちは起きて半日以上経つ。

 夕食を食べて休憩してもいい時間ではあるのだ。


「でもその前にあの鉱石置き場みたいな階層に行ってみてもいいかな。貴重な金属もあったしね。出来れば確保したいね」


 おっと、そういう考え方もあったか。


「そうね。フィンにはお世話になっているし、オークは明日でも狩れるだろうし。皆もそれでいい?」


 ミリアがそう言ったら事実上決まったようなものだ。


「だな。もっと頑丈な剣も欲しいしよ」

「そうね。この炎の槍もお世話になっているし」


「なら行くか」

 俺達も再び迷宮ダンジョンの中へと入っていく。

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