120 腕力チート式高速攻略

 内部は洞窟状だった。

 高さは俺の身長の1.5倍程度で幅は3人並んでも大丈夫な程度。

 灯りはないが全員が進化種スペルドなので暗視を使える。

 真っ暗でも余裕で周囲を視認可能だから問題無い。


「ここはさっさと攻略しよう。ライバー、まっすぐ、右、左。早足で」

「わかったぜ」

 俺達は早速進み始める。


「曲がった先でゴブリンの上級種。ライバー、チャージで。倒し損ねたらアンジェ頼む。魔石は拾わない。速攻で行く」

「おいよ、もったいねえけどな」

「わかったわ」


 モリさんは少しでも早く進むつもりのようだ。

 俺もその方針は正しいと思う。

 今回の任務は少しでも早く、少しでも先へ進むことだから。


 2つめの分岐を左に曲がったところでアークゴブリン1匹と出会った。

 ライバーがすかさずシールドチャージで敵を吹っ飛ばす。

 本来はそこそこ強い魔物であるアークゴブリンはあっさり飛ばされ、半ば潰れて倒れる。


「手ごたえねえな」


 かつて迷宮ダンジョンをはじめて攻略した時、最初のボス部屋の敵がアークゴブリン3匹だったよな。

 その当時はミリアと俺以外では戦えなかった敵だ。

 それが今では雑魚扱いか。


「第1階層なのにもうアークゴブリンが出てくるのね」

「だね。教官も言っていたけれど」


 シャミー教官が事前に始末しておいてくれたおかげだろう。

 魔物は他には出てこない。

 あっさりと下の階層へ通じている場所まで辿り着いた。


「階段じゃないんだな」

「滑りやすそうだよね」


 ラトレの迷宮ダンジョンでは下の階層へ向かう場所は階段になっていた。

 しかしここは急な坂道といった感じだ。

 下も土でアンジェの言う通り滑りそうな感じ。


「滑らないように気をつけてさっさと降りるわよ。あと今日はシャミー教官への連絡は私がするわ」

「わかった、ミリア頼む」

 

