132 私達は知りたい

「あの迷宮ダンジョンコア迷宮ダンジョンを作っている訳ですか」


 まずはネサス先輩が質問する。


「ええ。迷宮ダンジョンコアを持つ魔物、つまり迷宮ダンジョンマスターが歩いたり意識したりすると迷宮ダンジョンが広がります。


 広がった迷宮ダンジョン内の魔素マナがある程度集まると。マスターがいる場所付近に下の階層への入口が出来ます。


 この辺は人が魔法を発動する際の魔素マナの働きと似たようなものです。魔法の発動と同じように迷宮ダンジョン拡張の発動があると思ってください」


 この辺は前に軽く説明があったなと思う。

 

「それではコアが無くなるとどうして迷宮ダンジョンが無くなるのですか」


「この大陸には元々あるべきものをあるべきようにする力が働いています。その中で迷宮ダンジョンというのは異物なのです。

 ですから迷宮ダンジョンを維持する力が働かなくなると急速にあるべき姿、迷宮ダンジョンが存在しない姿に戻ろうとします。


 なおここより大きく古い迷宮ダンジョンでは、迷宮ダンジョンを維持する為に迷宮ダンジョンコアの一部の機能を分散して生成したりします。

 

 これが生成されるのは迷宮ダンジョンの他の部分とは独立した領域になります。またこの機能が脅かされないよう、防衛にあたる魔物が自動生成されます。これが階層主と呼ばれる存在です。

 

 また階層主を生じようとした際、誤作動が起きる事があります。そうなった場合、迷宮ダンジョンの他の部分とは独立した、魔物や魔獣が防衛する何もない小領域が出来上がります。これが俗に罠部屋と呼ばれるものですね。


 このあたりについては学校の図書館にある本にも載っていません。これ以上知りたければ国立図書館の迷宮ダンジョン学の棚を探してみて下さい」


 なるほど。

 だからこの迷宮ダンジョンには階層主もいないし罠部屋もなかった訳か。

 あったとしても今回は急ぐ攻略だから寄らなかったけれども。


「この鉱石倉庫のような場所、此処は一体何なのでしょうか。どう見ても迷宮ダンジョンとして出来たものとは思えないのですけれど」


 これもネサス先輩だ。


「そうですね。この階層そのものは迷宮ダンジョンとして生成されたものではありません。

 迷宮ダンジョンの階層には2種類あります。迷宮ダンジョンマスターと迷宮ダンジョンコアによって生成されたものと、それ以外のもの。


 ここ第28階層の大部分はそれ以外のものとなります。つまり迷宮ダンジョンマスターが迷宮ダンジョンを広げた際、そこにあった場所が迷宮ダンジョン内の階層として取り込まれた。そういうものです」


「ならこの場所は迷宮ダンジョンが生成される前からあったのでしょうか。この白い壁も白い天井も、無造作に積まれているこの鉱石と思われるものも」


 シャミー教官は軽く頷く。


「ここもそうですし、同じように広い他の階層のいくつかもそうです。たとえばこの迷宮ダンジョンの第16階層。


 出来たばかりの迷宮ダンジョンにあれだけ植物が茂っているのはおかしいと思いませんか。本来魔物しか生成しない迷宮ダンジョンに魔獣がいるのは何故ですか。


 つまり元々そういった場所はダンジョン生成以前から存在した。そこに迷宮ダンジョンが広がって階層として取り込まれた。そういう訳です」


 ちょっと待て。

 それならばだ。


「なら元々地面の下にこんな風に鉱石置き場みたいな場所があったり、地上に似たような場所があったりする訳なんですか。他の迷宮ダンジョン、たとえばラトレの迷宮ダンジョンにあるあの広い階層も同じように?」


 ネサス先輩が質問してくれる。


「その辺りの回答は保留します。ただ迷宮ダンジョンとして迷宮ダンジョンマスターや迷宮ダンジョンコアが作り出したものはでないと言っておきます」


 これは事実上、その通りと言っているようなものだ。


「ならば私の最後の質問です。あの第15階層と第16階層の間にある地層のように広がった不自然な場所、あれは何なのでしょうか」


「それについてはまず、近くで皆さんに見て頂きましょう」


 教官のその台詞が終わるとともに空間が揺れた。

 階層移動魔法だ。

 出たのは空中、あの大穴の中。

 だが落ちる訳ではなく宙に浮いている。

 シャミー教官が飛翔魔法を起動しているから。


 目の前はちょうど、あの自然と思えない構造だ。

 地層とは違い何かがみっちり詰まっている訳ではない。

 分厚い金属板と、同じ種類の金属で出来た柱のようなもので構成されている。

 柱は縦横ではなく小さい三角形を幾つも組み合わせるような形で上下にある金属板を支えているように見える。


「この構造についてフィンは知っていますね。違いますか」


「ええ。トラス構造と言って、三角形を基本に節点を自由に回転する支点として組んだ構造です」


 フィンが俺の知らない単語で説明する。


「その通りです。今では隠されて見えませんが、ラトレの迷宮ダンジョンの第10階層と第11階層の間にも同じ構造が見られます」

 

 教官はそこで一度間をおいて、そして続ける。


「今回の討伐任務はこの2パーティの皆に対する問いかけです。此処で体験したものをどう見るか、どう考えるか。それによってどんな結論を出すかという。


 ネサスがさきほどした質問、皆さんが感じた疑問に対して私は充分な回答をしません。それはこの大陸が抱える秘密のようなものですから。


 この中には答を知っている者もいます。答のごく近くまで到達している者も、またここで感じた疑問の近くまで既に到達している者も。


 ですからこの後、ある程度本気になって探せば答は見つかるでしょう。何故このようになっているのか。そしてこの大陸はどういう場所なのかを。


 本当は無理して答を求める必要はありません。知らなくてもこの2パーティの皆さんは充分強い。この大陸で冒険者として問題なくやっていけます。


 ですからここで見せた事、問いかけた事は私、いや私達のエゴなのでしょう。ですが私達は知りたいのです。答を知った時、皆さん一人一人がどう感じるか、どう思うか、そしてその後どう歩こうと考えるかを。


 それでは拠点に戻りましょう」


 再び階層移動が起動する。

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