126 鉱石置き場?

 派手に道を切り拓いた為、魔物等はそれなりにやってくる。

 ただし此処はかなり寒い。

 周囲も凍っていたりする。


 そしてそんな場所だからこそ得意魔法を思い切りよく使えるなんて奴もいる。


「極熱斬! 極熱斬! 極熱斬っと。思い切り魔法を使えるのは気分いいよね」


 アンジェは元々火や炎といった魔法を得意としていた。

 前衛特化した時も武器はフィン特製の火属性魔法を纏う槍。

 その槍は現在、延焼の心配がないこの階層で猛威をふるっている。


「やっぱりこれくらい周囲が寒いとよく効くよね、この槍」

  

 槍そのものは製作後も随時改良されている。

 現在は進化種スペルドとなったアンジェ用に槍の穂部分が長く、そして更に高熱にも耐えられるようになった状態。


「何かその槍、本来以上に長くなっていないかなあ」

「あと槍って本来突くものだよな」


 確かにライバーの言う通り槍は本来突くものだ。

 だがこの場においては違う。

 間違いなく切り裂いているのだ。

 モリさんの言う通り、長さが2腕4m以上、穂先だけでも1腕2m以上に見える槍で。


「魔法よこれも。熱線の応用で槍の先1腕2m程度まで高熱で焼けるようになっているの。通称極熱斬。熱線と違ってある程度の時間持続できるし、その割に魔力は使わないんだよね」


「俺の出番がないぞ」

「今回は先に早く進む事が目的だから仕方ないよね」


 ただこれで魔物や魔獣を倒すと微妙に嫌な臭いが周囲に立ち込める。

 モリさんが何気なく風属性魔法で臭いをパーティ側へ来ないよう流していたりもする。

 この辺は最年長者のたしなみという奴だろう、きっと。

 きっとアンジェは気付いていないけれど。


 勿論アンジェ以外もそれなりに戦っている。

 近づいてくるものはモリさんやフィンの弓・特殊弓がまず狙うし、前から突進してきてアンジェが間に合わない分はライバーが大盾で押し倒す。

 横や後ろから来るものは俺やミリアが相手。

 魔力節約の為に槍や刀を主に使っている。

 勿論数匹一気に来た時は魔法も使うけれど。


 倒して倒して倒しまくって周囲に魔獣や魔物がいなくなった頃、ちょうど次の階層への洞穴へたどり着いた。


「これだけ一気に倒すと流石に疲れるよね」

「全員に回復魔法をかけるわよ」

 

 魔力の広がりとともに少し楽になる。

 やはりそこそこ疲れたようだ。


「どうする? 次もこの方法で行く?」

「時間的にはこの方が早いよね」

「そうだよな」


 フィンとモリさんは経過時間がわかるようだ。

 俺はわからないけれど。

 この辺は職業ジョブの違いだろう。


「それにこれだとレベルも上がるよね」

「確かにそうだな。俺も1上がったぜ」

 

 なお強化習得レベリングと違い少しずつレベルが上がるので動けない時間はない。

 

「なら次もこの方法で行くわよ。ハンス、お願いね」

「わかった」


 洞窟は横方向へと続く。

 つまり次も屋外を模した場所という訳だ。


 割とすぐ次の階層に出る。

 先程よりもっと寒く、吹雪いている。

 どこもかしこも凍っていてしかも夜だ。

 モリさんがさっとライバーに温熱維持魔法をかけた。

 他は全員自分で出来るから問題ない。

 

 かなり魔物や魔獣の数が少なく感じる。 

 おそらく寒すぎるせいだろう。

 次の階層移動の場所は1離2km先。


 熱線魔法の威力を調節して、階層間の壁を壊さないよう道を作り上げる。

 今回は下が氷なので熱線だけで全て出来るので楽だ。

 だが熱線で削り取った部分も少し間を置くとすぐ凍っていく。

 下が固い分歩きやすいとも言えるかもしれない。


「それじゃ行くわよ」

 いつも通りの隊列で歩き始める。


 ◇◇◇


「流石に次はもう寒い場所じゃないよな」

「やたら寒い階層が2つも続いたものね」

「でもラトレ迷宮ダンジョンの下の方はやたら寒い階層が5つ続くって書いてあったよね」

「そうならない事を祈りたいよなあ」

「でも敵は少なくて楽だったかな」

「確かにそうだけれどなあ」 


 そんな事を話しながら第28階層への洞穴に入る。


「駄目かな、下へ行かないなあ」

「また外のような場所決定ね」


 確かにモリさんとミリアの言う通りだ

 ラトレ迷宮ダンジョンでも外を模したような階層間の移動は横方向だ。

 此処も第16階層からはずっと横移動だった。

 そして今度も横方向だ。

 温かくなる様子もない。

 今度もやたら寒くて広い層だろうか。


 少し歩くと壁や天井が変わった。

 今までの土や岩から平たい何かよくわからない岩のようなものに。

 岩というかこれは何かの金属だろうか。

 白い粉末状のこれは色こそ違うが錆びみたいなもののように感じる。

 

 出た場所は何もない広場的な場所だった。

 走査した限り今までの階層と広さそのものは同じ。

 だが上は暗いが夜空を模していない単なる天井。

 周囲も土ではなく通路の途中と同じ白い異質な壁。

 地面にあたる部分は一部を除いて拳大の赤いゴロゴロした石だ。

 見る限りこの石で埋まっている。

 

「鉄鉱石だねこれは。よく採掘されている典型的な鉄鉱石だよ」


 フィンがそう言うなら間違いないだろう。

 しかし何故此処はほぼ大きさの揃った鉄鉱石に覆われているのだろう。


「ずっとこればかりかよ」

「端の方に他の鉱物もあるよ。黒いのが銀や銅が取れる鉱石、あと単体の銅や金もあるね。他に似鉄とかも」


 確かに注意深く走査すれば一部の石の種類が違う事がわかる。


「つまり鉱石置き場って感じなの?」

「まさに鉱石置き場だね、これって」


 確かに置き場という感じだ。

 鉱山というのとは明らかに違う。

 明らかに鉱石だけ、それも純度も大きさも揃ったものだけがあるようだから。


迷宮ダンジョンの奥で時々有用な鉱石が採れる事があると聞いたことはあるわ。でもこんな感じだとは思わなかった」


 ミリアの言う通りだ。

 迷宮ダンジョンの深い層では有用な資源が採れる事がある。

 しかしこんな感じで倉庫のようになっているとは聞いていないし本にも載っていなかった。


「魔物はいないみたいだな。これじゃ食べるものもないからかな」

「きっとそうだね」

 確かに魔物の気配はない。

 

「なにはともあれ進むしかないわね。魔物もいないし」

「そうだな」


 進む方向はわかる。

 左の壁沿いまっすぐだ。

 この部分だけ壁と同じような白い粉がふいた何かで出来ている。

 まるで通路として作られたかのように。


 俺達はシャミー教官に報告を入れた後、歩き出した。


「それにしても何故この鉱石、こんなに大きさも成分も揃っているの?」


 ミリアの言っている事はもっともだ。

 大きさも成分も揃っている。


「厳密には鉱石ではないからじゃないかな。鉄としてよりこの形の方が保存しやすかったからだと思うよ。この形なら**も安定して保存できるしね」


 何だって。


「どういう事?」

「今のは独り言だよ」

 ミリアの質問にフィンはそう軽く呟くようにこたえた。


 間違いない。

 フィンはやはり重要な何かを知っている。

 少なくとも俺やミリアよりも。

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