第30話 新しい迷宮

116 あるパーティの噂

 1の曜日昼過ぎ。

 俺達は西へと続く街道を歩いていた。

 周辺は既に山道で、つい先ほどそこそこ高い峠を越えたところだ。


「あとどれ位でヤトゥバなんだ?」

「もう3離6kmってところかな。ブノールって村の手前で左の道へ曲がる。そこから1離半3kmだよ」


 本日の予定はヤトゥバの街へ行く事。

 そこで先輩達のパーティとシャミー教官に合流だ。

 今は行き帰りの行程に監督者はいない。

 だから俺達のパーティだけで歩いている。


「それにしてもそんなに強いパーティなのか」

「今の2年生では最強らしい。私も先輩から聞いた話だけれどさ」


 話しているのは合流する予定のパーティについてだ。

 アンジェやモリさんが先輩達から情報を集めてきたらしい。


「5人編成で盾担当1人、槍1人、大剣1人、回復魔法1人、攻撃・補助魔法担当が1人。このうち大剣使いと攻撃魔法担当がやたら強いらしくてね。単独でもオークあたりなら余裕だって聞いた。2人とも既にB級だって」


「攻撃魔法担当以外は4人とも女子だってさ。でも変な噂は無いみたいだ」


 うーむ。

 

「よくそんな情報仕入れてくるな。学年が違うのに」


 俺としてはそう感じる。


「誰が強いとか何処のパーティが強いとかは結構話しているよね」

「だよな。卒業したら誰と組むかも重要だしさ。隙あらば強い奴を誘おうとしているところも多いしなあ」


「中には最初からのメンバーがだれ一人残っていないなんてパーティもあるよね。ミカルが最初いたところとか」

「あれは酷いよなあ。強そうなの引っ張りまくったら逆に自分達がパーティ出されてさあ」


 うーむ。


「そんな事もあるのか」

「ハンスも結構誘われていると思うわよ」


 ミリアにそんな事を言われてしまった。


「そんなおぼえはないな」

「1限の授業前なんて、よくルドルフやエレナに誘われているじゃない」


「あれは単に迷宮ダンジョンへ一緒に行こうという誘いだろう」

「そうやって自分のパーティに取り込むのよ」

「そうなのか」

「常識よ」


 全く気づかなかった。


「今では私達まで引き抜きの対象みたいだし。動くつもりはないけれど。このパーティ以上に魅力があるところなんて無いしね」


「モリさんもよく声をかけられているよな」

「ライバーもだろ」

「最近全然そういう話は無いぞ」

「俺と腕力勝負して勝ったらなんて条件をつけるからだろ」

「だって男なら最後は腕力だろ」


 いつもと同じようなオチになってきたなと思う。

 それでは本題に戻してやるとしよう。


「今回一緒にやるパーティ、少なくとも攻撃魔法担当の魔法使いは俺より強いしレベルも上だ」

「えっ、冗談だろ」


 甘いなライバー。


「本当だ。少なくとも魔法ありで戦って勝てる気はしない」

「なんでそんな奴が冒険者学校の学生やっているんだよ」


 ライバー、その辺人には色々事情があるんだ。

 俺の場合とかミリアの場合とか。

 言えないけれど。


「そう言えば思い出した。聞いた話だけれどね、今度一緒になるパーティ、確か最初は大剣使いと攻撃魔法使いの2人が勝負したところから始まったんだって。何か1年の最初に大勝負してね、その結果一緒のパーティになったんだって」


「私も聞いたなあ。確か魔法使いが大剣使いに言ったらしいよな。『まだ剣筋が甘いな』って。それで勝負になって、3回戦って3回とも魔法使いが勝って今のパーティになったってさ」


「そうそう。3回目は魔法なしの杖術で大剣使いをさばききったんだっけ。そっか、ハンスより強いんじゃ仕方ないよね」


 おいおいアルストム先輩、そんな事をやったのか。

 そう思ってすぐに考え直す。

 アルストム先輩ならやりそうだなと。

 勿論わざとというか計算尽くで。

 その大剣使いさん、女子の筈だけれど髪は無事だったのだろうか。

 言えないけれどその辺がかなり気になる。


「それって前に言っていたアルストムという先輩の事?」

「ああ。ミリアは試験の時に見たな。ラーダを回収していったあの先輩だ」


 そう言って、思い出して付け加える。


「あとは最初の頃、カベック平原にはぐれオークが出た時だあるだろう。あの時俺と一緒にオークを倒した先輩だ」


「そう言えばそんな事もあったよね。私の方からは様子は見えなかったけれど」


 確かにアンジェ達からは見えなかったかもしれない。

 結構離れた場所だったし。


「うーん、そんなに強い奴なのか。戦ってみてえなあ」


 ライバーは平常運転だ。


「やめた方がいいわよ。そもそもハンスにだって勝てる見込みある?」

「ハンスやミリアには勝てる気はしないけれどよ。他の人相手なら少しは何とかなりそうな気がする」


 やっぱりここは注意しておくべきだろう。

 後で聞いていなかったと言われない為にも。


「やめた方がいい。髪の毛が惜しくなければ」

「何だそれ」


「そう言えばラーダも試験の次の日、髪の毛が無くなっていたなあ。あれってそういう関係なのか?」

「その辺は俺も確答出来ない。だが世の中にはきっと知らなくていい事がある」


「何かラーダもそんな事言っていたらしいよね。あの時は試験に落ちた事だと思っていたけれど。ひょっとして何があったのか、ハンスは知っているの?」


 アンジェの問いに俺は首を横に振る。


「わからない。ただ、わからない方がいい事もあると言っておこう」


 とりあえず注意はした。

 俺の責任はこれで果たした。

 後はどうなろうと個人の責任だ。

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