124 最初の休憩時間

 そんな注意をして走査した事なんて無かったな。

 同じ高さで同じ距離で違う方向か。

 しかし今いる場所は山と山に挟まれた谷間状の土地だ。


「場所が悪いなあ。周囲が山だから同じ高さの場所が探せない、此処だとさ」


 モリさんの台詞にフィンは頷く。


「それもそうだね。なら見る方向を指定するよ。ここから東側、この天幕の中ではあそこ、2番目の戸棚の方を近くから遠くへ視点を伸ばして行ってみて。そっち方向に川が流れているから、地形的には少しずつ低くなっている筈だよ。勿論多少の上下はあるけれどね」


 どういう事だろう。

 そう思いながらやってみる。

 まず1離2km程度の場所はヤトゥバの街、普通に見える。

 次に2離4km程度の場所。森の中。問題ない。

 そして3離4km程度の場所。今度は河原だ。

 そこで俺は気付いた。

 フィンが何を意図しているかを。


「私ではわからないわ。精度無視しても2離4kmくらいが限界だし」

「それくらいだと少し難しいかな。完全に平らな場所でないと。もう少し遠いと一気にわかりやすくなるんだけれどね」


 やはりそうか。

 なおモリさんは何も言わない。

 でも表情から気付いているとわかる。

 探索士レンジャーの走査スキルは強力らしいし、元々モリさんは走査は得意だし注意深いし。


 なら、俺が答えよう。

「遠くほど高さが高い場所にあるように見える。そういう事か」 


「そうだよ。ただそれが何を意味するか、何を意味すると考えるかは人それぞれかもしれないけれどね。

 これがとりあえず今この場でも確認できる、手掛かりのようなもののひとつだよ。

 さて、あまりこの件で話し込んでしまうと時間が無くなるからね。今日はこれくらいかな」


 確かにのんびりするほどの時間はない。

 それでも俺は考え続ける。


 遠くへ行くほど高い場所にあるように見える。

 近い場所はわかりにくい。

 なら円を内側から見るように、遠くへ行くほど上へ曲がって行っていると考えるのが普通だろう。


 しかしそれは自然な形ではないように感じる。


 世界の形を想像してみる。

 やはり平面が一番わかりやすい。

 その広がりの外に何があるのかを考えなければ。


 次に思いつくのは球面だ。

 球の下側にいる人間がどうやって球にくっついているのかはわからない。

 でもきっと魔法に似た何か、球にくっつくような力が働いているのだろう。

 そう考えればこの大陸も巨大な球、巨大な星の上にあると考える事が出来る。

 空に見える星と同じように。

 これなら大陸の、更にはこの星の更に先の広がりも考えやすい。


 だが円の内部、円筒の内部、球の内部。

 そんな姿は想像した事はなかった。


 形そのものは星の内側に巨大な空洞がある等考えれば想像できない事はない。

 しかしそれなら空に太陽や月、星が見えるというのはおかしい。

 空の上に見えるのはこの大陸、この世界の続きの筈だ。


 空の上に太陽や月、星が見えるのはこの大陸が平面の外側、もしくは球や円筒の外側にある場合。

 そう、内側ではなく外側にある場合だ。

 しかしさっきの遠くを見た結果はそれと矛盾する。


 わかった。

 今全てを判断するのは情報が足りない。

 とりあえず今、この件を考えるのはここまでにしよう。

 食べ終わったので食器一式を清拭魔法で綺麗にして元の自在袋へと仕舞う。


 ライバー達は武器や防具の手入れをしている。

 正確には手入れをしているのはフィン。

 現在は力任せに使っているせいで表面が曲がったライバーの盾を修正中。

 モリさん、アンジェ、ライバーは自分の装備の順番を待ちながら見ているという状態。


 ただフィンを手伝う必要はなさそうだ。

 俺が出来る数倍の速度で処理できるようだから。


 俺自身は今日、刀を使っていない。

 だから自分で防具の点検をすれば終わりだ。

 ミリアも俺と同様の模様。


「向こうのパーティはどれくらい進んでいるかしらね」

 

 ミリアのそんな台詞に対し、少し考えてみる。


「向こうの方が俺達より戦力は高いだろう。ラトレ迷宮ダンジョンの第30階層以降まで攻略しているならああいった場所にも慣れている筈だ。最低でも5~6階層くらいは進んでいると思う」


「こっちも頑張らないとね。何なら私かハンスのどちらかが先頭に出て、魔法で強引に道を作って進むくらいしてもいいのかしら。この迷宮ダンジョンはどうせ消すのだからそれくらいしても大丈夫よね」


「確かにそれも方法のひとつだな」


 熱線魔法で進路の植物を焼き消して、土属性の踏み固め魔法で足場を整えて一気に進む。

 これなら目的の場所まで最適な経路を自分達で作れる。

 しかも獣道より歩きやすい。

 獣道を辿る通常の方法よりかなり早く進めるだろう。

 俺とミリアが交代でやれば5~6階層分程度は魔力も持つだろうし。


「いずれにせよ、明日がどういう階層かだな。今日最後の階層と同じタイプとも限らない」

「そうね」


 そんな事を話しているとライバー達がベッドのある方へとやってきた。

 どうやら手入れが終わったようだ。


「あと6半時間10分で睡眠魔法をかけます」


 シャミー教官からそんな連絡があった。

 ついでだから聞いてみる。


「向こうのパーティの様子はどうですか?」

「順調に進んでいるようです。今、第20階層に入ったという連絡がありました。第20階層はやはり屋外を模した階層で、かなり気温が低いそうです」


「早!」

 ライバーの言う通りだ。

 まだ1時間も経っていないのに1階層半進んだ訳か。

 あの広い階層を。


 明日はどんな攻略をするか考えないとな。

 ミリアの言った方法がやはり一番早いのだろうか。

 それとも他の方法があるのだろうか。

 どんな方法で進んだのかアルストム先輩にも聞かないとな。

 そんな事を考えながらベッドに入る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る