119 迷宮攻略直前に

 土魔法で作られたらしい深い空堀と土塀で囲われた宿営地。

 拠点とはそんな感じの場所だった。

 シャミー教官が何やらバッチを見せると分厚い木製の門扉が開かれる。


「学校部隊2パーティ到着です」

「お待ちしていました」

 シャミー教官と共に俺達も頭を下げて中へ。


 塀の中は天幕4つと迷宮ダンジョンらしい洞窟の口。

 天幕は軍が使うような大型だ。

 そのうち1つへ教官を先頭に俺達は入っていく。


 中はちょっとした小屋並みの広さだった。

 中にはテーブル、椅子、簡易2段ベッド等。

 ベッド側は衝立で仕切れるようにもなっている。


「此処はヤトゥバの冒険者ギルドが臨時に作った拠点です。新規迷宮ダンジョンを発見したのが10日前、その後2日間でこの状態に設営したそうです。現在は職員2名と依頼を受けたC級冒険者6名が常駐待機しています」


 なるほど、それなりの体制にはなっている訳か。


「食事はヤトゥバのギルドで予め用意したものとなります。9時間で2食の計算です。なお学校部隊はここの天幕を使用することになっています」


 確かに簡易2段ベッドが人数分ある。つまりここで交代で寝るという事だろう。

 衝立もいくつか用意してあって、スペースを区切れるようになっている。


「それでは夕食にします」


 教官が自在袋からテーブル上に出していく。

 どうやら1人分ずつ器に入っているようだ。

 中身は鶏肉と豆中心の煮物とパン。

 品数は少ないが量は充分といった感じ。

 

「テーブルについてください。食べながら説明しましょう」


 皆が席について食べ始めてから教官は説明を始める。


「日程はギルドでもお話した通りです。夕食後すぐに寝て3の鐘半に相当する時間にハンスのパーティを起こします。


  ハンスのパーティは朝食をとった後、迷宮ダンジョン攻略開始。次にアルストムのパーティが昼1の鐘半で起床、食事。昼2の鐘で階層転移の魔法で移動し交代。ハンス達のパーティは戻ってきて食事、睡眠。


 以降この繰り返しです。なお睡眠時間は7時間とします。また睡眠、起床、階層転移は基本的に私の魔法で行います」


 なかなか厳しい日程だ。

 でも3日間で実働1日半なら何とかなるだろう。


「なお今回の迷宮ダンジョンは完全に新規です。ですから上層階に弱い敵、下層階ほど強い敵という一般的な法則が必ずしも通用するとは限りません。その辺は充分注意して下さい。


 また今回は内部の魔物を倒すことが目的ではありません。下層へ降りて迷宮ダンジョンマスターを倒す事。それが目的の全てです。避けられる戦闘は極力避けて先へ進む。その方針でお願いします」


 その辺は特にライバー、良く聞いておいて欲しい。

 まあ実際はモリさんが先導するだろうからむやみに戦う事はないだろうけれど。


「1階層降りる毎に伝達魔法での連絡をお願いします。また何かあった際も伝達魔法で私に連絡してください。私は常にここで連絡がとれる体制でいますから」


 つまり睡眠無しで待機するという訳か。

 シャミー教官お疲れ様というところだ。

 もっとも3日程度なら俺も回復魔法等で何とかなる。

 シャミー教官の実力なら心配する必要はない。


「以上です。それでは夕食が終わり次第、ハンス達のパーティは就寝準備とします」


 ここで早くも就寝か。

 微妙に物足りないが仕方ない。

 

 衝立でベッドの場所を3つ、3つに仕切り、更にテーブル側と仕切る。


「それじゃ私達はこっち側で着替えるから」

 俺達が使わないベッド側で女子3人が着替え、俺達はこっち側で着替え。


「ベッドの場所に希望はあるか」

「どうせ睡眠魔法で寝るなら特に無いだろ」

 確かにそうだ。


「でもライバーは下に寝た方がいいんじゃないかな。バランス的に」

「それもそうだな」

 これは6人の中でライバーだけ重量が突出しているだろうから。

 同様にモリさんも上段決定だろう。


「案外このベッド、しっかりしているわね。マットもそう悪くないし」

「その辺は拠点設営をしてくれたギルド様々ってところだね」

「フレームも鉄製だし、片側は板で補強しているしかなり頑丈な作りだよ。テーブルや椅子、天幕含めてかなりいい自在袋束が10枚綴り5束は必要だね」


 なんて話ながら6人が横になった後。


「それでは睡眠魔法をかけます」

 シャミー教官の台詞であっさり意識が落ちた。


 ◇◇◇


 ふっと目が覚める。これは魔法だな。


『あと1時間で着替えて朝食を食べて攻略開始です』

 シャミー教官から伝達魔法で追い打ちがかかった。

 とりあえず清拭魔法でさっぱりしてから衝立の向こう側へ。


 既にシャミー教官が食事をテーブルに並べてくれていた。

 朝食は豆スープ、パン、薄切りハム、サラダ。

 冒険者学校の朝食と似た感じだな。

 ひょっとして冒険者ギルドに食事の規定とかがあるのだろうか。


『この時間は他の天幕も寝ている人が多いので、伝達魔法で連絡します。グループ化しているので伝達魔法を使えない人でも会話可能です』


 うちのパーティは職業変更後、ライバー以外は全員伝達魔法を使えるようになった。

 つまりシャミー教官のこの措置はライバー用だ。


『さきほど迷宮ダンジョンの第1階層のみ、全域走査を行いました。

 第1階層の広さは概ね幅50腕100m、奥行き100200m程度。内部は洞窟状で寒くも無く暑くもない状態です。今の外と比べると大分暖かめですね。ですので最初は防寒装備を着装する必要はないようです。


 魔物はゴブリン各種、オークがハイオークまで、他にスライム各種といったところです。ただ第1階層のみ、広域電撃魔法である程度始末しておきました。ですので第2階層へはすぐに到達出来ると思います。ですが念の為第2階層まで行ったらハンスかミリア、私に連絡願います』


『わかりました』

 食べながらそんな連絡を聞く。


 それにしても広域電撃魔法か。

 ミリアなら雷精を使って出来るだろうけれど、俺はまだ使えない魔法だ。

 やはりシャミー教官、只者ではない。


 実は1人でこのくらいの迷宮ダンジョンなら何とかなるのではないだろうか。

 きっと何とかなるだろうと思う。

 俺達に攻略させるのはきっと教育の一環としてだろう。


 なら教官は俺達にここで何をみせるつもりなのだろうか。

 やればわかるのだろうけれど、その辺が少し気になる。

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