122 攻略交代

 第16階層からは広かった。

 第15階層より上では次の階層への入口まで、最短経路ならせいぜい100腕200m程度。

 しかし第15階層は直線距離でも半離1kmくらいはある。

 実際は歩きやすい獣道等を辿っていくからもっと長い。

 しかも途中で強力な魔物や魔獣も出てくる。


「妙だよな。牙ネズミや牙ウサギのような弱っちい魔獣がえらく少ねえ」


 ライバーが奴らしくないがもっともな事を言う。

 確かに俺も同じことを感じた。

 食物連鎖を考えてももっと小型魔獣や単なる小動物はもっと多くていい筈なのだ。

 それがここまで少ないという事は……


「これじゃ大型の魔獣や魔物は餌が無くてそのうち死滅するよね。魔素マナで勝手に出てくるスライムやゴブリンは別として」


 フィンの言う通りだ。

 でもそれなら何故、こういう状態になったのだろう。


「それにこの階層から魔物だけではなくて魔獣や普通の獣、植物なんかも出てきたよね。今までの階層は何故なかったのに急に出てきたんだろう」


「洞窟じゃなくてこういった広くて明るい場所でないと普通の植物や獣、魔獣は無理なんじゃないかなあ」

「なら何故ここからはこういった広くて明るい場所になったか、そういう疑問が出るわよね」


 考えるときりがない。

 俺にもわからない。

 だが俺は密かに疑っている。

 フィンはある程度、これらの答えを知っているのではないかと。

 確証はないけれど。


「ライバー、もうすぐオークが出てくる。先に魔法で攻撃するからとどめだけ頼む」

「おいきた了解だ」


 なにはともあれ、今回は先に進む事が重要だ。

 俺達は地上の平原と比べて数段強力な魔物や魔獣が出る森林を、戦いつつ進んでいく……


 ◇◇◇


『お疲れさまでした。もう1つのパーティを連れてこれからそちらへ向かいます』


 俺達がシャミー教官からそんな伝達魔法を受け取ったのは第18階層の途中だった。


「結局あの後、2階層しか進めなかったね」

「広いし敵は多いし仕方ないかなあ」

「そうよね。かなり強い魔物も結構倒したし」

 

 皆が言う通りだ。

 第16階層からは一気に進みにくくなった。

 これでも結構頑張ったつもりなのだけれども。


「取り敢えず交代までに周囲の魔物を一掃するわよ。皆、伏せて!」


 ミリアのそんな台詞に俺達は慌てて姿勢を低くする。

 雷精が周囲に広がっていった。

 バチバチという音があちこちで響いた後、一気に静まり返る。


「強烈だよなその魔法。最近やっとその雷精魔法がどれだけとんでもないか分かったけどさ」

「そうよね。魔導士になってもそんなの使えないもの」


 確かにミリアの雷精魔法は特別扱いだろう。

 危険ではあるが頼れる事は間違いない。

 ただ魔力はそれなりに使うらしく余裕がある時しか出さない。

 今はもうこれで終わりだから遠慮なく使ったのだろうけれど。


「ところでハンス、今日はどれくらい獲物を仕舞えたのかな」

「そうそう。何気に魔法で何かしていたわね」


 おっと、フィンとミリアには気づかれていたか。

 まあ気付かれるとは思ってはいたけれど。


「攻略に影響が出るとまずいから全部ではない。オーク類と魔猪イベルボアだけだ」

「それでも30匹近くは確保しているよね」


 何気にフィン、数えていたらしい。


「28匹だ」

「すげえな。11人でわけても1人1匹以上か」

「いつもと違って倒す速度重視だから状態は今ひとつだ」

「充分だよね」


 確かに金額的にはいいお値段になるだろう。

 そんな事を話していると近くの空間がさざ波のように揺れる。

 アルストム先輩達のパーティ、到着のようだ。


「やあやあお疲れ様。第18階層とはこれまた随分進んだね」


「第15階層までは迷宮ダンジョンが小さかったですから。第16階層からは行程も長くなって進みが悪くなっています。


 植物相はだいたいラトレ迷宮ダンジョンの第11階層とおぼ同じです。ただ魔獣が弱いものが少なく、強いものばかりになっています。他魔物はオークの上級種まで普通に出てきています。

 あとは第15階層からは階層移動も横方向ですね。これもラトレ迷宮ダンジョンの第11階層と同じです」


 報告と引継ぎを兼ねて伝える。

 

「了解だ。つまりラトレ迷宮ダンジョンの中層付近と同じ環境で、魔物だけ強いと思えばいいんだね。理解した」


 その通りなので頷く。


「ところでこのタイプの階層へ来る途中、見なかったかい? 大地を支える大地ではない層をさ」


 何の事だ?

 そう思ったが次の瞬間に気づく。


「あの鉄のような金属で出来た層ですか」

「それさ。気付いたようだね、やっぱり。残念だね。本当は僕も自分の目で見て見たかったのだけれど。直接目にする機会なんて滅多にないからさ。こういう時でもないとね」


 間違いない。

 アルストム先輩が言っているのは第15階層から第16階層の間。あの大穴を落下中に見たあの金属の層の事だ。


「あれは何なんですか」

「何だと思う?」


 アルストム先輩はそう言ってにやりと笑う。


「答えは自分で知った方が面白い。だから今はあえて言わないでおこう。下手に教えて教官に怒られちゃうとまずいしね。

 それでもまあ、順調に答に近づいていっているのは確かだね。僕より周りに恵まれているおかげもあるかもしれないけれど」


 振り返らず周囲を確認する。

 ミリアとフィン、そしてシャミー教官は俺達の会話に気づいているようだ。

 そしておそらく先輩達のパーティも。


「まあ答はそう遠くないうちにわかるさ、きっと。その時の答えを知りたいものだね。知りたがっているのは僕だけではないけれどさ、きっとね」 


 今の俺には先輩の台詞の意味は解らない。

 答とは何を指すのかも。

 しかし先輩は嘘は言っていないように感じる。

 なら今はもどかしいままでも探し続けるしかない。

 何故そうなっているか、何がどうなっているのかを。


「引継ぎは済みましたか」

「大丈夫です」


 アルストム先輩がそんな白々しい台詞を真面目そうな口調で吐く。


「それではハンス達のパーティは上へ戻しましょう」

 この階層移動の魔法も覚えないとな。

 俺は教官の魔力の動きを注視する。

 なるほど、思った通りだ。

 そう思った瞬間、景色が変わった。

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