127 新たな魔物

 第28階層は通路っぽい場所を辿るだけ。

 魔物も魔獣も出てこない。

 だから簡単に第29階層への入口近くまでたどり着いた。


 しかし。

「ちょっと待ってくれ。ライバー止まれ!」

 モリさんが進もうとするライバーに慌ててストップをかける。


「どうしたんだモリさん」

「わからないか、この気配」


 確かにわかりにくいかもしれないなとは思う。

 走査は基本的には同じ階層しか出来ない。

 そしてモリさんが感じただろう何かはぎりぎり次の階層に属する場所にいる。


 だがライバー以外は気付いているようだ。

 今までと明らかに違う、強力かつ圧倒的な気配。

 最低でも地竜クラスの強さはある。

 大きさそのものはそれより小さいけれども。

 なお迂回するルートは無さそうだ。


「これは教官に連絡して判断して貰った方がいいわね」

「ああ。連絡する」


『シャミー教官すみません。第29階層の入口付近に強力な敵の気配があります。迂回路は無さそうです』

『わかりました。まだ戦闘にはなっていませんね』

『はい、大丈夫です』

『わかりました。それではこれから確認に向かいます』


「シャミー教官がこっちへ確認に来るそうだ」

「早く戦いてえなあ」


 ライバーのそんな台詞に、モリさんがため息をつく。


「ライバーやるなよ。とんでもない相手なんだぞあれ」

「そうよ。アークトロルが何匹かかっても倒せない位圧倒的よ」


 アンジェも止めるがライバーの様子は変わらない。


「強えからこそ戦いたくなるんだぜ」


 俺もライバーを止めておこう。


「最低でも地竜並みだ。やめておいた方がいい」

「地竜ってどれくらいの強さなんだ。ハンスとミリアなら勝てそうか?」


「私では無理ね、まだ」

 ミリア、あっさり。


「ならハンスはどうだ」

「わからない。倒せてもぎりぎりになる」

「そんな化け物なのか」

「ああ」


「アークデモンですね。剣による攻撃の他、各種魔法も使う強敵です」

 いきなりそんな台詞が混じる。

 シャミー教官、到着だ。

 それにしてもアークデモンか。

 

 俺もまだデモン系の魔物と戦った事はない。

 ラトレ迷宮ダンジョンの情報本で読んだ事があるだけだ。

 第41階層より先に出てくる魔物として情報本には載っていた。

 人型で武器も魔法も使い強力だが情報が少ない敵であると。

 アークデモンという事はそのデモンの上級種か。

 間違いなく強敵だ。


「一度戻った上で2パーティ合同で出ることにしましょう」

「パーティで戦える敵なんですか、あれは」


 ミリアが尋ねる。

 俺もそう思う。

 危険すぎてパーティで戦えるような相手ではない。

 そう感じるから。


「ちょうどいい機会です。デモンという魔物について両方のパーティ全員に知って貰いましょう。この先極限へと向かう際、たとえばラトレ迷宮ダンジョンなら第41階層以降、この大陸上なら北の境界山脈へ行く場合等には知っておく必要がありますから」


「それではここで上へ戻って休憩ですか」

「ええ」


 シャミー教官は頷く。


「次は向こうのパーティが起きてからの行動になります。ですから一度上へ戻りましょう。ですがその前に、ハンスが階層移動を使えるか確認したいと思います。ですのでハンスだけまず上へ自分の魔法で戻って下さい。その後私達も移動しますから」


 そう言えば帰りに階層移動の魔法が使えるか試すと言っていた。

 魔力は充分残っているし問題ない。


「わかりました。それでは先に移動します」


 いままで見た通り魔力を動かす。

 景色が歪み、代わりに見覚えのある洞窟状の場所が見えた。

 第一階層入口に無事到着だ。


 出た場所から少しだけ出口側へ移動して待つ。

 すぐに残り全員が移動してきた。


「階層移動魔法も問題なく使えるようになりましたね。今の魔法の応用で他の移動魔法も出来る筈です。それでは天幕へ戻りましょう」


 遠隔移動魔法は本来は伝説に近い存在だ。

 俺達は体験済みだが世間では『かつて存在していたと文献に残っている』だけの魔法。

 当然やり方が記載されている本など無い。


 ただ教官は階層移動魔法の応用で出来る筈だと言った。

 なら何とかなるだろう。

 もう一度空属性について復習して考えられる要素を試してみよう。


「今度は起きている時間が長くなります。向こうのパーティが起きる時間までは自由時間です。軽食はそこに出ている自在袋に入っています。

 ただ、自由時間中に迷宮ダンジョンでの戦闘等はしないでください。魔力体力最高の状態であのアークデモン討伐に臨むつもりですから」


 確かにライバーあたり、自由時間で討伐とかしそうだしな。

 アンジェも小遣い稼ぎでやりそうだ。

 そういう意味では教官の指示は非常に正しい。


「うーん、なら仕方ねえ。昼寝でもするか」

「それくらいしかやる事はなさそうだよね」


 前衛2人はそんな意見。


「特殊弓の訓練をしたいんですが、迷宮ダンジョンの第1階層を使うのは駄目ですか」


 モリさんは真面目だ。

 でもそう言えばモリさん、今まで普通の矢を使う弓を主に使っていて、あの小さい塊のような矢がたくさん入る特殊弓は使っていなかったな。

  

「そうですね。それなら第1階層だけは入っていい事にしましょう。ただし魔法使用は無しとします」


「おっと、なら訓練出来るな」

「そうね、訓練訓練」


 前衛2人の台詞には絶対邪念が入っている。

 間違いない。

 ミリアがため息をついた。


「わかったわ。私も訓練につきあう。ハンスとフィンはどうするの?」


 ミリアは本当に面倒見がいいなと思う。


「僕はここで装備を少しいじっているよ」

    

 フィンは予想通りの答。


「俺は少し読書をしている」


 空属性について、買った本をもう一度読むつもりだ。

 遠隔移動魔法に関するヒントとなる事がないか探す為に。

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