128 迷宮生成についての解説

 それにしても……

 俺は思う。

 この討伐で随分多くの事を知ったなと。

 そしてその分謎も増えたなと。


 フィンから聞いたヒントからわかった世界の姿の一部。

 迷宮ダンジョン第16階層へ降りる途中で見た自然とは思えない構造の層。

 大きさや品質が揃った鉱石の倉庫にしか見えない第28階層。

 これらは何を示しているのだろう。


 いや今は空属性の研究だった。

 空属性そのものについては3冊のうち『第12属性を求めて』が一番詳しい。

 だから関係ありそうなところをとにかく読んでいく。


 なるほど、遠隔移動魔法も階層移動魔法も移動の原理は同じなのか。

 違うのは移動先の把握方法。

 移動距離が延びれば必要魔力はそれ以上に増えていく。

 だから場合によっては何区間かに分割する。

 その分割を数多くとったものが高速移動魔法だと……


「それではそろそろ向こうのパーティを起こします。起きたら食事を食べ、あの魔物についてや倒し方の方針等について話すことにしましょう」


 シャミー教官の台詞で本から目を離す。

 どうやら結構長い時間、本に集中していたようだ。

 見るとミリア達ももう戻ってきている。


 フィンは今まで見たことが無い大型特殊弓らしき物をいじっていた。


「フィン、それも特殊弓なのか?」

「そうだよ。敵が素早かったり数が多かったりする時専用の特殊弓」


「今までのものとどう違うんだ? 矢の威力が更に強いのか」

「矢そのものはいつもの特殊弓と同じだよ。違うのは矢を射る早さ。1数える間に20射以上する事が出来るんだ」


 その意味を少し考える。

 フィンが普段使っている特殊弓でも命中すればトロルだろうと身体に穴が空く。

 それが1数える間に20射以上出るなら。

 同じ場所にいたら大ダメージだ。

 もし素早く逃げてもそれだけ射れば数発は当たるだろう。


「とんでもない特殊弓だな」

「ただ欠点も多いよ。射る間にかかる反動は普通の特殊弓より遥かに大きい。この箱部分に矢が100本入っているけれど連続で射るとあっという間になくなってしまう。矢の入った箱を取り換えればまた射れるけれど、それには最低3数える程度の時間がかかる。なにより重くて大きい。

 だから普段はいつもの特殊弓の方が便利かな」


 なるほど。

 ただとんでもない武器であることには変わりない。


「短期決戦で相手が多いか素早い場合専用か」

「そういうこと」


「やあ、何やらとんでもない武器があるようだね」


 背後からそんな声がした。

 勿論これはアルストム先輩だ。

 向こうのパーティも起きてきたようだ。


「アルストム先輩達はアークデモンの件を聞いたのですか」


 俺達がここにいるのに疑問を持っていないようだ。

 勿論アルストム先輩だけなら何があってもいつもの調子という可能性もある。

 だがパーティの他のメンバーも驚いたり怪しんだりしている様子が見えない。


「シャミー教官が起きる際、伝達魔法で最低限の事を教えてくれたからね」


 なるほど、そういう事か。


「それでは食事にしましょう。これから動くので、ハンス達も夕食ではなく朝食的な軽いメニューです」


 そんな訳で今回の食事はサンドイッチとスープ。

 ただ帰ってきた後軽食を食べたし量的に不足はない。


「それでは順を追って説明します。


 ハンス達のパーティは第28階層をほぼ終え、第29階層への通路直前まで到達。その時に第29階層側にかなり強力な敵がいる事を感じ取り、私に連絡して来ました。


 ただちに階層移動で現場へ向かい、敵はアークデモンと確認。総力戦を挑まなければ勝てない相手と認めました。

 ここまでは宜しいでしょうか」


 俺達だけでなくアルストム先輩達のパーティも全員頷く。

 シャミー教官はそれを確認した後、説明を続ける。


「さて、ちょうどいい機会ですのでデモン類の説明の前に、新規の迷宮ダンジョンについても勉強しておきましょう。


 新規の迷宮ダンジョン魔素マナの吹き溜まりが出来て、周囲の魔素マナを吸収しながら地下へと潜り、魔物を生成していく事で発生します。


 これは穴を掘って魔物を数多く同じ場所に入れた場合に起こる事とほぼ同じです。この場合も中に魔素マナ溜まりが出来て、疑似迷宮ダンジョンに似たものが生成されます。


 この状態で時間を置けば周囲の魔素マナを吸収して中の魔物は更に強力になり、中の空間も下へと広がっていくでしょう。この辺についてはこの2パーティの皆さんは知っている筈です。違いますか」


 シャミー教官が言っているのは強化習得レベリングに使う方法そのものだ。

 つまりアルストム先輩達のパーティも同じ事をやっていたという訳か。

 そしてその事を教官も知っていると。


「今回攻略しているこの迷宮ダンジョンも同じように生成されたと思われます。魔素マナの吹き溜まりが出来て下へと発達し強力な魔物が発生してと。


 ところでただの魔物の穴から迷宮ダンジョンになる為には迷宮ダンジョンマスターが必要です。この迷宮ダンジョンも第1階層が生成されはじめた頃には迷宮ダンジョンマスターが発生していた事でしょう。


 迷宮ダンジョンマスターは発生した時点で迷宮ダンジョン内で最も強力な魔物がなる場合が多いです。


 そしてマスターの動きとともに迷宮ダンジョンは広がり、更に周囲の魔素マナを集めます。一定以上の魔素マナが集まるとマスターのいる場所に下の階層への通路が出来て階層が増えます。下へマスターが降りて、また同じように歩き回って周囲の魔素マナを集めていきます。


 なお上の階層への通路を作る事はまずありません。ですので下の階層への通路は通常1箇所だけとなります。


 また階層が深くなる程魔素マナが集まり、最下層の魔素マナは濃くなります。その分強力な魔物が生まれやすくなります。


 ですので初期に発生した魔物である迷宮ダンジョンはたいてい途中で他の魔物に負けます。この場合勝った魔物が迷宮ダンジョンマスターとなります。マスターになれるのは魔物だけで、人間や魔獣、獣はマスターにはなれません。


 この迷宮ダンジョンの場合、初期はゴブリンの上級種が、途中からはオークの上級種やトロルの上級種がマスターになったと思われます。この辺りは各階層の状況を確認すればある程度わかります。興味のある方は学校に戻った後、迷宮ダンジョン学の本をひもといてみればいいでしょう」

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