 誰も足を滑らすことなく第2階層へ到着。

 第1階層と同じような洞窟状の空間だ。

 走査してみたが広さもそれほど変わりない。

 違うのは敵の多さだけだ。


「ハンス、後ろは頼む。ライバー、右、まっすぐ、まっすぐ、左で次の階段。早足で。出た敵にさっきと同じくチャージで。アンジェも補助頼む」

「わかったわ」

「わかったぜ」


 ライバーと、ひょっとしたらアンジェ以外はこの階層の状況や敵、罠、階段の位置を走査可能な筈だ。

 今回は最低でも5匹は倒す事になるだろう。

 後方からも3匹程やってくる可能性もある。


 魔法は節約した方がいい。

 まだ先は長いから。

 俺は腰の刀に左手を添えていつでも対処できるようにする。


 前からコボルト2匹とアークコボルトがやってくる。

 ライバーの歩行速度は変わらない。

 だが盾を少しだけ下げ、膝を曲げている。

 早足で歩きながらだ。


 コボルトが短剣を振りかざして間合いに入った瞬間、一気にライバーが前へとダッシュした。

 3匹にまとめてシールドチャージをぶちかまして吹っ飛ばす。

 3匹とも生命反応が消えた。

 豪快というか何というか、俺にも真似できない業だ。


「強烈だよね、これって」

「コボルトは軽い、これくらい大したことねえ」

「いやいやいやいや」


 そんな事を話しながらでも移動速度は変わらない。

 分岐の別方向から来たゴブリンもフィンが特殊弓で動けなくする。


「今回は両手に特殊弓じゃないんだな」


 フィンはカペック平原の時と異なり、特殊弓は右手だけに持っている。


「先が長いから疲れないようにね。まだ2つ必要な状況ではないようだし」


「矢の数は大丈夫なの?」

「大丈夫だと思うよ。自在袋束に二千発近くは入れておいたから。この特殊矢は鉄製だから少し勿体ないけれどね」


「そんなに用意しているのか」

「他にこれより更に強化した矢も用意してあるよ。こっちはとっておきだから矢も500発分くらいだけれど」


 今の特殊弓でもクーパー達の最初のものより強化されている筈だ。

 これに強化した矢とはどれくらい強いのだろう。


 下手すれば今の俺以上にフィンの方が強いのではないだろうか。

 そんな気すらしてくる。

 フィンは攻撃魔法も近接戦闘術も得意としていないのに。


 結局、後方に反応があるオークやゴブリンが近づいてくるまでに第3階層まで通じる場所へとたどり着いた。

 やっぱりここも急斜面だ。


「笑っちゃうほどいいペースだよな。これなら今日だけで相当進めるぜ」

「だね。出来る限りどんどん行こう」


 モリさんがふっとため息をついた。

「どう考えても異常だよな、これって」


「いいじゃない。早く進めればそれで」

「そうそう。ガンガン行こうぜ」


 今回は前衛2人の言っている事が正しい。

 でもモリさんの気持ちはよくわかる。


 アルストム先輩達のパーティもこれくらいにチートなのだろうか。

 それとももっとたちが悪いのだろうか。


「それじゃ降りるぞ」


 第3階層への坂道を降りる。

 まだ洞窟状の、第2階層と同じような場所だ。

 魔物の数も同じくらい。

 だが今回はかなり厄介なのがいる。


「ライバー、今度は右に行って、左、左、真ん中。ただ今回はオークやエルダーオークが途中にいる。ライバーのシールドチャージでも倒せるけれど、もっと強い敵の為に余力はとっておこうと思うんだ。だから出たらまずアンジェ、魔法で攻撃頼む」


「もったいないよね。エルダーオーク、いい値段で売れるのに」

「今回は先を急ぐのが目的だからさ」

「わかっているって」


 第3階層でもうエルダーオークなんて出てくるのか。

 やはりここの迷宮ダンジョンはラトレの迷宮ダンジョンと違うなと思う。


「ラトレの迷宮ダンジョンは魔物を狩って調節したのかな。初めの方が弱く、進むほど強くなっていくように」


 フィンが歩きながらそんな事を言う。

 どうやら俺と同じ事を考えていたようだ。


「かもな。併せて階段なんかも整備したのだろう」


「でもそれなら階層主の部屋や罠部屋はどういう扱いなのかしら。今回は見る事が出来ないだろうけれど」


 確かにミリアの疑問ももっともだ。


「とりあえず進んでみて、此処を攻略してもわからなかったら聞いてみるしかないよなあ。知っていそうな人にさ」


 モリさんがそんな事を言う。

 この場合の知っていそうな人に該当するのは2名。

 モリさんが念頭においているのはやはりシャミー教官だろう。


 会話なんて討伐中とも思えない雰囲気だが、気を抜いている訳ではない。

 会話していてもこの階層について全てリアルタイムで把握している筈だ。

 少なくとも前衛2名以外は。


「もう少しで出るよ。今回は魔法で攻撃していいんだよね」


 アンジェがそう言うのが聞こえた。

 どうやらアンジェも走査が出来るようになったようだ。

 進化種スペルドの魔導士なのだから当然か。


 なら走査が出来ないのはライバーだけか。

 しかしライバーには走査とか索敵なんて必要ない。

 出てきた魔物に相手以上の速さで対応して、かつ力押しできる腕力と体力があるから。


「ああ。ただ火だと空気が悪くなるからそれ以外で頼む」

「熱線ならいいよね」

「問題ないと思うな」

「わかった」


 分岐から出てきたオークが見えた瞬間、アンジェが熱線魔法を起動。

 エルダーオークを含め3匹があっさりと動きを止め、倒れる。


 本来は急ぐから倒した獲物もそのまま放置。

 しかし今の俺は物質転送魔法も収納魔法も使える。

 討伐に影響が出ない程度なら大丈夫だろう。

 一応オーク等のお金になる獲物は収納しておこう。

 収納魔法に使う魔力は影響が出る程でもないし。 

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