第30話 新しい迷宮
116 あるパーティの噂
1の曜日昼過ぎ。
俺達は西へと続く街道を歩いていた。
周辺は既に山道で、つい先ほどそこそこ高い峠を越えたところだ。
「あとどれ位でヤトゥバなんだ?」
「もう
本日の予定はヤトゥバの街へ行く事。
そこで先輩達のパーティとシャミー教官に合流だ。
今は行き帰りの行程に監督者はいない。
だから俺達のパーティだけで歩いている。
「それにしてもそんなに強いパーティなのか」
「今の2年生では最強らしい。私も先輩から聞いた話だけれどさ」
話しているのは合流する予定のパーティについてだ。
アンジェやモリさんが先輩達から情報を集めてきたらしい。
「5人編成で盾担当1人、槍1人、大剣1人、回復魔法1人、攻撃・補助魔法担当が1人。このうち大剣使いと攻撃魔法担当がやたら強いらしくてね。単独でもオークあたりなら余裕だって聞いた。2人とも既にB級だって」
「攻撃魔法担当以外は4人とも女子だってさ。でも変な噂は無いみたいだ」
うーむ。
「よくそんな情報仕入れてくるな。学年が違うのに」
俺としてはそう感じる。
「誰が強いとか何処のパーティが強いとかは結構話しているよね」
「だよな。卒業したら誰と組むかも重要だしさ。隙あらば強い奴を誘おうとしているところも多いしなあ」
「中には最初からのメンバーがだれ一人残っていないなんてパーティもあるよね。ミカルが最初いたところとか」
「あれは酷いよなあ。強そうなの引っ張りまくったら逆に自分達がパーティ出されてさあ」
うーむ。
「そんな事もあるのか」
「ハンスも結構誘われていると思うわよ」
ミリアにそんな事を言われてしまった。
「そんなおぼえはないな」
「1限の授業前なんて、よくルドルフやエレナに誘われているじゃない」
「あれは単に
「そうやって自分のパーティに取り込むのよ」
「そうなのか」
「常識よ」
全く気づかなかった。
「今では私達まで引き抜きの対象みたいだし。動くつもりはないけれど。このパーティ以上に魅力があるところなんて無いしね」
「モリさんもよく声をかけられているよな」
「ライバーもだろ」
「最近全然そういう話は無いぞ」
「俺と腕力勝負して勝ったらなんて条件をつけるからだろ」
「だって男なら最後は腕力だろ」
いつもと同じようなオチになってきたなと思う。
それでは本題に戻してやるとしよう。
「今回一緒にやるパーティ、少なくとも攻撃魔法担当の魔法使いは俺より強いしレベルも上だ」
「えっ、冗談だろ」
甘いなライバー。
「本当だ。少なくとも魔法ありで戦って勝てる気はしない」
「なんでそんな奴が冒険者学校の学生やっているんだよ」
ライバー、その辺人には色々事情があるんだ。
俺の場合とかミリアの場合とか。
言えないけれど。
「そう言えば思い出した。聞いた話だけれどね、今度一緒になるパーティ、確か最初は大剣使いと攻撃魔法使いの2人が勝負したところから始まったんだって。何か1年の最初に大勝負してね、その結果一緒のパーティになったんだって」
「私も聞いたなあ。確か魔法使いが大剣使いに言ったらしいよな。『まだ剣筋が甘いな』って。それで勝負になって、3回戦って3回とも魔法使いが勝って今のパーティになったってさ」
「そうそう。3回目は魔法なしの杖術で大剣使いをさばききったんだっけ。そっか、ハンスより強いんじゃ仕方ないよね」
おいおいアルストム先輩、そんな事をやったのか。
そう思ってすぐに考え直す。
アルストム先輩ならやりそうだなと。
勿論わざとというか計算尽くで。
その大剣使いさん、女子の筈だけれど髪は無事だったのだろうか。
言えないけれどその辺がかなり気になる。
「それって前に言っていたアルストムという先輩の事?」
「ああ。ミリアは試験の時に見たな。ラーダを回収していったあの先輩だ」
そう言って、思い出して付け加える。
「あとは最初の頃、カベック平原にはぐれオークが出た時だあるだろう。あの時俺と一緒にオークを倒した先輩だ」
「そう言えばそんな事もあったよね。私の方からは様子は見えなかったけれど」
確かにアンジェ達からは見えなかったかもしれない。
結構離れた場所だったし。
「うーん、そんなに強い奴なのか。戦ってみてえなあ」
ライバーは平常運転だ。
「やめた方がいいわよ。そもそもハンスにだって勝てる見込みある?」
「ハンスやミリアには勝てる気はしないけれどよ。他の人相手なら少しは何とかなりそうな気がする」
やっぱりここは注意しておくべきだろう。
後で聞いていなかったと言われない為にも。
「やめた方がいい。髪の毛が惜しくなければ」
「何だそれ」
「そう言えばラーダも試験の次の日、髪の毛が無くなっていたなあ。あれってそういう関係なのか?」
「その辺は俺も確答出来ない。だが世の中にはきっと知らなくていい事がある」
「何かラーダもそんな事言っていたらしいよね。あの時は試験に落ちた事だと思っていたけれど。ひょっとして何があったのか、ハンスは知っているの?」
アンジェの問いに俺は首を横に振る。
「わからない。ただ、わからない方がいい事もあると言っておこう」
とりあえず注意はした。
俺の責任はこれで果たした。
後はどうなろうと個人の責任だ。
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