129 対アークデモン対策

「さて、迷宮ダンジョンについてはとりあえずこれくらいにしましょう。次はデモン系の魔物についてです。


 今回出てきたのはアークデモンという魔物です。デモン系の魔物は通常の場所には出てきません。出てくるのは俗に極限と呼ばれる場所です。


 極限とは通常人が生活する場所から離れた特殊な場所を指します。例えばラトレの迷宮ダンジョンでは第41階層以降、バラセリアにあるセドラの迷宮ダンジョンでは第36階層以降。地上ですとアンダラ公国のグランロイガより北側が極限にあたります」


 つまりいつかフィンと話した『その先』のすぐ手前か。

 いや、『その先』こそが極限なのだろうか。


「さて、デモン系の魔物は他の魔物と違った性質があります。

 デモン系の魔物はあまり動き回りません。動くのは縄張りと呼ばれる狭い範囲のみです。


 通常、魔物は人間や獣を発見すると襲い掛かってきます。ですがデモン系はあくまで縄張りに入って来た敵だけを攻撃対象とします。


 これらの性質からデモン類は高位冒険者からは極限の門番とも呼ばれています。まるで極限の奥側を防衛していように見えるからです」


 確かにそうだなと思う。

 迷宮ダンジョン内でそんな行動をされたら。

 そしてそのデモンがいる場所がどうしても通らなければならない場所であったら。

 確かに門番だ。


「さて、アークデモンを確認した場所は第28階層から第29階層へ通じる通路の第29階層側です。先程の解説の通り、下の階層へ通じる通路は通常1箇所。ですからあのアークデモンを倒さない限り先へと進めません」


 まさに第29階層への門番だ。


「アークデモンは強敵です。槍を用いた近接格闘戦の他、光線魔法と領域麻痺魔法を使用します。腕力と素早さと耐久力はオーガ並、光線魔法は通常の盾なら易々貫通するでしょう。


 また火属性、風属性、水属性の魔法に対する耐性があります。これらの属性の攻撃魔法は全く効きません。


 更に防御力も強く、通常の矢程度では傷を負わせることもできません。更に多少の傷ならあっという間に自己回復してしまいます。


 しかし攻撃してくるのはあくまで縄張り内に入って来た敵だけ。ですから縄張りのぎりぎり外側から圧倒的な攻撃をかけ、一気に勝負を決めるという戦い方が最も安全でしょう。


 ただし有効な攻撃は限られます。火属性、風属性、水属性以外の攻撃魔法。もしくは通常の弓より遥かに強力な強弓、投槍。そういった攻撃で一気にオーガ並の敵を倒せるものが必要です。

 そこで皆さんに質問です。この条件を満たし、かつ今回使用可能な攻撃を思いついた方はいますでしょうか」


「その前に質問です。第28階層との境近くにいるとの事ですが、第28階層側から攻撃魔法などは届くのでしょうか」


 この質問はティーラ先輩だ。


「確かに通常は他の階層へ魔法は届きません。ですが冒険者が違う階層へも違和感なく歩けるように、双方へ同一の物質的なものが跨って存在している時に限っては相互に魔法も物質も行き来が可能です。


 ですからこの場合、縄に石でも結んで敵の向こう側へでも投げてやれば大丈夫です。その縄が切れない限り攻撃魔法は使用可能となります。今回はもう少し便利な道具も用意してありますのでご心配なく」


 なるほど。

 確かに違う階層だと走査もほとんど効かないからな。

 そういった措置が必要になる訳か。

 そしてそんな知識も用意もあると。


「なら私の光属性魔法、アルストムの闇属性魔法は問題ない」


「でも闇属性魔法は直接的な攻撃力がある魔法がほとんどないからね。僕は戦力外かな。

 それにどちらかというと僕らのパーティよりそっちのパーティの方が今回は適した攻撃方法が多いんじゃないかな。雷精霊召喚とか、弓とは呼べないような特殊弓とか。違うかい?」


 おい待てアルストム先輩。

 何故にそんな事を知っているんだ。

 ただまあ、アルストム先輩とかシャミー教官とかは仕方ないという気もする。

 俺以上の実力者で問題外な人達だから。


「そうですね。たとえばミリアの雷属性魔法は有効でしょう。あとはフィンが実習の際にハンスに貸した特殊弓。あれは攻撃そのものは魔法属性ではなく、更に威力もかなりあるのでデモン系に対して適しています」


 そう来たか。

 なら聞いておこう。


「反撃を受ける心配は無いんですか」

「デモンが反撃する前に倒す。それ以外に方法はないと思ってください。縄張り外には出てきませんが攻撃を受けた場合、光線魔法を放ってきます。あれを避ける事は無理でしょう」


 なるほど。

 ならばだ。


「光魔法や闇魔法で光線魔法に対処する事は出来ないですか」


「無理。理論的には偏光で少しの間は曲げられるかもしれない。しかし実際は相手の光線魔法がどのタイミングでどの方向に来るか完全に解らないと不可能」

「確かに闇魔法である程度威力を減じる事は出来ると思うよ。ただこれを使うとこっちからも向こうが完全に見えなくなる。気配も魔力もね。だから逃げる際しか使えないかな」


 ティーラ先輩とアルストム先輩の回答はこんな感じ。

 つまり最初の一撃で倒すくらいでないと無理という事か。

 ならばだ。


「フィン、使えそうな特殊弓は今、どれだけ在庫がある?」

「翼竜の時に使った大型、それよりやや小さい代わりに2連射出来る中型、あとはさっき整備した小型高速連射型だね。普段使っている特殊弓もあるけれど、これらの比べるとかなり威力が落ちるかな」


 つまり使えるのは3種類という事か。

 ミリアの雷精召喚を入れて4人は攻撃可能と。


 ん、待てよ。

 アルストム先輩は闇魔法専門っぽい事を言っているけれど、本当は空属性を使える筈だ。

 しかも俺より遥かに熟練している。

 そして空属性にも強力な攻撃魔法があった筈だ。

 なら聞いてみた方がいい。 


「アルストム先輩、空即斬は使えますね」

 あえて断定形で聞いてみる。


 空即斬は移動魔法と同じような魔力の使い方をする空属性の魔法。

 発動すると同時に対象を任意の面で切断する。

 防御力をいくら高めても効果は変わりなく、空属性に耐性が無い限り防ぐことは出来ないというとんでもない攻撃魔法だ。


 奴は目元を少ししかめて口を開いた。


「バレたか。確かにあれで倒せる可能性は否定しないね。しかしあれを使うと他の攻撃が通らなくなる。空間の連続性が一時的に失われるからね。

 だから仕掛けるならこっちの攻撃が終わった直後かな」


「アル、やっぱり強力な攻撃魔法も使えるのね」


 おっと、ハミィさんが反応した。

 どうやら強力な攻撃魔法を使える事を隠していたらしい。

 確かに以前オークを倒した時もそんな感じだったな。

 本当は俺より上の筈だからどの属性もほぼ使いこなす事が出来る筈なのだけれども。


「まあね。ただ空即斬という魔法は魔力も強烈に使うし何より手加減が一切出来ない魔法なんだよ。周囲の被害も大きいしね。だから使わない事にしているんだ。

 ところでそう聞いたという事はハンス君も使えるのかな」


「残念ながらやっと階層移動魔法をおぼえた段階ですから」


 使えないのは本当だ。

 空即斬の存在は本に載っていたから知ってはいる。

 だが理論をまだ研究していないから使う事は出来ない。


「そうか。なら仕方ない。こっちからの攻撃が通じなかったと判断した段階で使う事にしよう」

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