121 妙な地層?

 順調に進んだのは第15階層までだった。

 

 第15階層まではほぼ同じような洞窟状の迷宮ダンジョンで、下の階層へと向かうのは急坂だった。

 しかし今、目の前にある第16階層へ通じる場所は単なる穴だ。

 しかも底はかなり深い。

 走査したところ100腕200m以上はある。


「これは飛び降りられないな」

「ハンスって飛翔魔法を使えるの?」

「俺1人なら何とか。だがそれ以上は無理だ」


 飛翔魔法は風属性の最上級魔法のひとつだ。

 賢者に職業変更した俺でも自分1人がやっとという状態。

 他に誰かを連れていけるような余裕はない。


「仕方ないわ。とりあえずハンス1人で降りて。ハンス1人でも降りられたらシャミー教官の階層転移を使えるから」


 確かにそれしか方法はなさそうだ。


「わかった。じゃあ行ってくる。それじゃミリア、連絡は頼む」

「わかったわ」

「大丈夫なの」

「1人なら問題ない。行ってくる」


 俺は軽くジャンプして穴に。

 落下速度を飛翔魔法で抑えつつ、目視と走査で周囲を確認。


 下の第16階層はどうやら地上を模したような階層らしい。

 植物や獣、魔獣もいるようだ。

 今までは魔物しか出なかったのに、何故獣や魔獣がいるのだろう。

 植物もどうやって侵入し、そして茂ったのか。

 草だけならともかくそこそこ背の高い樹木もあるようだ。

 この迷宮ダンジョンはごく最近出来た。

 樹木が茂るような時間はなかった筈だ。


 ふと俺が落下中の穴に違和感を感じた。

 穴のごく一部、10腕くらいの幅で材質が違う部分がある。

 走査で感じた限り土でも岩でもない。

 似ている反応としては鉄などの金属だ。


 穴を落ちていく俺がその部分を通り過ぎる。

 俺の目が金属光沢に似たその部分を捉えた。

 俺の知っている鉄とは少し違う気がする。

 だが間違いなく金属、それも鉄と非常によく似ている。


 その部分は地層のように地表とほぼ平行に層になっている。

 しかも岩や土のようにただ詰まっているだけではない。

 明らかに何か、自然ではない構造だ。


 俺はあっという間にその部分を下へと通り過ぎる。

 今のは何だったのだろう。

 地面の下に何故そんな自然とは思えない、それも大規模な構造物が地層のようにあるのだ。

 なおこの構造は迷宮ダンジョンとして構成されたものではない。

 この迷宮ダンジョンより更に先へ広がっているのを感じたから。


 考察モードに入りかける思考を取り敢えず俺は止める。

 今はまず下の階層へ無事に着くことだ。


 穴部分を抜けると広い場所。

 ラトレ迷宮ダンジョンの第11階層と似たような感じだ。

 俺の真下は森林。

 風魔法で落下速度を更に殺し、木の枝を避け少しでも広い場所へと降りる。

 今すぐ襲ってきそうな敵はいない。


 それでは連絡するか。

 地上、あの拠点をイメージしつつシャミー教官宛ての伝達魔法を起動……できない。

 ひょっとしてさっきの場所だろうか。

 第15階層、この真上に向けて伝達魔法を起動してみる。

 今度は通じた。


「教官、ハンスです。第16階層に到着しました」

「わかりました。それでは残りのみなさんと階層転移をします」


 俺の目の前の魔素マナが凝縮する。

 さざ波のように周囲の空間が揺れる。

 揺れの中心が一気に歪んで歪みが球状に広がった次の瞬間、ふっと教官達が出現した。


 出現側から見るとこんな感じになる訳か。

 何となく階層転移魔法のやり方がわかった気がする。

 もちろんだからと言って今すぐ使える訳ではない。

 あと何回か観察すれば多分出来るようになると思うけれど。


「お疲れ様。攻略は順調のようですね」

「ここまではですけれど」


 第16階層は明らかに今までの階層よりも広い。

 敵の気配もかなり多い。

 今までと攻略方法がかなり変わりそうだ。

  

「ラトレ迷宮ダンジョンの第11階層みたいだね」

 誰もが思っているだろう事をフィンが口にする。


「そうですね。あそことは上までの高さも気温もほぼ同じようです。魔物が少し違いますが、このパーティなら気にせず進めるでしょう。

 それではまた何かありましたら連絡ください」


 教官が階層移動魔法を起動する様子を確認する。

 基本的には物質転送魔法と同じようだ。

 波立たせて浮いた空間というか場を歪ませて、繋げてと。

 場の作り方は物質転送と少し違うな。

 この辺はもう少し観察する必要があるようだ。


「把握できる外へ行けそうな場所を目指せばいいんだよなあ、きっと」 

 モリさんがこの階層を走査したようだ。

 確かにここには下に向かうような場所はない。


 この階層の外、つまり把握できない先につながっているのは2カ所だけ。

 ひとつがこの上に向かって開いている穴。

 もうひとつが俺から見て左前先、1離2km位先にあるおそらく洞窟と思われる場所。


「そうだね。ラトレの迷宮ダンジョンの第11階層と同じように横移動なんじゃないかな」


 確かにフィンが言ったとおりラトレの迷宮ダンジョンと同じだ。

 しかし……俺は先程見たものを思い出す。

 今なら皆も確認できるかもしれない。

 だから俺は口にする。


「攻略とは関係ないかもしれないけれど、落ちてくる途中に妙なものを見た。この上の階層とこの階層の天井の間、この階層に近い側に地層にしては妙な層がある。わかるか?」


 ライバー以外は走査すればある程度は把握できるだろう。

 どうとらえるかは別として。


「ほんとうね。何かしら。鉄?」

 ミリアは把握できたようだ。


「鉄によく似ていたが俺の知っている鉄と違う」

「錆びない鉄の合金の一種だね。鉄骨でトラス構造になっているのかな。なるほど、こうやって支えている訳なんだね」


 フィンが俺にはわからない事を言った。


「フィン、何? 合金とかトラス構造とか」

 ミリアも知らない単語だったようだ。


「あとでゆっくり説明するよ。とりあえずここの攻略そのものには関係ないからね。

 それじゃ行こうか。モリさんが言った場所でいいと思うよ、僕も」


「なら行こうか。ライバー、ちょっと右まっすぐ。少し歩いたところに獣道があるから右」

 俺達は歩き始める。


 フィンは何を知っているのだろう。

 何処でその知識を得たのだろう。

 職業変更ジョブ・チェンジで俺の知らない職業になった結果知ったのだろうか。

 そう思いながら俺も歩き始める。

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