115 豪華な昼食材料

 流石にいきなり魔法で転送するのは難しい。

 街道から草原に入るまでの間では無理だった。

 認識して発動させ、駄目なららすぐ風魔法で回収。

 それを計15匹分繰り返した。


「そろそろ平原に入ろうか。そこの切れ目を左に。進行方向はマルエラ山山頂方向で」

「斜めに進むわけか。わかったぜ」


 平原に入って歩く速度が少し遅くなる。

 魔法を試すのに使える時間がほんの少しだけ長くなった。

 その分試すのに使える時間が増える。


 最初の牙ウサギを試してみる。

 ふっと対象が消えた。

 どうした、そう思った瞬間俺の足元に出現する。


 一瞬何が起きたかわからなかった。

 何も考えないまま牙ウサギを自在袋に入れて、そしてやっと気づく。

 物質転送魔法、成功だ。


 一度この感覚がわかれば次は問題ない。

 牙ネズミを右手に転送。

 そのまま自在袋へと入れる。


「あれっ、今、倒した牙ネズミが消えたような気がするんだけれど」

 フィンが気付いたようだ。


「物質転送魔法だ。練習していたんだがようやく成功した」

「何だそりゃ」


 ライバーが聞いてくる。


「物を移動させる魔法だよ。障害物とか全く関係なく一瞬で。実際に使った例は聞いたこと無いけれど」

「便利だなそりゃ。寮に忘れてきた物なんかある時は」


 フィンはこの魔法について知っている模様。

 ライバーはまあ平常運転だ。


「そうだハンス、その魔法で獲物を直接俺の前に持って来るなんて事は出来ないのか」

「生物には使えないよ。生物に対しては遠隔移動魔法を使う事になるね。本来は伝説級の魔法だけれど、夏に帰ってくる時に体験したよね」


「ああ、あの魔法の生物以外用か。でもその移動魔法って使えれば便利だよな。ハンスは使えないのか」

「まだ無理だな。もっと訓練しないと」

「そう簡単に使える魔法じゃないよ。本当は伝説級の魔法なんだよ」


 そんな会話をしつつも着実に小物を倒していく。

 ライバーとフィンの組み合わせでは討伐では魔法を使わない。

 ライバーはひたすら力で、フィンは前に聞いた機構理解メッカニスというスキルで。

 このレベルで魔法なし討伐が出来るというのはもう普通ではないよな。

 そう思いつつ俺は回収作業を続ける。


「小物ばかりだな。もっと大物はいないのかよ」

 

 進化して職業変更してもライバーには索敵能力はつかなかったようだ。

 狂戦士には必要ないからだろうか。


「もう少しで魔小猪イベルデミボアも出てくるよ。あと場合によってはオークが3頭出てくるかもしれない。その気ならもっと狩れるよ」


 フィンの言う通りだ。

 明らかにはぐれではないオークが森の中にいる。


 本来オークは小規模な群れで行動する魔物だ。

 だがゴブリンより高度な魔物で個体差も大きい。

 ある程度より弱いオークは群れに加われず、はぐれとなる。

 つまりはぐれでないオークははぐれより一般的に強い。


 俺が感知したオークの数は7頭。

 おそらくフィンも全部感知している筈だ。


「いいな、オーク。それじゃメインの前に前菜から行くとするか。魔小猪イベルデミボアはどっちだ」

「このまま真っすぐゆっくり進んで。そうすればちょうど前に出てくる筈だよ」

「おっしゃ! フィンもハンスも手を出すなよ。力だけで仕留めてやる」


 普通の冒険者では絶対無理だ。 

 体重15重90kg位ある、こっちに向かって走ってくる魔獣を盾で止めたら普通は腕の骨が折れる。

 しかしライバーならこの程度は問題ない。

 いつもこの辺、何だかなあと思わずにはいられない。


 ◇◇◇


 午前中たっぷり討伐した後。

 ミリアの伝達魔法で一度集合、昼食とする。

 場所は平原から街方向へ少し戻ったいつもの場所だ。


「オークも7頭狩ったら1頭くらい料理に使ってもいいよな」

「10頭よ。こっちにもいたから」

「そんなにいたのかよ」


 クーパー達が絶句している。

 無理もない。

 オークなんて出たら普通の冒険者パーティでは勝ち目はない。

 魔法や罠、遠距離攻撃等で時間を稼ぎつつ衛士隊等を呼ぶのがセオリーだ。

 万が一街にでも入られたら大惨事になりかねない。


 それが街からそう遠くないここカペック平原に、それも7頭もいたのだ。

 異常事態だと言っていい。

 しかし事故等の情報は冒険者ギルドに入っていない。

 と、いう事は……


「それなりの誰かが目を光らせているんでしょ。今まで何もなかったという事は。だからきっと問題ないわよ」

 

 ミリアの言う通りだろう。

 俺もそう思う。

 最低でも俺よりレベルが高い誰かが街付近の広域を走査して、問題が出ないよう対処なり何かしている。


 そしてきっとそれは公の、衛士隊とか冒険者ギルドとか街・国の機関等ではない。

 それらの実力をしのぐ力を持った、その癖無名の存在。


 この国には現在、勇者も賢者もいない事になっている。

 だが実際は俺は賢者だし、アルストム先輩も賢者かもっと上。

 シャミー教官に至ってはレベルが想像つかない。

 ミリアだってあと1年以内に賢者になれるだろう。


 俺の知っている範囲だけでもこれだけ例外事項がいるのだ。 

 これはきっと偶然でも例外でもない。

 国や公の関知していないところで、そういったレベルの連中が何人もいる筈だ。

 俺はその中にやっと入りかけた状態。

 きっとそんな感じなのだろう。


「よくそんなに自在袋に入ったな。ハンスのでもないのに」

「昨日ミリアが新しく自在袋束を買ったのよ。1袋にオーク1匹くらい入るのを10袋束ねた奴。相当高かったみたいだけれど」


「なら10頭もあるなら1頭くらい味見をしてもいいよな」

「ショーンがどんな風に調理するのか確かめたいよね」


 ミリアが苦笑している。


「仕方ないわね。1頭くらいならいいわ。ハンス、一番小さいのを出して」


 はいはい。

 俺は自在袋から見繕って1頭取り出す。

 一番小さいと言っても30重180kgくらいありそうな代物だ。


「よし、ちゃっちゃと解体しちまおうぜ。ショーン、モリさん、手分けしてやるぞ」

「そうなんだな。1人では大きすぎて大変なんだな」


「アンジェ頼む、凍らない程度の冷気で死骸全体を包んでくれ。私は解体に専念するからさあ」

「わかったわ」


「ところでミリア、参考までに聞くけれどその自在袋束、幾ら位したんだ」

正金貨10枚500万円程度よ」

「ひいっ」

 解体中のモリさんが聞いて悲鳴をあげる。


 この大陸がどうであれ、此処は平和だ。

 そしてこんな感じ、悪くない。

 そんな事を思いつつ、俺は3人がやたら鮮やかな手つきでオークを解体するのを眺めていた。

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